14億人と世界最大の人口を抱える中国。モバイルユーザー数11億以上、ソーシャルメディアのアクティブユーザー数は9億以上とどちらも世界最大となる。

We are Socialの最新レポートでは中国でもっともアクティブなソーシャルメディアプラットフォームをランク付け。最大はWeChat、次いでQzone、Youku、Sina Weibo、Tencent Weibo、Tudou, Renrenなどが名を連ねている。

WeChatは中国IT大手テンセントが提供しているソーシャルメディアだ。最近日本でもメディアによく登場するので、日本での認知度も高まっているといえるだろう。


中国深センのテンセントビル

WeChatの月間アクティブユーザー数は世界全体で10憶人を超えており、中国だけでも5億人いるといわれている。

メッセージだけでなく、「WeChat Pay」という支払い機能も備えており、ライフスタイルに深く浸透するアプリとして、その可能性に注目する海外メディアや投資家も増えている。フォーブス誌では「世界でもっともパワフルなアプリの1つ」と評価、またバークシャーハサウェイの幹部はVisaやマスターカードに並ぶ存在になると発言している。

しかし最近になり、中国のミレニアル世代を中心に「WeChat離れ」が少しずつ進んでいるといわれてる。その背景には、WeChatに対する見方が変わり始めていること、中国ソーシャルメディアの寡占状態に対する懸念の増大、プライバシー意識の高まりなどがあるといわれている。

中国の若い世代はWeChatなど国内ソーシャルメディアに対してどのような考えを持ち、利用是非の意思決定を行っているのか。今回はWeChatをめぐる最新動向をお伝えしながら、中国ユーザーの意識にどのような変化が生まれているのか、その実情を探ってみたい。

中国ミレニアル世代のWeChat離れとその理由

「中国のテックサビーなミレニアル世代は、なぜWeChatを辞めるのか」。アリババ傘下の香港メディア、サウス・チャイナ・モーニング・ポスト(SCMP)紙が2018年7月22日に公開した記事は、ユーザー数が順調に伸びていると思われたWeChatの意外な側面をあぶり出している。

この記事によると、中国ミレニアル世代の若者たちが主にプライバシーへの懸念から次々にWeChatを辞めているという。

ある23歳の男性は、最近テンセントがWeChatのユーザーデータを中国当局に渡したという報道を聞き、プライバシー侵害を恐れWeChatを辞めたと語っている。この男性は米国の大学で4年間学び、昨年夏に中国に帰国。米国に滞在していたときからWeChatを利用していたが、そのときは大学の友人とメッセージを交換するだけのシンプルなものだった。しかし中国に帰国したとたん、生活のあらゆる側面に浸透するアプリに変化したという。

メッセージだけでなく、ニュース、モバイルペイメント、Eコマースハブ、さらには行政サービスセンターとしても機能するためだ。WeChatのアカウントは社会保障の電子IDとして使え、また年金・税金の管理、さらには離婚届までできるといわれている。

これはWeChatが個人に関するあらゆるデータを持っていることを意味し、当局に渡されたり流出したりした場合、個人は丸裸にされてしまうリスクを背負っていることになるのだ。

またWeChatでは、WhatsAppやTelegramなどのメッセージアプリが標準導入しているエンド2エンドの暗号化を施していないこともプライバシー侵害の懸念を増大させる要因になっているという。暗号化されていないことで、政府だけでなく、いかなる第3者のアクセスも許してしまうリスクを抱えているのだ。

中国人の精神・文化を形作るWeChat、すべてを委ねるリスク

米国での在住経験があり、現在日本に住んでいる中国人有名テックブロガー、ローレンス・リー氏が2016年2月に公開した「Bye‐Bye WeChat」と題した記事は、テックコミュニティの間で大きな反響を呼んだといわれている。2018年6月に英語版が公開された同記事は、WeChatが中国の若い世代にどのように受け止められているのか、その実情を浮彫にしている。

リー氏は、WeChatが生活のあらゆる側面に深く浸透しており、中国人の精神や文化を形作る存在になっていると指摘。一方、このようなアプリは他に存在せず、唯一の選択肢となっており、その唯一の選択肢によって精神や文化が形作られる状態を憂慮すべきと説いている。ソフトウェアプロダクトやプラットフォームとしてWeChatに反対しているのではなく、WeChatに限らず、唯一の選択肢にすべてを委ねるライフスタイルを批判しているというのだ。


生活のあらゆる側面に浸透するWeChat

また、フェイスブック・アカウントに相応する「WeChat Officia Accounts Platform」でテンセント傘下ではないサービスや企業のURLの貼り付けが禁止されていることにも言及。情報の閉鎖性を高めるだけでなく、リンクを貼れないため外部ソースを丸写しする剽窃行為を助長するものになると批判している。
※剽窃:他人の文章・語句・説などをぬすんで使うこと

WeChatに対する懸念はテックサビーな若い世代だけでなく、広く一般にも広がりつつあるようだ。

中国関連ニュースを英語で発信するメディア、Inkstoneが2018年7月26日に公開した記事では、最近WeChatの検閲基準が変わり、意図しない中国政府批判でWeChatアカウントが強制削除されたという事例が増加していることを伝えている。政治活動や反政府活動などとはまったく関係のない人々の間で起こっており、困惑する人が増えているという。Inkstoneが話を聞いた人々の共通点は、中立的に政府の話題を出しただけで、アカウントが強制削除されたということだ。

リー氏が指摘するようにWeChatが中国人の精神や文化を形作るものであるすると、中国では政治のことを中立的な立場でさえ議論できない文化になりつつとあるといえるだろう。

以前お伝えしたように、中国では政府による監視を強化するブラックテクノロジーの開発・普及が進んでいる一方で、国民の間ではプライバシー意識が高まりつつある。中国では伝統的にプライバシーという概念が育たなかったが、欧米価値観の影響を受けた中国人によって、中国でもプライバシー意識が芽生えている。しかも、最近では欧米での高等教育を受けた中国人のUターンが増加しており、国内のプライバシー意識はますます高まっていくと考えられる。

こうした変化のなか、WeChatを含め、中国発のソーシャルメディアはどのように立ち振る舞うのか、今後の動向が気になるところだ。

文:細谷元(Livit