eye catch image:世界最大規模のeスポーツ大会「Intel Extreme Masters」の様子

対戦型オンラインゲームを競う「エレクトロニック・スポーツ(eスポーツ)」が大きな盛り上がりを見せており、新たなビジネス市場が生まれている。

家具、ウエア、ドリンクなど、いわゆる「ゲーマー」専用の商品が続々と投入されているほか、アメリカの大学では中高生を対象としたeスポーツ専門のサマーキャンプも登場。

eスポーツ選手を対象とした奨学金も提供されており、「ゲームばかりしないで、勉強しなさい!」という小言が空洞化する勢いだ。

家具もドリンクもゲーマー仕様に

スウェーデンの家具量販店IKEAはこのたび、eスポーツ専用の家具に参入する計画を明らかにした。ゲームライフを快適に過ごせるよう、3Dデザイン会社のUnyq、教育的eスポーツ活動を運営するArea Academyと組んで、ゲーマー用のカスタマイズ製品をプロデュースする。

各人の身体にフィットするようUnyqの3D技術を導入するほか、Area Academyのネットワークを使ってeスポーツの「アスリート」からアドバイスを得るという。

ゲーム専用の椅子は、すでにDXRacer、Vertagear、MAXNOMICなどゲーマー特化型のブランドが展開しているが、IKEAというマスマーケットを対象とした家具大手がeスポーツ商品に乗り出したことは、この市場への期待の高さを示すものと言えるだろう。


Meta Threadsが販売するゲーマー用のアパレル。「NINJA COLLECTION」は有名ゲーマーによるもの

eスポーツのアパレル・ブランドも続々と登場している。Meta ThreadsやDesignByHumands、J!NXなどはプロのeスポーツチームのウエアやゲーマー向けのカジュアル衣料などを販売。特定のゲームブランドのデザインや、一定のファンを獲得しているインフルエンサーのオリジナルなど、ゲーマーによるゲーマーのためのデザインがユーザーに受け入れられている。

大手スポーツブランドの中では、アディダスがデンマークの「North」やフランスの「Team Vitality」といったeスポーツチームのブランド商品を展開しているが、今後、大手がこぞってeスポーツ専用ラインを投入するのも時間の問題だろう。


リランタイム」はゲーマー用のドリンクや食品を販売。集中力を高める工夫が施されている

スポーツといえば栄養剤やドリンクも一大市場を成しているが、eスポーツも例外ではない。

独ベルリンを拠点とするRuntime(ランタイム)は、eスポーツ専用のドリンクを開発・販売している。ドリンクのほか、シェイカーで混ぜるだけの流動食や「パワースナック」など、簡単に栄養補給できる食品も展開。ゲーマーの集中力を高め、冷静な精神状態を保てるよう、天然糖質のイソマルツロースを使って血糖値を安定化する工夫も施している。フィールドで走るための栄養補給ではなく、ずっと椅子に座って集中し続けるための商品なのだ。

Runtime以外にもアメリカのGfuel、スウェーデンのNAUなど多くのメーカーがeスポーツドリンクを展開している。

夏休みはeスポーツのサマーキャンプで


カリフォルニア大学アーバイン校では公式のeスポーツプログラムが設定された

eスポーツが盛んなアメリカでは、大学が中高生を対象としたeスポーツのサマーキャンプに乗り出している。カリフォルニア大学アーバイン校(UCI)では2017年夏に開催した女子高生対象のサマーキャンプの成功を受け、今夏も中高生を対象に3つのeスポーツプログラム――「ガールズ・イン・ゲーミング・キャンプ」「リーグ・オブ・レジェンド・ブートキャンプ」「オーバーウォッチ・ブートキャンプ」――を実施する。

キャンプの開催期間は1週間。仲間と寝食を共にしながら、朝から晩までゲームのトレーニングやレクチャーを受ける。チームプレイを改善するため、グループアクティビティやチーム対抗の練習試合が組み込まれてるほか、録画したプレイのレビューやディスカッションも。また、最終日には全5時間にわたるチーム対抗トーナメントも実施される。

南カリフォルニア州のコンピューター産業が集まる地域に位置するUCIは、早くからコンピューター・ゲーム・サイエンス学科を設置していたが、2016年9月からは、公立大学として初めて公式のeスポーツプログラムを開始した。

人気の対戦型ゲーム「リーグ・オブ・レジェンド」と「オーバーウォッチ」のチーム形成のため、eゲームアスリートには奨学金も付与している。同プログラムはもちろん、アカデミックな調査にも貢献しており、人気3Dゲームの「マインクラフト」と記憶力の向上に関する神経科学の研究などが行われているという。

ペンシルバニア州のハリスバーグ科学技術大学もハイスクールの学生を対象としたサマーキャンプを開催。参加者は「リーグ・オブ・レジェンド」「オーバーウォッチ」「ハースストーン」のゲームスキルの向上を目指す。

キャンプでは「eスポーツ浸漬ブートキャンプ」というプログラムも提供しており、ここではeスポーツ産業についての概要やeスポーツ関連のマネジメント、プロダクション、エンターテイメントといった将来のキャリア機会について学べる。同大学でも強いチーム形成に向け、今秋からeスポーツ分野で15のアスレチック奨学金を提供する計画だ。

世界のeスポーツ市場は2021年に1,800億円規模に

企業や大学がこぞってeスポーツ市場に乗り出す背景には、同市場の急拡大がある。オランダの調査会社Newzooによると、広告、スポンサーシップ、放映権、関連商品、チケット販売、ゲームパブリッシャー料金の売上高を含むeスポーツ市場は、2017年に前年比33%増の6億5,500万ドル(約720億円)に達した。同市場は2018年には同38%増の9億600万ドル(約990億円)、2020年には16億5,000万ドル(約1,800億円)に拡大するとみられており、大手企業やメディアにも無視できない場となってきている。

2018年のスポーツ市場の国別シェア(推定)は、最大のアメリカが38%で、中国の18%がこれに続く。日本はゲーム大国であるにも関わらず、eスポーツ市場に限るとそのシェアは5%程度と言われており、今後の伸びしろが大きいとみられている。

参考:世界と比較した日本のesports市場、その現在と未来とは? [ファミ通App]


有名プロチームの「チームリキッド」は数々のトーナメントで優勝している(Team LiquidのFacebookより)

各国ではeスポーツのプロリーグも誕生しており、企業が協賛するプロチームが養成されている。アメリカでは大会の賞金や契約金などで億万長者になるプロゲーマーが出てきており、彼らにはスポーツ選手用のビザも発給されている。

また、eスポーツは国際的な競技大会にも採用されつつあり、2022年のアジア競技大会では正式競技になることが決定しているほか、オリンピック競技に採用される可能性も浮上している。将来はプロゲーマーの中から、ロナウドやメッシのようなスーパースターが生まれる可能性もある。

観戦者数も急速な勢いで増加中。YouTubeやツイッチなどの動画配信サービスで、ゲーマーのプレイをリアルタイムで見られるようになったことがオーディエンス拡大を後押ししている。

Newzooによると、2017年の観戦者数は、前年比19%増の3億3,500万人。2018年には同14%増の3億8,000万人、2021年には5億5,700万人に増える見通しだという。ネットの視聴者が増えることで、スポンサーも付き、広告料や大会の配信料などの新たなビジネスが生まれる。

eスポーツの世界は、テクノロジーの進化を背景に想像を絶する勢いで拡大中。不健康で、非社会的なイメージが付いていたゲームのイメージも一転し、プロのゲーマーは夢の職業にさえなりつつある。

eスポーツがどのように発展するのか、どんな新しいビジネスを生み出すのか、今後の行方が注目される。

文:山本直子
編集:岡徳之(Livit