世界各地で異常気象による災害が続くなか、各国では政府、企業、NGOなどでサステナビリティ(持続可能性)を意識した活動が増加。経済・地域社会・環境……全てに配慮した活動がトレンドとなっている。

今後、その中心となっていくのが「Z世代」だ。同世代の環境意識だけでなく実行力の高さには新しい時代の価値観が垣間見える。Z世代の多くは”世界は変えられる”と本気で信じているのだ。

Z世代を代表するインフルエンサーたちの活動から、同世代の価値観……そして持続可能な未来を目指して生まれつつあるトレンドについて考察する。


Earth Guardiansでユース・ディレクターとして活動するZ世代のカリスマ、Xiuhtezcatl Martinezさん

”世界は変えられる”と信じるニュージェネレーション

Z世代とは、1990年代半ばから2000年代の初めに生まれた若年層を指す。アメリカでは1960年代から1970年代に生まれた人を「X世代」、1980年から1995年前半までを「Y世代(ミレニアル世代)」と呼び、これに続く現在10代の人々の総称がZ世代だ。

幼少期からスマホ・タブレットに親しみ、発信に積極的なのが特徴。起業への意欲や社会問題への関心も高い。小学生でもスマホを活用して簡単にアプリを作ったり、10代での起業も珍しくない。社会貢献にも積極的だ。生まれた時からテクノロジーが身近にあり、これまでの世代とは価値観が全く異なるとも言われている。

彼らはSNSから多くの情報を受け取るため、同年代の行動やその結果をリアルタイムで見ることができる。6才から気候変動に関するスピーチをしてきた青年や、「すごいことをするのに、大人になるまで待つ必要はない」とアクションを起こした10代の姉妹など、そうしたロールモデルのことを以前より身近に感じられるのかもしれない。

タイムズ誌が毎年発表する最も影響力のある100人の2018年版では5人のティーンエイジャーがランクイン。彼らは、フロリダ州パークランドの学校の銃撃戦の生存者であり、悲劇以来、国の銃法の変更を熱心に提唱している。このようにZ世代は年々、その存在感を増している。


タイムズ誌が毎年発表する最も影響力のある100人に選ばれた5人のティーンエイジャー

環境問題の取り組みにはテクノロジーが必要不可欠

では、具体的にアクションを起こし、現状を変えてきたZ世代について見ていこう。

米コロラド州を拠点とするEarth Guardiansという環境ムーブメントがある。この団体は元々はハワイの高校で、環境問題に対する注意喚起やアクションをメインのカリキュラムにしていた。若いリーダーを育成するための学校である。


Earth Guardians公式サイト

現在、この中心となっているのは18歳のXiuhtezcatl Martinez(シューテズカトル・マルティネス)さんだ。環境活動家でありラッパーでもある彼は、6歳のころから環境問題に関する発信を行ってきた。


Xiuhtezcatl Martinez(シューテズカトル・マルティネス)さんが6才の時に行なった気候変動に関するスピーチ

最近では国際会議で発言することも増え、環境分野の若きインフルエンサーとして知られている。シューテズカトルさんは、気候変動を「僕たちの時代を左右する問題」「人権問題」と呼び、2015年の国連総会では、各国の代表たちに具体的なアクションを求めた。

さらに、シューテズカトルさんは環境問題に取り組むにはテクノロジーが重要な役割を果たすと考えている。生まれた時からインターネットに慣れ親しんできたZ世代は、前世代よりもコミュニケーションが容易で、環境意識の共有も進んでいる。SNSを活用することで問題を多くの人に提起することができるし、社会課題を解決する取り組みが上手くいった場合、見知らぬ人から祝福されることすらある。こういった状況が、Z世代を突き動かし行動を促しているのだ。

”すごい人”になるのに、待つ必要なんてない

インドネシアでは、Bye Bye Plastic Bagsという環境活動が広がり見せている。この活動を始めたのは当時10歳と12歳だったインドネシアの姉妹、Melati Wijsen(メラティ・ワイゼン)とsabel Wijsen(イザベル・ワイゼン)だ。

世界で最も先進的な教育を提供する学校の一つとして知られる、バリ島のグリーンスクールの生徒だった二人は、ある日授業で過去の偉人たちについて学んだ。彼らに憧れ、そして憧れるだけではなく、「どうやったら偉大な人になれるか」を考えたのだ。すごい人になるのに待つ必要はないと、その日のうちにバリ島の社会課題についてピックアップし、解決策を考え始めたというから驚きだ。


Bye Bye Plastic Bags公式サイトより

彼女たちは2013年からこのキャンペーンを続けている。生まれ育った島だけではなく、地球規模で影響を及ぼすプラスチック廃棄への取り組みがメインテーマだ。2015年にはTedGlobalでのプレゼンテーションも果たした。

彼女たちに動かされ、インドネシア政府は海洋廃棄物の削減に10億ドルを投資し、2025年までにその70%を削減すると約束したほどだ。

このプロジェクトにおいても、前述したシューテズカトルさんと同様にSNSやテクノロジーをフル活用して世界から仲間を募った。オンライン・オフラインでの署名やハンガーストライキ(断食のストライキ)も行い、SNSで拡散。その結果、知事への面会を果たしている。

このように、Z世代が環境や持続可能な社会を実現するために駆使しているのがSNSをはじめとしたテクノロジーだ。彼女たちは世界の課題を共有することに躊躇がなく、より良い世界を作るために、「本当にこのままでいいの?」と人々に問いかけを発する。

世界を変えるために、行動できる世代

JWTのレポートによると、Z世代は”声をあげること”に他世代と比較して抵抗がないそうだ。2015年の調査ではこのように報告されている。「彼らは自分たちが世界を変えられると信じている世代だ。そして、彼らは実際に行動をしている」。

同調査によると、48%ものZ世代が持続可能なライフスタイルを営み、82%もの人が「どうすれば持続可能な未来を作れるか」「自分はどんな行動ができるか」を考えているそうだ。

テクノロジーの発達によって誰もがつながる時代になった。一個人だとしても企業や政府にコンタクトが取れるのだ。これまで紹介して来たように、影響力のある若者は持続可能な未来を作るための行動を訴え、議員・政府・企業にも行動を促している。そして自分たちと同じ年代の仲間が世界を変えている様子を見て、「自分も何かしよう」と素直に行動しているのだ。

持続可能な未来に向かうトレンドとは

持続可能な未来を作るために具体的な行動をとる若者がいる一方で、企業にも社会的責任が問われている。

JWTのレポートによると、消費のトレンドは「持続可能であるかどうか」。企業や商品に透明性や持続可能性を求め、消費行動をとるようになってきたのだ。政府だけではなく、ブランドに対してもアクションを起こすようプレッシャーをかけている。

これまでは、経済的な豊かさと引き換えに環境や他の生物を犠牲にしてきた。しかし新しいトレンドは経済・社会・環境の両立。全ての豊かさを保障するブランドが持続可能な未来を作り、消費者に選ばれるだろう。

前述したように、Z世代の82%もの人が「持続可能な社会を作るためにできること」を考え、行動しようとしている。短期的な目で見れば、その価値観に沿うことで今後の社会の中心になっていくZ世代の心を掴むことになるだろう。しかし、もっと長期的な視点で考えた時に、この年若い世代の価値観から学ぶことはとても大きい。

目先の利益にとらわれるのではなく、善く生きようとする、この新しい世代の価値観から学ぶことはとても大きい。特に「世界は変えられる」と信じるその素直さは、全世代に勇気すら与えるように感じる。

文:佐藤まり子
編集:岡徳之(Livit