高齢化が進む中国。60歳以上の人口は現在、日本の人口の2倍となる2億4000万人を超えたといわれている。全人口に占める高齢者の割合は17%。2020年には2億5500万人に達する見込みだ。

高齢化社会を見据え、中国政府は2016年に国家レベルの健康増進イニシアチブ「ヘルシー中国2030」を発表。平均寿命や幼児死亡率など2015年の指標をベンチマークとし、2030年に向けこれらの指標を改善していく計画だ。

たとえば、2015年の平均寿命は76.34歳だったが、2020年には77.3歳、2030年には79歳に高めたい考えだ。評価対象となる指標はこのほか、健康リテラシー率、運動人口数、慢性疾患による死亡率などが含まれている。


高齢化社会を迎える中国

これら指標の改善を目指し、ヘルスケア関連のインフラ整備やサービス/プロダクトの研究開発に向けた投資が増える見込みだ。中国政府は、国内ヘルスケア産業規模が2020年に8兆元(約130兆円)、2030年に16兆元(約260兆円)に拡大すると見積もっている。

今後大きく拡大することが見込まれる中国ヘルスケア産業だが、そのなかで人工知能を活用したモバイルヘルスケアにひときわ大きな期待が寄せられている。その中核を担うプレーヤーの1つがPing An Good Doctor(平安好医生)だ。

同社はモバイルヘルスケアと人工知能を組み合わせたワンストップの医療プラットホームを提供するスタートアップ。マイクロソフトとアリババでソフトウェア開発チームを率いた経験を持つWang Tao氏が2014年に創業。2015年4月にローンチしたアプリでは、人工知能を活用したオンライン医療相談や病院予約、医療モールなどを展開している。

同社ウェブサイトによると、2018年6月時点のアプリ登録者数は2億2,800万人、月間アクティブユーザー数は4,860万人に達したという。ユーザー数で見ると、中国最大のヘルスケアアプリになるという。ブルームバーグが伝えたBernstein Researchの調査では、月間アクティブユーザー数は1億9,280万人となっている。一方、テンセント傘下の競合WeDoctorの月間アクティブユーザー数は1億5,000万人だ。

Ping An Good Doctorは中国全土に張り巡らせた医療ネットワークを強みとし、多くのユーザーを獲得している。インハウスの医療専門家は1,000人を超え、外部には4,650人の提携医師がいる。提携病院数は3,100カ所、また2,000以上の医療関連機関(検査施設、歯医者、美容外科など)、1万カ所以上の薬局とも提携している。なんらかの症状を発症した患者は、スマホ1台でオンライン相談から病院での診断、薬局での購入までワンストップで行うことができるエコシステムを構築している。

同社への期待は大きく、2016年5月のシリーズAラウンドでは5億ドル(約565億円)、プレIPOでソフトバンクなどから4億ドル(約452億円)を調達。さらに2018年5月にはIPOで85億ドル(約9,600億円)を調達している。

Ping An Good Doctorは調達した資金で人工知能を活用した小型無人クリニックを中国全土に開設する計画だ。

2018年11月中国浙江省北部の烏鎮(ウーチン)で開催された世界インターネット会議で、このAI無人クリニックがお披露目された。サウス・チャイナ・モーニング・ポスト紙によると、同会議でWang氏は今後3年で無人クリニックを数千カ所に設置する計画があると述べた。

この無人クリニック、電話ボックスサイズで人工知能ドクターが患者の声などからデータを取得しコンサルテーションを行うという。データは人間の医師にも共有され、オンラインで診断と処方が実施される。薬は無人クリニック内の自動販売機で購入可能となるようだ。


Ping An Good DoctorのAI無人クリニック(Ping An Good Doctorウェブサイトより)

「ヘルシー中国2030」のもと中国政府は、法規制などの側面から新しいタイプの医療サービスの発展を支援することを明確に示している。Ping An Good Doctorの無人クリニックはこうした追い風を受け、中国国内に一気に広がる可能性がある。中国国内だけでなく東南アジアへの事業拡大を目指すPing An Good Doctor。アジアの医療シーンをどのように変えていくのか、今後の動きに注目が集まる。

文:細谷元(Livit