働き方の多様化やデジタル環境の充実により、オフィス以外の場所で仕事をする人が世界各地で増加し続けている。

アメリカでは2005年~2017年の間に、リモートワークをする人の数が2.5倍以上に増えたという。さらにフリーランスで仕事をし、属する企業やオフィス自体が存在しないという人の数も増え続けている。

このような流れの中で、アメリカでは住む場所としてだけでなく「リモートワークやフリーランスの活動に適しているかどうか」という切り口で、都市を分析・評価する動きが活発化。

これまでのイメージを覆す意外な都市が、「リモートワーク・フレンドリー」「フリーランス・フレンドリー」な存在として脚光を浴び始めている。

リモートワーカーにとって重要なWi-Fiスピード、カフェやコワーキングスペースの多さ

キャリアアドバイスサービスを手掛けるアメリカのOverheard on Conference Callsは、このほど「リモートワークに適した全米都市ランキング」を発表した。結果を見る前に、その評価方法を紹介しよう。

このランキングはリモートワーカーが重視する5つの項目で構成されている。まず「ワーク」要素としてネット環境、コワーキングスペース、仕事のできるカフェ、さらに「ライフ」要素として生活コスト、通勤時間だ。

この5要素を重要度の高い順に「Wi-Fiの平均速度」「人口一人当たりのコワーキングスペース数」「人口一人当たりのカフェの数」「生活コスト」「通勤時間を短縮できる度合い」として数値化し、加重平均でポイントを算出。アメリカで人口の多い上位50都市を対象にランキングを作成している。

リモートワークに適した都市全米1位はミズーリ州カンザスシティ


アメリカの中央部に位置するミズーリ州のカンザスシティ

このランキングで「リモートワークに適した都市全米1位」の座に輝いたのは、ミズーリ州のカンザスシティだ。人口約50万人のカンザスシティが位置するのは、ニューヨークのある東海岸からもシリコンバレーのある西海岸からも遠く離れた内陸部。

ちょうど地理的にも人口分布的にもアメリカの真ん中に位置するため、Heart of Americaという別名を持つ。

農業・畜産業が盛んで、ステーキやバーベキューという印象の強いカンザスシティが、なぜ名だたるテック都市を抑えて「リモートワークに適した都市」全米1位と評価されたのか、その一番のポイントはネット環境の良さだ。

カンザスシティのWi-Fi速度はアメリカで一番早いとも言われている。実は2012年にGoogleの高速インターネットサービスGoogle Fiberを、世界で初めて導入したのがカンザスシティで、現在では市街地の50区画以上に無料の公共Wi-Fiが整備されている。

カンザスシティは街をあげてスマートシティ化に取り組んでいて、充実した公共Wi-Fi以外にも、歩行者の動きを検知して対応する信号や街灯や、公共の情報キオスクの設置などIoT技術を駆使した街づくりが進んでいる。

生活コストの高いニューヨークやロサンゼルスなどの大都市は評価が低い


リモートワークに適した都市ランキング全米トップ10の立地

リモートワークに適した都市ランキングでカンザスシティに次ぐ第2位は、ユタ州のソルトレークシティ。評価項目の中でも特に生活コストの安さが、高評価の原動力となっているようだ。

その他トップ5には南部テキサス州からオースティンとサンアントニオ、東部ノースカロライナ州のローリーが名を連ねている。

反対にランキング最下位となり、「リモートワークに適していない都市」という不名誉な称号を得てしまったのは、テネシー州のメンフィス。生活コストは抑えられるものの、Wi-Fi速度が遅く、カフェやコワーキングスペースの数が少ないことが敗因となっている。

そして49位、メンフィスに次ぐワースト2と評価されたのがニューヨークだ。言わずと知れた全米最大の都市だが、まず生活コストが圧倒的に高く、人口一人当たりに換算するとカフェやコワーキングスペースの数でも平均を下回るレベルという結果だった。

同じ理由でロサンゼルスも43位と低位に沈み、テック都市の代表格であるサンフランシスコはWi-Fi・カフェ・コワーキングスペースの「ワーク」要素では8位につけているものの、生活コストの高さに足を引っ張られ総合では26位という順位になっている。

フリーランスに適した都市ランキングでも大都市圏から外れた中都市がトップに


フリーランスに適した都市ランキング全米トップ10の立地

もうひとつ似た切り口のランキングを紹介しよう。不動産情報サービスのNeighborhoods.comが発表した「フリーランスに適した都市ランキング2019」だ。

リモートワーカー向けランキングと同様、ここでもWi-Fi速度とカフェの数が主要な指標として使われている。

さらに生活コストの指標として1ベッドルームの平均家賃、所得税の高さ(アメリカでは州によって税率が異なる)が使われ、フリーランスならではの指標として「街の動き回りやすさ(徒歩・自転車・公共交通機関の利用を前提)」が加えられている。

全米150都市を評価対象にしたこのランキングのトップ30までに、ニューヨークやサンフランシスコは登場しない。1位2位となったのは、アメリカ北西部にあるワシントン州のスポケーンとバンクーバー。

いずれも人口20万人程度の都市だ。家賃と所得税が抑えられ、Wi-Fi速度とカフェの数、動き回りやすさの項目を高い基準で満たしている。

他にもトップ10にはフロリダ州からフォートローダーデール、オーランド、ハイアリア、タンパの4都市が、アリゾナ州からテンピ、スコッツデールの2都市がランクイン。テキサス州のサンアントニオはリモートワーク、フリーランス両方のランキングでトップ10入りを果たしている。

リモートワークのしやすさで都市を選ぶという考え方が広まるか

これらのランキングを見ていくと、就労場所として花形だったはずのニューヨーク、ロサンゼルス、サンフランシスコといったアメリカの大都市が、リモートワーカーやフリーランサーにとっては、もはや条件の良くない場所になっていることがわかる。

逆にあまり知られていない小~中都市が、リモートワークという切り口で見ると、とても魅力的な場所に変貌することもある。

これからビジネスの主軸になっていくミレニアル世代は、自分の働き方に高い自由度を欲する傾向が強い。

米メディアCNBCのレポートによると、ミレニアル世代のうち71%が職場の自由度の無さを理由に転職を検討し、28%が「より自由な働き方」(リモートワークが認められるかどうかなど)を手に入れるためなら、長期休暇をあきらめても良いと回答している。

アメリカに限らず全世界でリモートワークをする人は益々増えていくのは間違いない。その際に、今の生活圏を前提にリモートワークをするのではなく、リモートワークのしやすさで都市を比較し、住む場所を選ぶという発想がアメリカで、さらには日本でも広まる時が近づいているのかもしれない。

文:平島聡子
編集:岡徳之(Livit