「個の時代」の到来が叫ばれて久しい。企業に縛られない働き方やキャリアの実現を目指し、誰もが不確実な人生を模索する時代が訪れつつある。2016年に刊行されたベストセラー『LIFE SHIFT』では、人生100年時代をサバイブするためには多様な人的ネットワークを築きながら「変身」を続けることが必要だと説いている。

こうした潮流の中で、新たなコネクションづくりの場として注目を集めているのがオンラインサロンだ。時間や場所を超えて繋がるのことができる会員制コミュニティは、若い世代を中心に会員数を伸ばしている一方、その意義やリスク管理に疑問の声も寄せられている。

賛否両論のオンラインサロン。そのあり方を問うべく、500を超えるオンラインサロンを掲載しているDMM オンラインサロンの一栁(ひとつやなぎ)氏と広報の常見(つねみ)氏に話を聞いた。

一栁 政志
合同会社DMM.com エンターテインメント本部 オンラインサロン事業部。Web広告代理店を経て、2016年にオンラインサロンサービスを提供するシナプス株式会社へ入社。2017年に同社をDMMが買収し、現職に至る。現在はサロンの運営サポートや広報活動に従事。
常見 真希
合同会社DMM.com コーポレートコミュニケーション室 広報。マーケティング本部所属を経て、2018年10月にコーポレートコミュニケーション室設立に伴い、現職に至る。オンラインサロンをはじめ、DMM.comグループ内のエンターテインメント領域事業の広報活動に従事。

オンラインサロンは定義なき「レンタルスペース」

――まずお聞きしたいことが「そもそもオンラインサロンとは何か」ということです。オンラインサロンの活動内容は多岐にわたりますが、どのように定義しているのですか?


合同会社DMM.com 一栁 氏

一栁:オンラインサロンには「こうあるべき」という明確なルールはありません。サロンのオーナー(主催者)がそれぞれ運営スタイルを定めているので、おっしゃる通り、会員同士が活発に議論するサロンもあれば、メールマガジンの延長線上として情報発信を行うサロンまで様々です。

私たちプラットフォーム側はあえて定義を設けず、人が集まる「場」を提供しているイメージです。インターネット上の貸し会議室やレンタルスペースのようなものだと捉えていただくと分かりやすいかもしれませんね。

常見:サロンの会費もオーナーが設定します。現在は月額3,000〜5,000円ほどが中央値です。

ブームの土壌を生んだ、Facebookの実名文化

――「レンタルスペース」の例えは興味深いですね。近年オンラインサロンは注目を集めていますが、その要因には何があるとお考えですか?

一栁:「個の時代の到来」と「オーナーの活動を支えるサロンが盛り上がってきたこと」が挙げられます。

前者について、企業に頼らない生き方が求められる中で、所属以外の場所で力試しをしたり、自分の名を売る前にコミュニティの中で貢献して信頼を得たいニーズが増大したのではないでしょうか。

後者については、幻冬舎の箕輪厚介さんやキングコングの西野亮廣さんのサロンを筆頭に、それまであまり見なかった、オーナーの活動を支えるようなタイプのサロンが盛り上がってきたことが大きな要因です。

常見:「オンラインサロン」の検索トレンドは2018年秋ころから急激に高まっています。対応するように、DMM オンラインサロンの有料会員数も年々増加しており、2019年4月時点での会員数はのべ36,000名以上に上ります。


合同会社DMM.com 常見 氏

一栁:また、ブームの背景にはFacebookが果たした役割も大きいと考えています。従来の日本のインターネットコミュニティは匿名カルチャーでしたが、Facebookの登場によって実名を出したコミュニケーションがしやすくなり、リアルな繋がりを求める人が増えてきたのです。日本で2011年以降にオンラインサロンサービスが始まった流れとも合致します。

オンラインサロンの役割は「学び」に加えて「繋がり」も

――このようなターニングポイントを経て、オンラインサロンのトレンドはどのように変化していますか。

一栁:今までのオンラインサロンは学びの場やファンコミュニティ的な立ち位置でしたが、近年は会員側が一方的に何かを教わるというよりも、その場でしかできない体験を求めたり、オーナーのビジョン実現に貢献するために入会するなど、サロン内での繋がりを重視する傾向にあります。

要因としては、オンラインサロンの活動がリアルの世界に影響するサロンも出てきたことが大きいのではないでしょうか。単に課題を出し、フィードバックして終わり……ということではなく、実際に世に出るものに取り組むようになった点は、従来のオンラインサロンと大きく異なる点です。

常見:例えばファッションコミュニティの「MB LABO」(※)は、サロンの会員が商品開発に携わります。また、オンラインサロン上に蓄積したコンテンツを書籍という形でアウトプットした事例もあり、、刊行にあたってはサロンの会員が編集に積極的に関わっていました。(※)MB LABO – ファッションの集合知へ –


(※)DMM オンラインサロン MB LABO – ファッションの集合知へ –

――会員が積極的に自走しているのが、現在のオンラインサロンのトレンドというわけですね。こうしたサロンに入会すると、どのようなメリットがあるのでしょうか?

一栁:家や職場の外で、自分の興味や好きなことを追求できる「第三の居場所」を得られると思います。

例えばサラリーマンが「会社を買いたい!」と職場で言っても共感を得られないかもしれませんが、「サラリーマンが300万円で小さな会社を買うサロン」に入れば目の前で案件の進捗が共有され、買い方のアドバイスや注意点などが共有されています。

オンラインサロンは課金というハードルがあるので、同じ感性や行動原理の仲間が集い、前のめりな行動が肯定されやすい環境です。単発のセミナーのようにモチベーションを上げて終わりではなく、継続的な繋がりがあるので「明日からどうすればいい?」という実践にもつながります。

常見:自分の軸が一本しかないと、そこで何かがあったときに心が折れてしまいます。その点で、オンラインサロンは新しいことにチャレンジしやすいと思いますね。また、オンラインサロンでの繋がりがキャリアに直接影響を与えることもあります。サロンに貢献している会員がオーナーの会社に転職したり、会員の職場に横の繋がりで転職することも実際にありました。

繋がりを生み出し、キャリアに効くサロン選びのコツとは

――オンラインサロンでこうした「繋がり」を築いていくためには、どのようにサロンを選べばいいのでしょうか。

一栁:「自分がサロンに価値を提供できそうか」を指針にするといいと思います。
それはレビューの執筆や写真撮影でもいいし、コミュニティ内の発言に積極的に反応したり、オーナーのコメントを引き出すような「いい質問」を心がけることでもいいのです。自分の興味・関心とサロンの環境を踏まえて、受け身ではなく目的を持って行動できそうな場を選ぶことで、オーナーとも会員とも繋がりを築くことができます。

常見:実際に、会員同士のコミュニケーションが活発なサロンは長続きする傾向にありますね。アンジャッシュ渡部さんのグルメサロン(※)などが代表例です。

サロン内では、渡部さんからの一方通行の情報提供ではなく、会員同士でお店を紹介し合ったり、一緒にお店に行ったりと交流が盛んです。私たちとしてもサロン選びをしやすくするため、入会前に内情を知れる仕組みを整えていきたいです。 (※)渡部建のとっておきの店、こっそり教えます

――仕組みに関連して、オンラインサロンに寄せられる懸念についてもお聞きします。オンラインサロンの中には更新が滞り運営実態がなかったり、利用者同士のトラブルが起きている事例もあります。DMM オンラインサロン ではどのような対策を講じていますか。

一栁:具体的に、以下のような仕組みを設けています。

(1)開設前に審査を行い、反社会勢力や情報商材を排除する
(2)定期的な更新が行われているかをチェックする
(3)会員からの通報を受け付ける

また、会員同士の口論や荒らしを防止するために「NGワード」を検知できるよう対応中です。

Synapse時代からオンラインサロンでのさまざまなトラブルを目の当たりにしてきましたが、最近はトラブルや荒らし行為の通報は月に数件あるかないのレベルまで減りました。安心してオンラインサロンを利用いただき、ネガティブイメージを払拭するためにも、クリーンな場をつくり続けたいですね。

アップデートを続ける令和のオンラインサロン

――最後に、DMM オンラインサロンの今後について伺います。

常見:今までは個人のオーナーが主催するサロンが主流でしたが、DMM オンラインサロン上では企業や行政がオーナーになるケースが増えてきています。サービスとしても、こうしたオーナーたちを増やしていきたいです。今後も幅広いオーナーや会員に対してコミュニケーションを取る場を提供してまいります。

一栁:DMM オンラインサロンは、独自の運営システムを持っていることが強みです。煩雑な作業を省力化したり役立つツールを提供することで、オーナーがサロンの運営に集中できる環境を提供してきました。

例えば従来のFacebookや外部のチャットツールを利用したサロンでは、入退会と決済を紐付けられないので、会員の管理に手間がかかっていましたDMM オンラインサロンでは、入退会と決済を一本化するシステムを提供することで、こうした不便を解消してきました。

今後は一層オーナーに還元できる場を作りたいと思うと同時に、ユーザーの発言や反応をデータで可視化し、よりよいサロン作りに役立てたいですね。

取材・文:中山明子
写真:國見泰洋