2025年を視野に成長に貢献するイノベーションを生もうという内閣府の打ち出している「イノベーション25」のように、現代ではいかにイノベーションを起こすかが重要になっている。

産業能率大学総合研究所は2018年6月25日~7月13日に「イノベーション創出に向けた人材マネジメント調査」を行った。

調査では、過去3年間のイノベーション創出状況に関して以下にあげる7項目が該当するか尋ね、回答企業346社のイノベーションの型を【変革型】【開発型】【改善型】の3つに分類。それをもとにイノベーション創出の要因を探っている。

【過去3年間のイノベーションの創出状況】

  1. 業界構造や人々の生活を大きく変えるような製品・サービスを生み出した
  2. 業界初の機能をもつ製品・サービスを市場に導入した
  3. 業界・サービスの機能を限定することにより、業界初の低価格で市場に導入した

上記いずれかに該当する企業を【変革型】(97社)に分類。
(過去3年間に「商品・サービスにより、市場や業界構造の組み換えが起きている」企業群。)

  1. 自社にとっての新製品・新サービスを継続的に市場導入した
  2. 既存の製品・サービスを、従来と異なる市場に導入した

上記いずれかに該当する企業を【開発型】(147社)に分類。
(過去3年間に「販路や商品・サービスラインナップが拡充されている」企業群。)

  1. 事業全体の業務プロセスの再構築が行われた
  2. 現場の業務改善が行われた

上記いずれかに該当する企業を【改善型】(100社)に分類。
(過去3年間に「業務やプロセスが再構築されている」企業群。)

※346社のうち2社が上記回答に無回答。

変革型の企業は、顧客の声に耳を傾けることと将来のための種まきに積極的

この調査ではまず、上図のように「知の活用・深化(既存の知識や強みを深耕し効率を高める活動)/項目1~7」「知の探索(新たな強みを創造する実験的な活動)/項目8~16」に設問を分類し回答を集めている。

結果、【改善型】は、ほかの型と比較して全体的に低い傾向がみられ、【開発型】は「3 業務の標準化・効率化を追求している」がほかと比べ格段に高くなっていた。

【変革型】は「1 事業全体の目標の達成に向けて、一致団結している」「10 顧客の声を絶えず吸い上げ、開発や改善に活かしている」といった項目がほかの型より高く、同研究所では、「凝集性と顧客志向が高いことが特徴」と分析している。

また「12 新しいテーマに取り組むことを面白がる雰囲気がある」「15 現在の業務に直接関係のない探索的な活動が盛んである」といった点でもほかの型より高く、将来の種まきにも積極的であることを指摘している。

なお、「9 現場とトップの距離が近い」や「16 仕事に関連する雑談が活発である」などの項目に関しては、【変革型】【改善型】【開発型】それぞれに大きな違いはみられなかった。

変革型企業のトップは、自社製品・サービスによって世の中を変えたいという志向が強い

経営トップの志向も3つの型の間で違いがあるようだ。

同調査で経営トップが推進していることについて回答を求めたところ、まず【変革型】は他の型と比較して「1 自社の製品・サービスで世の中を大きく変えること」「2 業界初の製品・サービスを世の中に出すこと」がトップ。

【開発型】では「3 新製品・新サービスを継続的に生み出し続けること」「4 既存の製品・サービスの市場を拡大すること」の割合が、ほかの型と比べて高くなっている。

同研究所では、企業のイノベーション創出状況は経営トップが推進する内容と強い関連があり、【変革型】の経営トップは、自社製品やサービスによって世の中を変えようと志向しているようだと分析している。

変革型企業の人事では、ビジネスモデルを着想したり具現化したりできる人材を積極的に確保

同調査では、各企業の人材採用の状況についても調査している。結果、3つの分類で特に大きな違いがみられたのは下記2点。

  • 「1 新しいビジネスモデル(利益を生み出す仕組み)を創出できる人材」(変革型90.7%、開発型83.4%、改善型70.0%)
  • 「2 前例のないアイデアやビジネスモデルを具体化し、実現することができる人材」(変革型87.6%、開発型78.6%、改善型63.0%)

【変革型】は、ほかの型と比べて、ビジネスモデルを着想・具現化するなど新しいビジネスの種を生み出せる人材を確保できていると同研究所では分析している。3つの型によって、社内の人材の性格までこのように異なるという調査結果は興味深い。

日本企業がイノベーション競争での後れを打破するために

日本の企業は、世界の企業と比べイノベーション競争に後れをとっているといわれ続けてきている。

調査担当者・田島 尚子氏は、今回の調査結果から市場や業界構造の組み換えを起こすような変革型イノベーションが1人の天才によるものではないと指摘。

アイデアに優れた人、それをビジネスモデルに落とし込む人、マネタイズする人、しくみを動かす人といった多様な人々がパーパスの実現に向け一丸となり、チームで生み出すイノベーションが日本企業に求められていると話している。

img:産業能率大学 総合研究所