今や国内労働人口の17%をフリーランスが占める時代となっており、今後ますます「個」として活動していく人が増えていくことが予想される。そして、「個の時代」だからこそ、生きていくために、仕事を得るためにも、人との繋がり、すなわち“人脈”が重要視されるだろう。

この人脈を広げる上で、“サロン”“ミートアップイベント”“コミュニティ”新しい方法や手法が登場しつつある。

そこで今回は、2016年にサービスが開始されたビジネスマッチングアプリ「yenta」を取り上げる。普段繋がる機会のない人同士を繋ぎ、「ビジネスを加速させる出会い」をコンセプトに作られた同アプリは、現在200万以上のマッチング数を誇っている。

人脈を作るためのサービスが多く存在する中で、マッチングアプリはどのような価値があるのか。そして、マッチングアプリをどのように活用していくことで、人脈が形成できるのか。

株式会社アトラエの取締役 CTO兼yenta開発責任者 岡利幸氏にお話を伺う。

カジュアルにビジネスの人脈を広げるマッチングアプリ「yenta」

ーーもともと転職サイト「Green」のイメージが強いアトラエですが、なぜマッチングサービスの「yenta」を展開していこうと考えたのでしょうか?

岡:カジュアルに人脈を広げられるサービスがほしいと感じたからです。

誰がどんな会社で、何をやっているかという情報って、日本では調べても出てこないことが多くて。アメリカやインドでは、Linkedinのデータベースから情報収集をすることが主流になりつつありますが、日本ではLinkedinの利用者がほとんどいない。

そのため、自分が知りたい知識や技術を教えくれる人と接点を持つことが困難なんです。もし仮に見つけることができても、会って話を聞くというのもハードルが高いですよね。

ーー確かに、こちらは興味あるけど、相手が興味あるとは限らないですもんね…。

岡:だからこそ、興味ある者同士がライトに結びつく場としてyentaを作ろうと思ったんです。

ビジネスの課題、事業のアイデア、キャリアの形成などを色んな人とディスカッションすることで、その人にしか持ち得ない経験や情報がどんどん自分の中に蓄積されていく。一人で考え込むより、色んなエッセンスや刺激が入ってくることで視野が広がる。そういった人と繋がることで得られる様々な可能性を増やしていきたいとも思いました。

ライトな繋がりこそ素敵な偶然に出会える可能性を秘めている

ーーサービス開始から3年半程経過しましたが、今までどれくらいのマッチングがあったのでしょうか?

岡:累計マッチング数は200万件を超えてます。
今はまだ都内だけで利用するアプリですが、この3年半の間で200万以上の繋がりが東京で出来上がっていると思うと、かなり大きい数字だと感じてますね。

ーーユーザー層に関してはいかがでしょうか?

岡:年齢は20代後半〜30代前半がメイン、性別は男性が8割ですね。職種に関してはかなり幅広くて、経営者、マーケ、営業、エンジニアなど満遍なく利用して頂いています。


yenta ユーザー属性

ーーこれだけ色んな方達に使ってもらってると、マッチングの「質」はどうなのでしょうか?

岡:9割近くは良い評価を頂いてます。
yentaでは、マッチングして会った後に「会ってどうだったか」のレビューをユーザーの皆さんに入れてもらってます。星5が最高値で、星4〜5は質が高いマッチングだったと社内では定義づけているのですが、その数値が約9割。そのうち、星5の評価は8割なんです。

ーー素晴らしい数値ですね。ちなみに、どういった利用用途が多いのでしょうか?

岡:本当に色々な用途で利用してもらっていて。ビジネスに関する情報交換をする場合もあれば、キャリア形成として利用する場合もありますし、この幅広さが良いとも思っています。

利用目的を決めすぎてしまうと、「お互いの目的を満たすために会う」といった損得勘定が生まれる可能性があります。一方で、「興味がある」くらいのライトな繋がりは、予想外の発見に繋がる可能性を秘めているんですよね。

実際に、yentaでマッチングしたユーザー同士で起業をした人や、エンジェル投資してもらうことになった人、仕事を手伝うことになった人、フリーランスの道に進み始めた人…これらの人たちは最初から起業したい!フリーランスになりたい!とは思ってなくて、繋がりがキッカケとなって新しい道に進んだ。そういう可能性を秘めているからこそ、あくまでもyentaは「キッカケ」であることが重要だと思っています。

新しい出会いへのハードルの低さがメリット

ーーイベントやSNSなどでも人と繋がれる機会はあると思うのですが、そんな中でマッチングサービスを利用するメリットって何でしょうか?

岡:大きく2つあると思っていて、1つは自分に合いそうな人を探す手間が省けること。yentaでは、毎日お昼の12時になるとAIがオススメの人を10人選出してレコメンドしてくれます。自らが探しに行かなくても自動で小さなインサイトを促すことが可能です。お互いの小さな興味から繋がりが生まれるという気軽さは、イベントに参加したりSNSを利用して会ったりするよりハードルが決定的に低い。

2つ目に、最初から両思いという前提で会えること。
イベントやSNSなどの場で話しかけること、仲良くなることって難しいですよね。なぜなら、そこで出会った人が必ずしも自分に興味があるかは分からない上に、自分の情報を明確に伝えられないことも多い。

yentaでは、自分の情報が明確に記載されているし、スワイプ一つで相手に興味を伝えることができる。そのハードルの低さもメリットだと思います。

ーー新しい人と繋がるまでのハードルの低さがyentaの魅力なんですね。実際に会ってみてからのマッチングアプリならではのメリットはありますか?

岡:シンプルに、興味ある人同士で会うとコミュニケーションが盛り上がるということ。イベントやSNSで出会った人だと最初はどうしても気を使い合ってしまうけど、興味ある者同士なら最初から仲良くなりやすいのが、会ってからのメリットですね。

人脈を広げるために重要な「ギブアンドテイク」の精神

ーーyentaを利用して人脈を広げていく上で、どのように自分の価値をアピールすれば良いでしょうか?

岡:マッチングするまでと、マッチングして会った時、この二つのポイントを押さえておいた方が良いと思っていて。

まず、マッチングするまで。
これは言わずもがなプロフィールが重要です。レコメンドで表示される時、カード形式になっていて、そのカードをタップすると詳細情報が見れるようになってるため、カードの冒頭で表現できるような紹介を心がけると良いと思います。

特に、写真と自己紹介文は自分というキャラクターを見せることができます。文章は長さより密度の濃さを意識してみてください。そして、自分自身が人からどう見られたいか、さらにどういうブランディングをしていきたいのかといった用途を考えてみましょう。

また、自己紹介文にはギブアンドテイク両方の側面が書いてあることも重要です。自分が提供できる価値の記載と、なぜyentaを利用してるのか、yentaを利用してどんな人と出会いたいかが記載されていると右スワイプされやすくなります。

ーー では、マッチングして会った時はいかがでしょうか?

岡:テイクばかりにならないことです。
yentaでは、年齢や職種が全く違ったとしても、ユーザー同士には対等な関係性を作ってほしいと思っています。

そのギブアンドテイクの世界観があるため、自分の話ばかりだったり(終始営業の話とか)、相手から情報をもらうことばかりだったり、そういうギブのない人は次に繋がりづらいです。

yentaは『個の時代』を生きるためのソリューション

ーー今回のテーマである「個の時代」に向けて、yentaをどのように活用していけば良いと思いますか?

岡:自分自身が成長するためのデータベースとして、yentaを活用してほしいですね。個の時代とはいえ、自分の一人の力では成長に限界があると感じてます。個が活躍し続けるためには、常に情報のアップデートが必要です。しかし、時間も限られていることもあり、自分一人では新しい情報のキャッチアップに限界がある。

しかし、yentaでの繋がりをデータベースにすることで、外部ブレインがたくさんいる状態になります。情報をアップデートする速度も、知りたい情報をキャッチアップする速度も、その外部ブレインを活用すれば早いペースで仕入れることができる。そういった繋がりがあるのは「個」が成長する上で、とても大きな資産になると思います。

ーーなるほど。ネットでは知り得ない情報を手に入れることができる可能性もありますね。

岡:そうなんですよね。
起業、事業立ち上げ、キャリア、働き方など、「個」が直面する悩みのソリューションって思っている以上にネットには落ちていなくて。

でも、マッチングサービスは、そこに詳しい人、近しい人、経験したことがある人と出会えるので、リアルなソリューションの場としても活用できます。

人が経験から得た価値観や考え方自体、ネットで得られる情報ではないです。そういうリアルでしか知り得ない情報を上手く活用することで、「個」としての立ち位置を見つけることもできます。

よりリアルな情報を収集するためにも、企業だけでなく個人でもマッチングサービスをカジュアルに活用してほしいと思います。

取材・文:阿部裕華
写真:國見泰洋