移住先やビジネスの海外展開先を考える際、対象となる都市の「活気」は重要な選定要素の1つとなるはず。

米不動産コンサルティング会社JLLが毎年発表している「City Momentum Index(CMI)」では、社会経済の活況を指数化し、世界でもっとも勢いのある都市をランク付けしている。CMIには、長期の成長にフォーカスしたものと短期の成長にフォーカスした2種類のランキングがある。

2018年版、2019年版の短期成長ランキングで上位を独占しているのはアジアの各都市。2018年版トップ30は、30位ルーマニア・ブカレスト、29位米シアトル、27位UAEドバイ、25位ナイジェリア・ラゴス、11位ケニア・ナイロビを除いて、インド、中国、東南アジアの都市が独占する結果となった。

なかでも短期成長ランキングにおけるインド都市の躍進は特筆すべきものだ。2018年のトップ5は、1位ハイデラバード、2位バンガロール、3位ホーチミン、4位プネー、5位コルカタと、インドから4都市がランクイン。2019年版でも、1位バンガロール、2位ハイデラバード、3位ハノイ、4位デリー、5位プネーとインドから4都市がランクインしている。

インドの都市はなぜこれほど勢いがあると評価されているのか。JLLのランキング要素を鑑みつつ、インド都市がどのような発展を遂げようとしているのか、その動向に迫ってみたい。

勢いづくインド都市、注目のハイデラバードとバンガロール

JLLの「City Momentum Index」は46個の変数から算出された指数だ。分析対象となっているのは世界131都市。

46個の変数の半分は、社会・経済モメンタムを反映したもの。たとえば、GDP、人口、航空旅客数、企業の本社開設数、海外直接投資の増加率、またこれらの成長予測が含まれている。

もう半分は、商業不動産市場の成長を反映する変数だ。オフィス占有率、オフィス建設、オフィス賃料、モール建設、小売店舗賃貸料、ホテル部屋数などが含まれる。

2018年版ランキングで1位、2019年版で2位となったインド・ハイデラバード。インド中南部テランガーナ州の州都でありアンドラ・プラデシュ州の州都も兼ねる都市だ。面積は650平方キロメートル、東京23区(626平方キロメートル)とほぼ同じ大きさ。人口は2011年に発表された政府調査で680万人となっているが、人口流入やインフォーマルセクターを考慮した場合、1,000万人を超えている可能性があるといわれている。


ハイデラバード市内

ハイデラバードの社会・経済モメンタムを加速させ、商業不動産市場を活況させている要因の1つとしてITセクターが挙げられる。

1990年代に進められた経済改革によって、ハイデラバードには情報通信、エンジニアリング、バイオファーマ分野を促進するためのインフラ整備が開始された。これにともない登場したのが、テクノロジーハブ「HITEC City(Hyderabad Infomation Technology and Engineering Consultancy City)」だ。このHITEC Cityの登場によって、多くのグローバルテクノロジー企業がハイデラバードに拠点を構えるようになった。


ハイデラバード市内のモール(2018年12月25日)

マイクロソフトはハイデラバードに米国外で最大となる研究開発を拠点を開設。このほかグーグル、アマゾン、IBM、オラクル、デル、フェイスブックなども拠点を開設している。2015〜2016年にかけて、これらテクノロジー企業によって3万5,600人の雇用が生まれたという。

テクノロジー企業だけでなく、デロイト、ゼネラル・エレクトリック、アクセンチュア、HSBC、KPMGなど会計・金融・コンサルティング会社も多く集まっている。

研究開発に従事するエンジニアだけでなく、英語を使いこなすビジネスオペレーションや金融分野の人材が多く、給与水準が高いことが推測される。

スウェーデン家具大手イケアが2018年8月にハイデラバードでインド1号店を出店したが、このこともハイデラバードの消費者市場の活況を物語っているといえるだろう。ちなみにイケア・ハイデラバード1号店では年間700万人の来店客が見込まれているという。


2018年8月ハイデラバードにオープンしたイケア・インド1号店

カナダの不動産サービス会社Colliersが2018年9月に発表した「テクノロジー企業に適したアジア都市ランキング」では、ハイデラバードは7位にランクイン。8位香港、13位東京を上回る評価を受けており、今後もテクノロジー企業の集積が進むことが見込まれる。

CMIでハイデラバードに並び高い評価を受けるのがバンガロールだ。

インド南部カルナータカ州の州都。面積は709平方キロメートル。人口は2017年時点で1,240万人ほどと推計されている。

バンガロールもハイデラバードと同様にハイテク都市として知られているが、スタートアップが多く誕生する性格から「インドのシリコンバレー」と呼ばれている。1990年代に、InfosysやWiproといったインドを代表するテクノロジー企業が誕生。それ以降も多くのテクノロジー企業を輩出している。ウェルマートが2018年8月に160億ドル(約1兆8,000億円)で買収したEコマース企業Flipkartもバンガロール発だ。


バンガロールにあるBagmane Tech Park

Colliersの「テクノロジー企業に適したアジア都市ランキング」では、バンガロールは4位の北京、3位の深セン、2位のシンガポールを抑え1位にランクイン。複数のランキングで高い評価を受けており、注目度の高さをうかがうことができる。

このほかCMIで上位にランクインしたインド都市には、インドの首都で人口1,600万人以上を誇るデリー、「インドのオックスフォード」と呼ばれる学術都市プネー、デリーに並ぶメガシティ・コルカタなどが含まれている。

「勢い」や「推進力」と訳されるmomentum。これらインドの都市が持つ勢いや推進力はどこまで強くなるのか。今後の展開が楽しみだ。

文/細谷元(Livit