アップルの「iPod touch」の新モデルが話題になっている。6月4日から米サンフランシスコで始まった開発者向けイベント「WWDC」に先立ち、ハードウェア製品を発表する形になった。

iPod touch(第7世代モデル)

より高機能なiPhoneが普及した今となっては、iPod touchは役目を終えた製品に感じるかもしれない。だが、その裏では意外な用途が広がっている。

最も安価なiOSデバイス

携帯型メディアプレイヤーであるiPod touchとして、今回の新製品は第7世代のモデルになる。前モデルが発売されたのは2015年のことで、実に4年ぶりのモデルチェンジとなった。

iPhoneとの違いとして、iPod touchは携帯電話としての機能を備えていない。Wi-Fiに接続することでLINEなどのアプリを利用した通話はできるものの、携帯キャリアにデータ通信や音声通話ができないことが最大の違いだ。

iPodシリーズのメディアプレイヤーとしての機能は、すでにiPhoneに取り込まれている。「iPhoneがあればiPod touchは不要」と考える人は多いだろう。だがiPod touchには、iOSデバイスとして最も安価という特徴がある。最も安い32GBモデルなら2万1800円(税別)だ。

スマホ初心者にとっていきなり高価なiPhoneを買うのは不安だが、この価格なら子どもやシニア向けのiOS入門機としても最適だ。「iPhone SE」をワイモバイルで購入すると6万円近い価格になるが、iPod touchなら128GBモデルでも3万円台に収まるのだ。

自宅にWi-Fi環境があれば、多くのアプリやゲームはiPhoneと同じように動作する。最新のiPhoneに比べればプロセッサーやカメラの性能は劣るものの、今回からiPhone 7世代と同じ「A10 Fusion」を搭載しており、使い勝手は確実に良くなった。

すでにiPhoneを使い慣れた人にも、サブ端末としての利用価値はある。iPhoneのボイスレコーダーや動画撮影は便利だが、電話がかかってくると録音や録画は中断してしまう。かといって電話機能をオフにすれば、連絡が付かなくなる。

こうした場合でもiPod touchがあれば、安心して録音や録画を任せられる。安価なAndroidスマホなどでも代用できるが、iPod touchならiCloudを介してデータ連携がやりやすいというわけだ。

キャッシュレスで業務用端末としての可能性も

iPod touchの使い道として、家庭内での据え置き用途も考えられる。最近ではアマゾンの「Echo Show 5」やグーグルの「Google Nest Hub」など家庭用スマートディスプレイが相次いで登場し、競争が激化してきた。

すでに家族が各自のスマホを持っていても、スマート家電を操作するハブとなるデバイスは便利な存在だ。自宅だけでなく、クルマに搭載すれば音楽再生やドライブレコーダーとしても活躍できそうだ。

さらにiPod touchが本領を発揮できるのが、業務用端末としての用途だ。店舗内のハンディ端末として、専用機に代わってスマホを用いる事例が増えており、Wi-Fi環境があればiPod touchでも十分に機能する。アルバイトの店員でもiOSならすぐに使いこなせるとの声は多い。

iOSアプリで作られたPOSレジも増えている。QRコード決済なら、大手チェーンのようなPOSレジがない中小の店舗でも、スマホ1台で導入できるメリットがある。レジに常設する端末として、iPod touchは最も安価に導入できるデバイスの1つだ。

こうした業務アプリを含め、iPod touchはアプリ開発にも利用できる。開発環境ではMacの画面上でアプリの動作を確認できるものの、実機でのテストは必要だ。このとき開発者個人のiPhoneではなく、開発用端末としてiPod touchが役に立つというわけだ。

このように、iPod touchは本来のメディアプレイヤー用途にとどまらず、意外なところに使い道が広がっている。iPhoneが毎年のモデルチェンジにより高価格化路線を突き進む中、Wi-Fi環境で手軽にiOSアプリを使いたいという需要に、iPod touchは着実に応えてきたといえる。

今後の課題を挙げるとすれば、iPod touchという製品がいつまで続くのかという点だ。Androidなら複数のメーカーからさまざまな価格帯の端末を選ぶ余地があるものの、iOSはアップル以外の選択肢がない。今回は4年ぶりの新モデルとなったが、今後のロードマップは予想しにくいのが悩ましい点だ。

文:山口健太