英コンサルタント会社ブランド・ファイナンスはこのほど、2019年版の世界ブランド・バリュー・ランキングを発表した。

さまざまな指標からブランドバリューを算出したこのランキング、米テック企業が例年通りの強さを示し、前年から変わらぬトップ3は、首位を守ったアマゾン、2位のアップル、3位はグーグルで、いずれもブランドバリューを前年より増加させていた。

4位以下は、マイクロソフト、サムスン、AT&T、フェイスブック、ICBC、ベライゾン、中国建設銀行が続いた。

日本企業はトヨタ17位、NTT28位、三菱55位、ホンダが57位と自動車業界を中心に数社がランクインした。
 
このようなブランドの強さランキングは、毎年、日本国内外の複数の会社が発表するが、それぞれが用いる多様な算出方法により、ランクインする会社にも違いが生まれている。

日本国内のブランドの強さランキングで用いられることが多いアンケート方式をとっていないこのランキング。その方法論、そして上位企業を概観してみた。

ブランドの「稼ぐ力」にフォーカスしたブランドファイナンス社ランキング

日常的に多用する言葉「ブランド」だが、その強さをどのように分析するかはその響きほどシンプルではない。

ブランドマネージャー認定協会によると、「ブランド」は「製品名、パッケージング、広告、価格、使用経験などにより、その製品につけられた製品特性と価値(機能的および非機能的)とのユニークなコンビネーション。

消費者・顧客の目から見た場合、その製品を競合から差別化するもの」と定義づけられており、その差別化の結果、消費者のもつイメージを向上させ、また、従業員のやる気や忠誠心にも貢献すると考えられている。

ブランドバリューランキングは、上記のような定義を踏まえて、消費者やビジネスパーソンにブランドの認知度やイメージなどについて質問するという手法が取られることが多い。

しかし、ブランドファイナンス社の定義する「ブランドの強さ」は、ブランドがその差別化の結果、どの程度「稼ぐ力」を持っているかだ。

世界20カ国以上に拠点を置く企業ブランドコンサルティングのリーディングカンパニーである同社は、独自の専門家の分析に基づいて将来的にそのブランドがどれほどの利益を会社にもたらすかを算出し、順位づけをする。

各ブランドが最終的にどれほど「稼ぐ力」を持つのか、それにフォーカスしたランキングなのだ。

具体的な算出方法をみてみよう。まず、各企業のマーケティング投資、株主資本、ビジネスパフォーマンスからなる「ブランド力指数」が専門家による分析の上、算出される。

次に、その「ブランド力指数」に各業界の特性を加味し、「ロイヤリティレート」が算出される。つまり、そのブランドを企業が所有していない場合、その使用にどの程度の対価を支払わなければいけないか、ということが導き出される。

そして、そのブランド固有の予測収益を計算し、ロイヤリティレートを計算に反映、それをもとに、最終的なブランドの強さが算出される。

シリコンバレーの存在感。上位を独占する米テック大手企業

そんなブランドの「稼ぐ力」を重点的に評価したこのランキングでは、テック企業が圧倒的な強さを示し、上位10企業のうち6社を占めただけでなく、業界別ブランドバリューでは全体の23.7%を占めてトップとなった。

それをうけ、必然的にイノベーションが生まれる場として名高いシリコンバレーを有するアメリカの企業が上位に多くランクインしていた。

主にシリコンバレーを拠点とする米テック大手には、あらためて言及するまでもないが、非常に多くの強みがある。

失敗を否定せずむしろ評価する、スキル重視・実力主義といったイノベーションカルチャーだけでなく、世界中から最も優秀な人材が集まる場であり、スタンフォード大学・カリフォルニア大学バークレー校などの世界トップクラスの大学や各IT先進企業の研究所などが新たなテクノロジーを生み出し、それがビジネスに迅速に反映される。


多くの米IT企業が起源とするカリフォルニア名門スタンフォード大学

そんな米最先端企業の一つ、もとはオンライン書店からスタートした一位のアマゾンは、いまや、ありとあらゆるものを売るショップとなった。音楽ストリーミングサービス、ミュージックアンリミテッドの利用者は、3,200万人、有料ユーザー数は前年比70%増と大幅成長している。
 
今年に入ってからは、ユーザーの好みに合わせた商品を的確に提案するディスカバー、洋服を試着できるプライムワードローブにパーソナルショッパーサービスを追加するなど、さらに新しい買い物体験を創り出している。
 
2位のアップルは熱狂的なファンーー「信者」とすら呼ばれるーーを多数抱えていることで知られる。フォーブスのブランドランキングでは9年連続一位となっている同社だが、こちらのランキングでは、巨大なマーケットである新興国で苦戦が続いていること、また主要サービスの多様化に苦戦したことでアマゾンに首位を譲った。

3位グーグルは、欧州委員会により独禁法違反の14億9,000ユーロの制裁金を科され、2017年からの累計が82億5,000万ユーロにも達するという状況ではあるものの、グーグルマップなどをはじめとした、もはや生活必需品となっている様々なITサービスを展開し善戦、来年は2位に浮上するのではないかと予測されている。

米テック企業からは他にも7位のフェイスブックの他、インテル、オラクル、デル、シスコシステムズ、ウーバー、ネトフリクス、インスタグラム、ユーチューブが100位以内にランクインしていた。

アジアから強いプレゼンスを示す中国企業。車業界が占める日本の上位企業

米テック企業の圧倒的な強さと同時に目立ったのが、中国のテック企業の躍進だ。

独自OSの発表が話題となっているファーウェイが12位、メッセンジャーアプリのウィーチャットが20位とベスト20入りを果たした他、インターネット関連サービスのテンセントが21位、オンラインモールの23位タオバオ、35位ティーモールがランクインした。


オンラインショッピングで中国発ネット小売企業が存在感を増す

巨大な人口を抱える中国はネット小売のマーケットとしても大きいのだが、昨年のアマゾンのマーケットシェアはわずか0.6%と、国内企業が圧倒的な強さを誇っている。

日本企業の中で最上位のトヨタは17位で、自動車業界では13位のベンツについで高い順位となっていた。

トヨタは、外国車が苦戦している中国市場でも、昨年新車販売台数を14%増やすなど、国際市場で強いブランド力を発揮している。

CEOを評価したブランドガーディアンランキングでは、アメリカ、中国企業CEOがほとんどを占める中で、トヨタ豊田章男氏は1位のアマゾンのジェフ・ベソス氏についで2位にランクインしており、母校バブソン・カレッジで行なった卒業式スピーチが海外でも話題となるなど、国内外で人気の高い豊田氏が率いる同社はブランドとして「稼ぐ力」でも強さを見せた。
 

トヨタ社長スピーチ トヨタイムズ公式チャンネルより
 
かつての1位、世界最大のスーパーマーケットチェーン、ウォールマートが初めてトップ10から転落し、テック企業が席巻した2019年ブランド・ファイナンス社ブランドバリューランキング。

業界ごとのブランドバリューでは、小売業はもはや6%でしかなくなった一方で、アマゾンが一位、中国のオンラインモール2ブランドが突如50位以内に出現するなど、世相を反映したダイナミックな「強いブランド」の移り変わりから、今後も目が離せない。

文:大津陽子
編集:岡徳之(Livit