年間4億本以上売り上げるアイスがある。それは日本中の誰もが知っている、あの“ガリガリ君”だ。1980年から商品開発が始まったガリガリ君は2019年の現在まで、数あるアイスの中から選ばれつづけるロングセラー商品だ。

では、ガリガリ君がここまで愛され続けているのには、一体どんな理由があるのだろうか?

今回、愛される商品づくりのヒントを聞いたのはガリガリ君のマーケティングを手がける、赤城乳業営業本部、マーケティング部の係長である岡本秀幸氏だ。岡本氏に“ガリガリ君”というブランドが構築されるまでの経緯、そして長く支持される商品づくりの秘訣を尋ねた。

“ガリガリ君”というブランドが構築されるまでに、何をしたのか

はじめに岡本氏にガリガリ君というブランドを構築した、現在までの経緯を聞いた。

岡本氏 「まず2000年にガリガリ君のパッケージのデザインを変えたことは大きいです。

元々は絵の上手い社員がガリガリ君を書いていました。しかし以前の時はガキ大将のようなイメージで作っていたので、3万人ぐらい消費者調査をした時に、特に女性の方から汗が泥臭いや歯ぐきが汚いなどのネガティブな意見がありました。

そこで2000年にデザインをリニューアルすることになり、外部のデザイナーさんも呼び、ガリガリ君をもっと、万人受けというか、女性にも愛されるようなデザインにして今の小学生のようなキャラクターになりました。

またその時同時にプロモーションも始めたので、2000年はパッケージが変わり、またそれに連動したテレビCMを流した、大きな転換期でした」


デザインをリニューアルした2000年発売のガリガリ君

転換期であった2000年、ガリガリ君は年間1億本を達成し、今も売上は伸びつづけているという。

岡本氏 「ガリガリ君シリーズの売上は現在年間4億本ぐらいで、右肩上がりに伸びています。売上が伸びつづけているのには色々理由がありますが、まず多種多様なフレーバー、シリーズを出していることが挙げられます。

ガリガリ君シリーズは元々夏が強いのですが、春や秋冬にももっと食べてもらいたく、中身がクリープタイプのものや、ミルクが入っているタイプなども作っています。またガリガリ君のフレーバーの種類も増えていき、今では140種類以上あります」

また岡本氏は赤城乳業ではコンビニという売り場環境に合わせた商品展開も行なっていると語った。

岡本氏 「現在赤城乳業はコンビニのシェアが非常に高いです。もともとアイスメーカーは自社の冷凍庫を持っていて、その冷蔵庫がある店舗に卸していくシステムだったのです。

当時その機能がなかった赤城乳業は、全体的にシェアが低いままでした。しかしコンビニが出てきた時から、一緒に商品開発などをしてアイスも置いてもらうようになり、シェアが高くなりました。

しかしコンビニには毎週商品が入れ替わる厳しい側面もあります。売り場では火曜日に新商品が入るのですが、コンビニをターゲットにする場合、年間52週商品が入れ替わるタイミングがあるため、赤城乳業ではガリガリ君以外でも色んなフレーバーを出し、また“ガツン、とみかん”など、色々な種類のアイスを発売するようにしています。コンビニという売り場環境に合わせて進めている、商品展開の裏側があります

消費者とガリガリ君の”タッチポイント”を増やす秘密

岡本氏からは消費者とガリガリ君の接点を増やすため、“タッチポイント”を増やすよう工夫しているという言葉があった。では具体的にどのような施策を打っているのか、詳しく話を聞いた。

岡本氏 「スーパーやコンビニにガリガリ君を置いているだけだと、どうしてもお客さんの目に触れる機会は少ないです。そこで人気キャラクターとのコラボレーションなどの施策を行なっています。サッカー日本代表、ポケモン、くまモンなどが代表的ですが、他にも多くのコラボレーションを行なっています。


ポケモンとのコラボ事例 ©Nintendo・Creatures・GAME FREAK・TV Tokyo・ShoPro・JR Kikaku ©Pokémon ©2019 ピカチュウプロジェクト

また以前には“箱根小涌園ユネッサン”という温泉テーマパークで、ガリガリ君のソーダ風呂やコーンポタージュ風呂を作ってもらったことがあります。あと当時小学生に人気だった月刊コロコロイチバン!でガリガリ君の連載をしたこともあります」


ガリガリ君のソーダ風呂コラボ

しかしコラボレーションをすることの意図はタッチポイントを増やすこと以外にも“社会貢献”という理由があると岡本氏はいう。現にくまモンとのコラボレーション商品である「ガリガリ君 九州みかん」の売上の一部は熊本地震復興支援として寄付されるようになっている。

岡本氏 「社会貢献から生まれたコラボレーション商品があります。くまモンとコラボレーションしたパッケージの商品「ガリガリ君 九州みかん」は売上の一部を熊本地震の復興のために寄付するようにしています。

また去年の4月には北海道、東北、中四国、九州の4エリアで、その地方にしか売っていない限定のガリガリ君を発売しました。地方限定のガリガリ君をつくることで、その場所に行って買うお客さんが生まれれば地域貢献ができるのではという思いがありました。

このように社会貢献をしようと思ったきっかけは、ガリガリ君が60円から70円に値上げした時、それでもお客さんから支持をしていただいた、応援するよと言っていただいたことが大きいです。赤城乳業はいただいた恩を返そうと思っています」

またコラボレーション商品の展開だけではなく、さらにタッチポイントを増やすための施策として、ガリガリ君のファンが参加できるコミュニティ、“ガリガリ部”の活動も行なっているという。


Facebook上で活動を行っている“ガリガリ部”

岡本氏 「2006年より青春時代に食べていた思い出をもう一回作ろうというコンセプトで、“ガリガリ部”という活動を行なっています。年に1回イベントもして、日帰り合宿などもしています。去年だと本社に来てもらい、ガリガリ君の歴史を知ってもらったり、また新作を先に食べてもらったり、そういう体験ができるコミュニティづくりをしています」

夏以外の季節の工夫とは?新シリーズ・フレーバーの秘密

夏にアイスの需要が高まり売上が伸びるのは当然のことだが、赤城乳業では夏以外の季節、春や秋、冬にもガリガリ君シリーズを食べてもらえるよう様々な工夫を施している。

岡本氏 「夏以外の季節にもガリガリ君シリーズを食べてもらいたく、その施策の一つに“ガリ子ちゃん”があります。ガリガリ君は中身がかき氷ですが、ガリ子ちゃんの中身はシャーベットです。冬にもそんなに高くない値段でアイスを食べてほしいと思い、ガリ子ちゃんを作りました。最近では『やわらか白いサワー』や『5種類のフルーツミックス味』などを、11月や1月といった冬の時期に発売しました。


2017年発売 ガリ子ちゃん 5種類のフルーツミックス味

実は、ガリガリ君シリーズは夏以外の季節に伸び代があります。春や秋冬の方がガリガリ君の面白い、新しいフレーバーを発売しています。冬とかはガリガリ君ではない、他のアイスを買おうとなりやすい傾向があります。そのためこの味はあまり見たことがなく美味しそうだから一回食べてみたいなと感じてもらえる、新しい味に挑戦しています。

ガリガリ君で大事にしているのは、駄菓子屋の前とかで食べてみんなでワイワイできるような世界観です。ご褒美として食べるアイスというよりも、話のネタになるアイスを目指しています。リアルな世界でのコミュニケーションが生まれるアイスにしたいんです。このような思いが春や秋冬などはコーンポタージュ味といった面白い味を発売するなど、様々な味を出すところに繋がっています」

さらに赤城乳業ではこれまで以上に多くの女性にガリガリ君を食べてもらうため、“大人なガリガリ君シリーズ”を展開している。

岡本氏 「消費者調査などで分かったのが、女性の場合ガリガリ君のパッケージを見られるのが恥ずかしいという思いがあることです。

そのため新しいシリーズである“大人なガリガリ君シリーズ”では、パッケージのガリガリ君が小さくなっているものを発売しました。またもっとアイスが美味しそうに、品質感を感じるようにフルーツのシズル感などが全面に出るようなデザインにしました。


2019年発売 大人なガリガリ君 和梨味

大人なガリガリ君シリーズは今年の4月に『パイン』、6月には『和梨』を発売しましたが、定番のガリガリ君の『ソーダ』を買ってない人も買ってくれる現象が起きており、今非常に間口が広がっており、売上は好調です。

そして今、大人なガリガリ君シリーズを買っている人たちが最終的にはガリガリ君の『ソーダ』を買うようになってほしいという思いがあります。まずはいろんな味を試しながらガリガリ君に触れてもらって、最終的には定番の『ソーダ』を食べてもらいたいです」

心がけているのは“わざとらしくしない”プロモーションの秘密

岡本氏はガリガリ君のPRではお金をかけずに、知恵を使ってやっていると語った。現に新商品発売のニュースリリースも外部のライターに発注せず、自身で書いているという。

また岡本氏はガリガリ君を売る時、“わざとらしくない”ことを大切にしていると言った。

岡本氏 「ニュースリリースでの発信の目標も、皆が知っているYahoo!トップに載ることが狙いにあります。Yahoo!はよく見られているニュースサイトなので、動線としてはニュースリリースを発信して、そのリリースをメディアに取り上げもらい、話題になってYahoo!トップに載るという、王道を目指しています。

またガリガリ君では広告を沢山出す施策ではなく、面白いフレーバーやネタとかで盛り上げながら、色々裾野を広げてやっていく感じです。赤城乳業は大手企業ではないので、独自のアイディアを出し、口コミで話題が広がるよう工夫しています。お金をかけるよりも知恵を使っています」

最後にガリガリ君のような長年愛される、ロングセラー商品をつくるのに必要なこととは何か、岡本氏に尋ねた。

岡本氏 「気を付けているのはお客さんが嫌に感じるであろうことはしない、ということです。特定のコミュニティであるガリガリ部は作っていますが、ファンの人たちの所に赤城乳業の我々が直接介入していき、内輪で楽しむようなことはしないようにしています。

ガリガリ君の売り方として、“わざとらしくしない”ということを、非常に気を付けています。定番の『ソーダ』だけではなく、面白い味とかを出して楽しんで食べてもらえるように、下からの姿勢で、ガリガリ君をいじってもらえるようにしています」

一回きりのヒット商品を出すことに成功しても、ロングセラー商品を生み出すことは容易ではない。愛されつづけるには、変わりつづけるトレンドや時代に打ち克つ必要があるからだ。

ガリガリ君が愛されつづける理由。それは消費者に対して”誠実さ”があることだ。消費者が嫌だと感じるようなわざとらしい手法は選ばず、面白く、楽しませることを念頭に置いてガリガリ君を売り出している。

アイス業界のムードメーカーのロングランヒットはまだまだつづきそうである。

取材・文:片倉夏実
写真:西村克也