“新入社員の早期離職が問題となる昨今、その原因は本当に新卒だけにあるのか?” 株式会社アックスコンサルティングは、“オンボーディング”という教育プロセスを取り入れ、入社した新入社員が元気に能力を発揮できる環境を整えるHRサービス『ジャングル』をローンチした。

今回は同サービスのプロジェクトリーダー 佃氏に現在の新卒早期離職の背景とその問題、退職率低減のために企業やその人事担当者が解決に向けて実践してほしい内容などを語ってもらう。

佃 雄太郎(つくだ ゆうたろう)
株式会社アックスコンサルティング2012年4月入社。HRプロジェクト「クラウドオンボーディングシステム“ジャングル”」のプロジェクトリーダー、経理や給料のアウトソーシングシステムにおける全体責任者として本事業を統括する。

「新入社員と企業の関係をサポート」アメリカで着目されているオンボーディング

まずは同社が展開する製品のテーマとなっている「オンボーディング」とはそもそも何なのだろうか。佃氏は次のように語る。

佃氏(以下、敬称略):「オンボーディングというのは、新入社員が入社をしてから素早く社内に溶け込み、仕事において自身の能力を発揮しやすいように必要な知識や心構え、スキルなどを習得できるサポート体制のことです。

語源は船などの乗り物に乗っている状態を示した英単語(on-boarding)です。まさにこれから会社という船に新しく乗り込もうとする新人や若者たちが、社会という荒波に揉まれながらも順調に成長できるようなプロセスで支えていくのがオンボーディングの役割だと言えます」

同社が提供するクラウドオンボーディングジャングルは、“人事情報”“人材育成”“個人目標”といった人材を取り囲む情報と”評価情報”など人事部や経営者が必要とするものを集約管理する。本サービスには学びのためのコンテンツをはじめ、リアルタイム目標管理機能やアンケート機能が搭載されているため、利用した新入社員がスムーズに社内へ溶け込み、能力を発揮することを助ける。

元々オンボーディングは、システム業界においてユーザー離脱を防ぐためのキーワード。この数年でHR分野でも使われるようになった。日本ではまだ馴染みは薄いが、アメリカのHR業界では広く浸透している。なぜ“オンボーディング×新卒”という点に着目したのだろうか。

佃:「オンボーディングが先行しているアメリカ視察から戻り、改めて日本市場を分析すると、“新卒社員の入社後サポートに着目したサービスはほとんどないこと”に気がつきました。採用サポートをはじめ、評価や給与管理といった事務系テックなどは市場には多いですが、入社前や退職後という“入口”と“出口”を抑えたサービスはまだまだ少ないからです」

着眼点が変わったことで、サービスの隙間に気がついたのだ。さらに佃氏はそのまま話を続ける。

佃:「新卒社員は1年目で1割、3年目で3割が辞める状況です。辞めた理由を見ると『入社前に分かったのではないか?』『会社側も、もっと伝えられたのではないか?』と感じる内容ばかりでした。そこから離職にいたるのはお互いに課題があることが原因で、それをオンボーディングにより防止できるのではないかと考えたのです」

大切なのは人材を活かすためのマインド形成

昨今、働き方改革に対する関心が高まる中、採用においてHRテックを導入検討する企業が増えている。こうしたシステム検討するときのポイントを訪ねたところ、次のようなアドバイスが返ってきた。

佃:「今後は人材育成がポイントになると思います。採用に関するご相談を受けていると、『今年は〇〇人を採用したい』と人数に注目している会社が多いです。しかし蓋を開けてみると、採用後3年で5割、6年で9割退職など起きてしまうケースも往々にしてあります。

今後大きなコストをかけて社員を育てることを考えると、人材を活かすための人材育成を人事部は考えないといけません。海外の場合、採用と人材育成にそれぞれ担当者がいるケースが多いです。

しかし日本の場合は、採用は人事部、人材育成は部門の上司に任せているケースがほとんどのため、人材育成を人事が一貫して行うのが難しくなります。だからこそ、入口と出口をサポートすることが社内全体を円滑に動かす上で必要なのです。こうした着眼点を持ったHRテックは、弊社に限らず今後ますます需要が拡大すると思います」

確かに日本において、「人材育成担当です」という人事はそう数多くはいない。では、人材育成は今後どのように変わっていくのか。

佃:「学生から社会人になるための心構えなど、企業への橋渡しとなる育成が今後は必要だと思います。今までの人材育成といえば、福利厚生のオリエンテーション、名刺交換や電話の取り方といったビジネスマナー研修などがほとんどでした。ですがテクノロジーや生活が変化をしている現在、昔と同じままの研修では難しいと考えます」

さらに佃氏は、人材育成の具体的事例について続ける。

佃:「例えば電話研修です。従来の電話応対に加え、『なぜ他の人の電話を取らなくてはいけないのか?』といった概念的なところから説明する企業も出てきました。この背景には、携帯電話の普及が関係しています。昔は家庭の固定機器に電話がかかり、親の代わりに取るということはありましたが、個人に直接電話がかかってくる携帯電話が当たり前のミレニアム・Z(ゼット)世代としては、なぜ自分宛ではない電話を取らなくてはならないのか、その必要性を疑問視する声が少なくありません」

『なぜこんな当たり前のことが』と驚く人が中にはいるかもしれない。しかし、このような観点も見つめ直すことが、新入社員と私たちを隔てるギャップを埋めるための一歩になるのだ。

目指すは「採る」から「活かす」の採用市場

ここまでの話から、企業がこれまで当たり前としていた文化と新卒社員の認識に対する世代間ギャップが生じていることを強く感じた旨を述べた。佃氏は問題解消のためには、人材育成担当にも研修が必要であると主張する。

佃:「我々は、新入社員への人材育成だけでなく人材育成担当者へも研修の機会が必要になってくると感じています。やはり企業における人事担当者はベテランの方も一定数いるため、世代間のギャップが理解できていないと『なぜ、そんな当たり前のことをしないの?』となりかねません。

中には『新卒は〇〇であるべき』という考えを押し付けていることもあります。押し付けにならないためにも、今の世代と対話をしたり、話を聞いたりすることが必要です。彼らの当たり前やその概念を知ってもらうことが、これからの人材育成には重要となってくるのです」

最後に将来のHRサービス発展に向けた展望について次のように語ってくれた。

佃:「オンボーディングは、企業活動において色々な場面で登場してきます。採用以外にも、自身が先輩になるとき、役職付きになるときなど様々です。個々の事例に対応するためにも、人事管理システムや研修教育といったところも手掛けていきたいと思います。また雇用のミスマッチなどで採用バランスが崩れている昨今だからこそ、『採る』から『活かす』という考え方を企業人事に広げていきたいです」

採用して終わり、ダメになったらそれでいいという経営者も存在する中で、しっかりと採用した人材を活かし・育てるという姿勢が今後より重きを置かれる。経営者や人事担当が採用で学生たちを見ているのと同じように、学生たちもそんな大人たちの振る舞いをつぶさに観察して選んでいることを忘れないでほしい。

文:杉本 愛