2030年までに国内に人工知能1兆元(約16兆円市場)市場を創出し、同分野のグローバルリーダーになる。

2017年7月、中国は国家レベルで人工知能の開発に取り組むためのロードマップを明らかにした。また、バイドゥ、アリババ、テンセント、アイフライテック(iFlyTek)の4社を音声認識や自動運転などに活用するための次世代人工知能の開発を主導する「中国代表企業」第一団に指名、官民がタッグを組んでプロジェクトを進めることを国内外にアピールした。

このほか、中国政府は21億ドル(約2,300億円)を投じて北京郊外に人工知能産業パークを開設する計画を公表、さらに人工知能人材育成プログラムをローンチするなど、中国における人工知能開発の取り組みは加熱の様相を呈している。

多くの資金が集まり、研究施設などのインフラも整備されており、人工知能開発は中国政府が目論む通りに進みそうな印象だ。

しかし、深刻な人材不足に直面しており、楽観視できない状況といわれている。人材不足問題はどれほど深刻なのか。この問題を解決する方法はあるのだろうか。

深刻な人工知能人材不足、小中校での人材育成がカギか?

テンセントがこのほど発表した人工知能に関するレポートによると、現在世界中には約30万人の人工知能人材がいるという。このうち、20万人が企業の研究者、10万人が大学の研究者であるという。

この30万人の供給に対して、需要は数百万人といわれており、需給バランスはまったくとれていない状況と指摘している。

中国政府の機関紙、人民日報が教育部(教育省)高官の話として伝えたところでは、数年後には中国だけで500万人の人工知能人材が必要になるという。

また中国・清華大学が2018年7月に発表したレポートによれば、中国の人工知能人材は1万8,232人と世界全体の8.9%となり、米国の13.9%から大きく引き離されていることが判明。さらに、中国で質の高い研究ができるハイレベルな人工知能人材は、米国比で20%しかいないことが明らかになっている。

同レポートは、人工知能研究に関して、中国はその量と引用数で世界最大であるが、質の面で米国に劣っていると指摘している。

タイムズ・ハイヤー・エデュケーションによると、2011〜2015年の間に発表された人工知能関連の国別論文数は、中国が4万1,000本で世界最多だ。次いで、米国2万5,500本、日本1万1,700本、英国で1万0,100本などとなっている。

一方、「Field-weighted Citation Impact(FWCI)」と呼ばれる質的側面から論文の影響を測ることができる指標の国別ランキングをみると、人工知能研究に関して中国は世界34位とぱっとしない結果となっている。これはタイムズ・ハイヤー・エデュケーションが文献データベースを分析し、作成したランキングで、1位はスイス、2位シンガポール、3位香港、4位米国、5位イタリアとなっている。

こうした調査レポートから、中国では人工知能人材が全体的に不足し、さらにハイレベルな人材に至っては非常に少ないことが浮き彫りになってくる。

この状況は、労働市場にも大きな影響を及ぼしている。人工知能人材の給与が高騰しているのだ。

グローバルアドバイザリー企業ウイリス・タワーズワトソン(WTW)のマネジングディレクター、エドワード・シュ氏がサウス・チャイナ・モーニング・ポスト紙に語ったところによると、同じ学位を持っていたとしても、人工知能産業で働く場合、他の産業に比べ給与が高くなる場合が多いという。

たとえば、一般的な博士号取得者の年収は12万1,000元(約196万円)だが、人工知能産業では30万〜50万元(約480万〜810万円)となり、中国の投資銀行アナリストの平均年収33万2,000元(約540万円)をも超えるというのだ。

前出のテンセントの人工知能レポートでは、大学や研究機関を含め中国の人工知能人材を育てる基盤が米国に比べ弱いと指摘しており、それが人材輩出にも影響を及ぼしていることを示唆している。

ちなみに同レポートのまとめによると、著名研究者と論文数で評価した人工知能分野の大学ランキングでは、

1位カーネギーメロン大学
2位カリフォルニア大学バークレー校
3位ワシントン大学
4位MIT
5位スタンフォード大学
6位コーネル大学
7位ジョージア工科大学
8位ペンシルベニア大学
9位トロント大学
10位イリノイ大学アーバナシャンペーン校

と、カナダのトロント大学を除き米国の大学がトップ10のうち9校を占めている。中国本土からは北京大学12位、清華大学16位と2校がトップ20内に入っている。


カーネギーメロン大学のキャンパス

中国政府は、人工知能分野の人材不足問題を深刻に捉えており、解決に向けて本腰を入れ、取り組みを始めている。

2018年4月には、高校生向けに初めて作成された人工知能の教科書『人工知能の基礎』を公開。中国の人工知能企業センスタイムの会長であり、香港中文大学情報工学教授のタン・シャオウ氏が筆頭著者を務め、人工知能の歴史に加え、顔認識技術を活用した公共防犯システムや自動運転などその応用分野について詳しく述べられている。

北京や上海など都市部の高校40校ほどがセンスタイムの支援を受け、高校への人工知能教育プログラムの試験的導入を実施する見込みだ。この試験的導入がうまくいけば、中国全土に普及する可能性があるという。

高校だけでなく小学校や中学校でも人工知能やプログラミング学習が組み込まれることになるかもしれない。中国国営メディアCGTNによると、2017年8月に中国国務院が発表した文書に、小学校や中学校でも人工知能学習の導入が進められることが盛り込まれていたというのだ。このほか、専門学校や専門機関などで社会人向けの人工知能コースを増やすことも計画されているようだ。

これらの取り組みが人材不足問題をどこまで解消することができるのか、今後の展開から目が離せない。

文:細谷元(Livit