AIやIoTといったICT技術を活用し、食糧問題を解決しようという取り組みが始まっている。

食糧問題は、グローバルなレベルでの社会的課題だ。世界人口は、2050年までに100億人に達すると予測されている。

一方で、農業人口・農業用地は不足する見込みだ。さらに異常気象や水不足による、収穫量の不安定化も、食糧問題を深刻なものにしている。従来型の生産方式だけでは、乗り越えられそうにない。

そこで、食料の安定供給にむけ、大規模な植物工場の建設が始まった。そして、さらなる収穫量の増大と高品質化を目指し、AIやIoTを活用する実験行われるという。

植物工場で、農業ビッグデータとAIを活用

2018年10月9日、スプレッドと、西日本電信電話(以下・NTT西日本)は、植物工場における共同実験の開始を発表した。

スプレッドは、2007年から大規模な植物工場での生産を行っている企業だ。独自の栽培技術や生産管理技術を確立し、すでに黒字化を達成している。2018年秋には、次世代型農業生産システム「Techno FarmTM」を、京都府木津川市で稼働開始させる。

Techno Farmは、新たな農業の形として注目される“人工光型植物工場”だ。閉鎖された空間で、LEDなどの人工光で植物を栽培する。世界中のさまざまな地域で生産が可能となる。

一方のNTT西日本は、これまでICTを活用し、さまざまな社会課題解決に取り組んできた。農業分野では、LPWAを用いた水田の水位管理や、トマトの生育に関わる環境最適化の実験を行い、ノウハウを蓄積している。

LPWA(Low Power, Wide Area)は、消費電力が低く、遠距離通信が可能な通信方式だ。

今回両社が行う共同実験では、スプレッドが展開するTechno Farmから収集する農業ビッグデータを、NTT西日本のICT(IoT・AI)を駆使して分析。自動で最適な栽培環境を導きだし制御することをめざす。

まず、センサーなどから集める温度・湿度・光量・養液といった工場内環境データ、生育状況、収穫実績などのデータを蓄積する。複数拠点でクラウド上に蓄積されたデータは、遠隔で確認できるよう、加工・可視化される。

情報はビッグデータ化して、最適な栽培環境パターンを解析。生育環境にフィードバックし、栽培環境を制御することで栽培高度化を実現する。

栽培効率を最大化するAIを開発し、国内外に展開するTechno Farmへの導入や、ほかの農業分野への展開などをめざすという。

ハイテク化により、収穫量を増大させようという取り組みは、国土面積が小さなシンガポールにおいてもみられる。

シンガポールが、新たな農業の生産方式で食糧危機にいどむ

90%以上の食べ物を輸入に頼っているシンガポールでも、食糧危機への対応が進められている。

シンガポール農水畜産庁(AVA)が立ち上げた、「農業生産性向上ファンド」の支援を受けて誕生したのが、「スカイ・グリーンズ」だ。世界初といわれる「低炭素・水力式垂直システム」で農作物を生産する。

高さ9メートルのフレームには38段の鉢が設置される。各段の鉢は水力で上下に動き、農作物が十分な日光を得られるように調整。LEDライトを使用しないため、エネルギー消費を抑えることが可能だ。

垂直方向でのスペース活用によって、平面農地に比べ、最大で10倍の生産量を実現できる。レタス、空芯菜、カイラン、ほうれん草などの栽培がおこなわれている。

またスタートアップのSustenirは、LEDライトなどを活用し、シンガポールでは育たない作物の生産に取り組む。

植物工場内でLEDライト・エアコン・スマート灌漑システムなどを駆使し、常夏のシンガポールで、涼しい環境を好む農作物の栽培を可能にした。ケール、いちご、トマトなどを生産している。育成環境は最適化され、栽培期間を、伝統的な農業の半分に短縮した。

作物のカスタマイズも可能だ。ケールの茎を食べられるほどの柔らかさにし、100%消費できるようになった。捨てていた茎が、ゴミにならずにすむ。

テクノロジーを活用した取り組みにより、現在10%ほどの食料自給率を、20%まで高められる可能性があるという。

農業の可能性は、AIによる自動化・最適化

開拓できる農地が限界に達し、肥料や農薬もこれ以上使えない。こうなると、AIによる栽培の最適化によって収穫量を増やすというのが、残された道なのかもしれない。

また、異常気象などの気候変動に左右されないという面では、植物工場での栽培が、安定供給の可能性を拓きそうだ。世界各地に、農地開拓に代わって、建設されていくだろう。

人口増加・気候変動といった課題に囲まれながらも、それらをテクノロジーによって解決する新しい農業のイメージが、具体化されつつあるようだ。

img:Techno Farm , PR TIMES , Sky Greens