国内で月間8,000万人が利用するメッセージングサービス「LINE」が、AI事業のロードマップを発表した。LINEが保有するAI技術をチャットボットや音声認識などの製品として、「LINE BRAIN」の名称で外販していくという。


LINEがAIソリューションサービス事業を拡大へ

今後、AIのビジネス活用が進むことは明らかだが、その開発競争ではGAFAを始めとするグローバル企業が先行している印象が強い。果たしてLINEに勝算はあるのだろうか。

AIのビジネス活用、人手不足が追い風に

LINEは6月に開催した「LINE CONFERENCE 2019」などのイベントにおいて、AIを活用した事業の拡大を表明してきた。単に自社のサービスでAIを活用するだけでなく、外部のユーザー企業やソリューションを開発するパートナー企業に向けて販売していくのが「LINE BRAIN」事業だ。


LINE 取締役 CSMOの舛田淳氏

AIのビジネス活用において有望な分野として、人手不足問題への対策が挙げられる。その中でも、確実に時間を取られるのが電話応対だ。顧客からの電話応対をAIで自動化できれば、仕事における時間の使い方が劇的に変わることは間違いない。

これまではSFの世界の話だったが、LINEが開発を進める「DUET」はそれを現実のものにしようとしている。相手の声を聞き取る「音声認識」、質問に答えを出す「チャットボット」、相手に伝える「音声合成」を組み合わせたシステムで、まずは飲食店の電話予約に特化していくという。


AIが生身の人間のように電話応対する「DUET」の仕組み

人手不足に悩む飲食店にとって、電話に出ている間は接客がおろそかになってしまう。営業時間外には対応できず、機会損失になるのも残念だ。忙しい店員の代わりにAIが電話に出てくれれば、もっと人間にしかできない仕事に時間を割けるようになるだろう。

海外では、グーグルが2018年にAIによる電話応対「Duplex」を発表し、注目を浴びたことがある。これまで、こうした最先端のAIサービスは英語で開発され、米国などから展開することが当たり前だったが、LINEはここに勝機を見出している。

LINE BRAIN事業を統括する砂金信一郎氏は、「英語圏ではなく日本語、アジア言語にフォーカスする」と明言する。アマゾンやグーグルも、日本語には積極的に対応しているとはいえ、英語に比べれば動きは遅い。LINEの「日本市場に特化できる」という戦略は、GAFAに対抗していく上で強みになりそうだ。


LINEのAIは日本語とアジア言語にフォーカスする

国内市場に密着したパートナー連携に可能性

LINE自身が提供するサービスの中でも、AIの活用は進んでいる。LINEが音声アシスタントとハードウェアの両方を開発した「Clova」は、同社のAI事業のベースにもなっている。


LINEのスマートスピーカー「Clova」

もっと地味なものもある。LINEのユーザーサポートではAIチャットボットが対応し、基本的な質問に回答している。音楽のプレイリストを他社サービスから取り込む機能は、画面のスクリーンショットを文字認識(OCR)することで実現している。

今後、AIの活用があらゆる業種に広がっていく中で、1社ですべてをカバーできないことはLINE自身も認めており、パートナーを募っている。国内のビジネス環境を熟知し、パートナーと密に連携できることはLINEのもう1つの強みになりそうだ。

LINE BRAINが提供するAI技術を活用するには、大きく分けて2つの方法がある。それらのAIサービスを直接利用するユーザー企業と、LINEのAI技術を活用したソリューションを開発するパートナー企業だ。

ただ、AI技術は買ってくればすぐに使えるというものではない。チャットボットひとつ取っても、質問と回答のデータベースを用意するなど一定の作業が必要になる。そこでLINE BRAINでは、AIの専門家がいない現場でも使いこなせるよう、専用のツールを提供するという。


LINE BRAINのチャットボットができることの例


専門家やエンジニアなしにチューニングできるツールを提供する

ソリューションビジネスの可能性も広がっている。音声認識などの技術をゼロから開発するには、専門の人材を集める必要があるなどハードルは高い。だがLINE BRAINを利用すればAIの難しい部分はLINEに丸投げできるため、一般的なシステム開発と同程度の知識でソリューションビジネスを展開できることになる。

LINE BRAINは2020年の一般提供に向けて、開発や実証実験を進めていくという。近い将来にはAIを用いた画期的なサービスが次々と登場し、それを裏で支えているのは実はLINEだった、という事例が増えるかもしれない。

取材・文:山口健太