都内2ヶ所で放映を始めたインディーズ映画が今爆発的なヒットを記録しているのはご存知だろうか。

新人映画監督が経歴のない俳優陣を採用し、わずかなコストで制作された「カメラを止めるな!」。これといったヒット要因が見当たらない本作が世間で話題になり、満員御礼になっている背景には“SNS”の存在があった。

今回、SNSのデータで映画のヒット理由を分析するという試みが行われた。株式会社スパイスボックスは、同社の主要SNSの定量、定性データ分析プラットフォーム「THINK」を使って、SNSデータを起点にこの夏予想外の大ヒットを飛ばしている話題の映画「カメラを止めるな!」のヒット理由を調査・分析した。

SNS上での高評価が大ヒットへ導く

同社は、SNS上の口コミデータや行動データを踏まえた広告コミュニケーション戦略設計からコンテンツ制作、情報流通設計、効果検証まで行うデジタル・コミュニケーション・カンパニーだ。SNSを含むソーシャルメディアを使った企業ブランドの認知、好意形成支援「エンゲージメント・コミュニケーション」施策支援を強みとしている。

調査は、スパイスボックス独自のソーシャルリスニングプラットフォーム「THINK」にて、「カメラを止めるな!」に関連するエンゲージメント数、投稿数、記事掲載数と口コミ内容を調査・分析した。

エンゲージメント数とは、いいね!やシェア、コメント、リツイートなどFacebookとTwitterでの総アクション数に加え、対象コンテンツについて取り上げた記事に対するSNS上における口コミの総数のこと。

また、SNSタイムラインの投稿数とは、企業アカウント、著名人、一般人問わず、国内のSNS投稿データを収集(サンプル収集による拡大推計を実施)したもの。

記事掲載数は、「THINK」では、国内主要Webメディア、動画サイト、ブログ、まとめサイトなど約2,000サイトの記事、コンテンツデータを収集しており、その中から該当記事数を算出した。

そして、口コミ内容については、同社アナリストが該当記事、投稿から内容を分析した。

まず、上の図の「注目ポイント①」をみて欲しい。これは、『6日間の先行上映時期』だが、この時期の口コミは、主に映画に関わる人々から「思わず人に伝えたくなる映画内容」や「37分ワンカット」などのギミック、「著名映画監督、著名映画レビュワーによる賞賛」についての言及が中心だった。

また、図の注目ポイント②は『受賞決定、マスコミ関係者向け試写会実施時期』だが、この時期、映画賞の受賞によって集まった注目に加え、映画のPR用に行われたマスコミ関係者向け試写会をみた芸能人、有名人による口コミがスタートした。そして、Twitterなどで絶賛コメントが相次いだ。

その他、一般人からは以下のような口コミが急増した。

  • 「予算300万円なのに…」
  • 「無名監督、無名俳優なのに…」
  • 「(当初は)2館しか上映されていないのに…」
  • 「B級ホラーだと思ったのに…」
  • 「面白い!」

こうした数々の“わかりやすいネガティブ指標”とそれを鮮やかに裏切る高評価が、ライトな一般層へのフックとなり一気に注目度が高まった。

そして、図の注目ポイント③は注目度急上昇時期を示している。当初はSNSで話題沸騰後も上映館数が限られており、“見たいのに、見れない”欲求不満現象が発生。「ネタバレ厳禁」な内容のため、簡単なあらすじしかわからず鑑賞希望者の飢餓感が増幅した。

SNS上では、映画チケットの「完売」情報や記録的猛暑や台風接近中にも関わらず映画館前に「大行列」ができていることなどが話題となり、「そこまで面白いならみたい!」と、ついに社会現象化へとなったのだ。

これについて、スパイスボックス メディアコンテンツ事業部事業部長角田和樹氏は「今回のヒットは、映画の魅力もさることながら、SNS上での口コミ量を爆発させ今回の大ヒットに繋がった。」とコメントしている。

新しい時代の映画の在り方とは

そもそも映画がヒットする要因とは何だろう。これまでは、有名監督の作品、あるいは人気俳優・女優が出演、さらには権威のある賞を受賞したから、といったことが大きな要因だった。

もちろん、これまでも無名監督作品で、出演者も無名、しかも低予算という映画が口コミでヒットすることはあった。しかし、その口コミはあくまで実対面での人間関係上で広がっていったものだった。

2016年に封切られたアニメ映画「この世界の片隅に」は、クラウドファウンディングで製作資金を調達したことが話題になった。このアニメはその年のキネマ旬報ランキング1位に輝き、2018年8月現在でもロングランが続いているという。今回の「カメラを止めるな!」のヒットといい、映画の製作法、宣伝法などその在り方も新しい局面を迎えているのではないだろうか。

img:PR TIMES