アメリカの建築家David Hertz氏率いるチームが、空気中から飲み水をつくり出す装置「SkyWater」の開発に成功した。Hertz氏が住むカリフォルニア州は毎年水不足に悩まされており、その解決策として今注目を集めている。

空気中の水を取り出す

SkyWaterに備わる「WEDEW(Wood-to-Energy Deployed Emergency Water)」と呼ばれるシステムは、雲ができる原理からヒントを得て開発された。空気中の冷気と暖気を合わせて水蒸気を生み出し、さらにその過程で必要となる電力をバイオマス発電によって賄うという、2つのシステムを組み合わせてつくられている。

Hertz氏率いるチーム「SkySource」はこのシステムを開発し、大気中から水を抽出する技術を競うコンテスト「Water Abundance XPRIZE」で見事優勝、優勝賞金150万ドルを獲得した。


SkySource公式Webサイトより

Hertz氏は現在カリフォルニア州ロサンゼルス郊外のベニス・ビーチに拠点を構え、持続可能な環境デザインを推進している。そのカリフォルニア州は降雨量が極端に少なく、緑豊かな日本の山々とは対照的に山は茶色味を帯びている。空気が乾燥するため、山火事も非常に多い。毎年死傷者を出し、焼失する木は何百万本にものぼる。

Hertz氏を取材したYoutubeチャンネル「Gardenerd」の運営者Christy Wilhelmi氏も、「空気から水を取り出す技術を推進してくれていることに感謝している。水の確保はカリフォルニアで最も深刻な課題の一つ」とコメントしている。

「飲用水は地球上にあるすべての川よりも大気中に多く含まれており、空気には潜在的な水の供給力があるにも関わらずそれが活用されていない。私たちは、消費するエネルギーよりも生産するエネルギーのほうが大きい、いわゆるネット・ポジティブ(正味・実質プラス)施設をつくりたい。

今まではせめてネットゼロにしようという努力が進められてきた。自分が使うエネルギーは自分で生み出そう、プラスマイナスゼロにしようというもの。私たちはネット・ポジティブにする」(Hertz氏)。

Hertz氏によれば、それを実現する技術はすでに揃っている。しかし、その技術がなかなか世間に広まっていないとのこと。地球にプラスの影響を与えるネットポジティブな建物をこれから増やしていく考えだ。


タンクから水をくむ様子3分47秒より( David Hertz氏のインタビュー動画

Hertz氏は同時に、地域コミュニティにも貢献しようとしている。WEDEWで生み出された水はコンテナのようなボックスに抽出・貯蔵され輸送されるが、その際にホームレスの人びとを雇用し、輸送を手伝ってもらっている。

「このあたりではホームレスの人たちが少なくない。それならばと働いてもらうことにした。また、スケーターやランナー、地元の人びとが気軽に安全な水にアクセスできる場にしたいとも考えている。太陽光で発電した電気を使うことで、大気から得た水をいつでも飲むことが可能になる」(Hertz氏)。


David Hertz氏のインタビュー動画

砂漠地帯でも水を生み出せるようになる

Hertz氏が運営するSkySource.orgではすでにSkyWaterをオンラインで購入できるようになっている。価格は1万8,000USドルから。15℃~37℃湿度が65~99%の環境下でなら、一日に約150ガロン(約568リットル)の飲み水を生み出せる。湿度が高いほど抽出できる水量は多くなる。

Hertz氏らは前出のWater Abundance XPRIZEで得た優勝賞金などを活用し、今後も事業を推進していく。「近隣農家は大量の水を必要としており、皆が水不足に悩まされている。まずはマリブーやサンタバーバラ地域にこの技術を拡めていき、さらにはもっと広い範囲で、水を必要とする場所に提供していけたらと準備を進めている」(Hertz氏)。

世界ではHertz氏と志を同じくしたような、新たな水源から水を生み出すシステムを開発しようとする取り組みが生まれている。

「Desert Twins」はオランダの防衛相の協力を得て、世界でもっとも乾いたサハラ砂漠で水を生み出す実験に成功。SkyWaterと同様に太陽光を活かし、軽自動車のヘッドライトと同じだけの量の電力で水がつくれる。

ただし、Desert Twinsでは1時間に1,000gの水しかつくれなかった。今後の課題は生産できる水量を増やすこととなる。開発する団体は太陽光だけでより多くの水を生み出す技術を磨くとともに、ミネラルと塩を含んだ水を貯蔵する技術の開発も進めるとしている。


SunGlacier公式Webサイトより

生命を維持するのには水が欠かせないことは周知の事実。大気や太陽光など地球上ならどこにでも存在するあるものを有効に活用する動きが今後も進展していくことを期待したい。

アイキャッチ画像出典:SkySource公式Webサイト
執筆:赤江龍介
編集:岡徳之( Livit