これまで男性が支配的な地位を占めてきた金融の世界。投資の対象やその仕方も、男性バイアスがかかっていたようだ。しかし今日、女性にフォーカスした投資が勢いを増しており、欧米を中心に大きなトレンドになりつつある。女性による投資や、「ジェンダースマート投資」または「ジェンダーレンズ投資」と呼ばれる、女性が率先するビジネスや女性を支援するようなビジネスを対象とした投資が今注目されている。

女性による富保有

ボストン・コンサルティング・グループの調べでは、2010〜2015年の間に、世界中で女性が保有する資産額は34兆ドルから51兆ドルに増え、2020年には72兆ドルに増加する見込みが発表された。今後20年から30年の間、私的財産の大部分は女性の手に渡るだろうと予想されている。


Moneyより

各コンサルティング会社やジャーナリズム団体は、女性による富の増加の要因を、以下のように分析している。経済紙The Economistは女性の労働市場への参加が増えたこと、女性にもより多くの給料が支払われている事実に加え、女性は伝統的に行っていたよりも息子や娘を平等に扱う可能性が高いことや、亡くなった夫や両親からより多くのお金を相続しているという理由が挙げられている。

また、彼女たちは起業家になって自分で成功した事業を経営し、彼女ら自身でもお金を稼ぎ始めている。米国国勢調査局の最新のデータによると、米国では2012年に女性起業家が全事業の36%を占めている。

そしてこの勢いはとどまることはなく、女性の富はすでに世界全体の成長率よりも速いペースで成長している。2015年には世界全体の成長率5.2%と比較して6.6%成長しており、2016年も世界のそれと比較し1.4%高い7%で成長した。今後はより多くの女性が、より多くの投資資金を持って、投資決定に影響を与えていくことが見込まれる。

その一方でForbesの記事には、100万ドル以上の資産を持つ女性の51%がファイナンシャルアドバイザーを持っていないという事実が示されている。

これは今後、銀行や投資アドバイザーは、クライアントとしての女性に対するサービス、興味を持つ投資戦略の提案などを、万全にカスタマイズして準備しなければならないことを意味する。さらには、新しい競合となるロボアドバイザーには達成できない、信頼関係をクライアントと築く必要性もある。クライアントである女性が年月を重ねるにつれて目標が変わり、夢や状況が変わったと報告された場合、柔軟に誠実に対応する必要がある。

メディウム社は、急速に拡大している女性顧客基盤に、財務サービスアドバイザリーを提供するための最も確実な方法は、より多くの女性を雇うことだと提案する。CFP理事会によると、現在米国の公認ファイナンシャルプランナーの若干23%が女性ということだ。

男性投資家と比較した女性投資家の特徴

ここで疑問になってくるのが、女性は従来の投資家である男性と同じように投資をするのか、ということだ。

歴史的な調査によると、女性は一般的に男性よりもリスクについての思慮が高いことがわかっている。カリフォルニア大学の調査「Boys Will Be Boys: Gender, Overconfidence and Common Stock Investment」によると、2001年、普通株式投資の利益において女性は男性を年間1パーセント上回った。その理由は、男性は自信過剰な上に、性急な決定をしてしまう傾向があるからだ。

また、投資への考え方の違いもある。男性は投資をそれ自体の目的として扱う傾向がある。別の言い方をすれば、男性は市場に対して自分自身を売り込み、成功を表すために市場を超えることに没頭する。これとは対照的に、女性は投資を最終的な手段と見なす傾向がある。たとえば、家を購入したり早期に退職したりするのに十分なお金を集める手段だ。

男性と女性のトレーダーの習慣に関する2018年の研究を書いたWarwickビジネススクールの教授Neil Stewartは、「男性は投機的な株に引き寄せられる可能性が高いが、女性はすでに実績のある株式に集中する可能性が高い。女性はまた、より長期的な視点を取り、取引頻度が少ない傾向がある。これはおそらく、女性が自分たちの経済的目標を支援するために投資しているのに対し、男性は投資をスリルと見なし魅了されていることを意味している」と分析している。

またHSBCの調査によると、女性の投資家は男性のそれよりも勉強熱心なことが多い。女性投資家の17%が投資の選択肢を勉強する期間を1ヵ月を超えて行っているという。これに比べ、男性投資家は13%だった。金融編集者兼作家のLouAnna Loftonも、女性は自分たちの投資を目標により近く一致させ、市場の混乱の間は落ち着いていることを発見した。不況の間に、女性の投資ポートフォリオは男性のものよりはるかに落ち着いて嵐に耐えると、彼女は言う。

また、女性投資家は単に商業上の利益に焦点を当てるのではない。より多くの女性投資家が、社会的目的を持っている、または少なくとも持続可能な企業を探す傾向がある。これはあらゆる種類の投資対象に当てはまり、UBSによれば、88%の女性が「社会に貢献する」組織に投資したいと考えているのだそうだ。経済的利益を生み出す一方でジェンダーの不平等を軽減しようとする活動を支援する、ジェンダースマート投資もその広い傾向のうちの一部だ。

加速するジェンダースマート投資

女性の投資家が増えるにつれ、投資対象の商品も多様化している。ジェンダースマート投資も含む「インパクト投資」と呼ばれる投資は、リスク、報酬、そして投資が世界で生み出す「善」の量に基づいて決定を下したいと考えている。女性投資家やミレニアル世代にとって、この「善」は従来の投資収益指標に左右されない。世界の人口増加や所得格差、気候変動などに直面して、2019年のリスクと機会は、20~30年前のものとは非常に異なっているからだ。

ジェンダースマート投資の一例を挙げよう。元銀行家のIvy Huq Russellは、専門家の健康に関するアドバイスを共有し、バングラデシュの女性により大きな権限を与えるために設計されたアプリを広めたかった。彼女の事業設立の資金集めに苦労したとき、手を差し伸べたのは女性投資家だった。「この女性投資家は、もちろん私のビジネスを信じることで投資したが、母親として、妻として、女性として、時には少しのプッシュが必要であったことも、彼女は理解していた」とRussellはThomson Reuters Foundationの支援者に語っている。

今日彼女の事業は「Maya」と呼ばれるアプリで盛んになり、インド、バングラデシュ、サウジアラビアのユーザーから毎日何千もの質問に答え、利用されている。

ジェンダースマート投資は、まだ始まったばかりだが、マイクロファイナンスの根源をはるかに超えてベンチャーキャピタル、プライベートエクイティ、債券およびその他の投資形態を含めて急速に人気が高めている。ウォートン・スクールなどの調べでは、ジェンダースマート投資は、2018年に22億ドルと、前年比で73%増加している。バンク・オブ・アメリカやUSBなど大手金融機関でも、女性にフォーカスした投資スキームが登場しているようだ。

しかしジェンダースマート投資で誤解されやすいのが、女性を助ける社会的企業は利益を上げないという仮説だ。それに対抗するデータを証明したのが、McKinsey&Companyの2018年に発行した「Delivering through diversity」というレポートだ。


McKinsey&Company公式サイトより

このレポートでは、経営陣の性別の多様性が上位4分の1の企業は、EBITで平均を上回る可能性が21%高いこと、また、経済的収益の長期価値創造も平均と比べ27%上回る可能性が高いことを明らかにした。また2018年2月に、男女混合のチームによって管理されているファンドは、3年間で男性または女性だけで運用されている資金よりも6%多くの資金を集めていることがわかった。

このMcKinsey&Companyのレポートが示すことは、多様性は明らかに、ビジネスにとって好影響を与えるということだ。ジェンダースマート投資もつまり、ジェンダー平等があらゆるレベルで企業の行動や業績に好影響を与えるとの認識に基づいており、注目を受けるジェンダースマート投資は、その経済効果も見込んだ投資だと言えるだろう。

文:米山怜子
編集:岡徳之(Livit