街中のカフェ、旅行先のホテルなど、Wi-Fi環境があればどこにいても仕事ができる。つい、旅行中もSNSで友達と気軽なコミュニケーションが続く。

MMD研究所の調査によると、15歳~59歳の回答者が1日にスマホを利用するのは「1~4時間」が6割近くを占める。仕事でパソコンと向き合い、通勤時や休憩の合間にはスマホでウェブをチェック。私たちの生活においてインターネットは不可欠な存在だ。

しかし、それによる悪影響が出ていることも見逃してはいけない。眼球疲労や肩こりなど身体の不調だけではない。特にSNSはタバコやアルコールよりも中毒性が高く、うつや睡眠障害にも影響しているという調査結果もある

デジタルデバイスに疲れた人々を救うような旅行サービスが生まれている。ベルギーのスタートアップが2017年に立ち上げた「Slow Cabins」だ。

予約をするだけで、ネットの繋がらない大自然に行ける「Slow Cabins」

旅行サービス「Slow Cabins」の利用者は、エコキャビンに乗って大自然が広がるベルギーの田舎の“どこか”へ向かう。滞在するエコキャビンにテレビはなく、Wi-Fiも繋がらない。最低限の電源は充電式バッテリーで用意されている。

旅行者には具体的な場所が予約完了までわからない、「ミステリーツアー」形式になっている。そのため、どこへ行くか事前にプランを立てたり、オンラインでリサーチをしたり、過度な注意を払わなくても良い。また、旅行中は外からの情報がシャットアウトされ、キャビンと大自然のみを堪能することになる。

キャビンの大きさは全部で3種類。2人で泊まるカップル向けの「Time For Two」、5人まで可能な「Time For Family」、そして1人で過ごしたい人のための「Time For Focus」。どのキャビンもくつろげ、リラックスできる。都市での日々から離れ、静かに落ち着いて滞在できるよう図られている。

プランの名前に“Time For”が付くように、キャビンでは今一緒にいる人と向き合うための時間が作られる。「今、ここにいない人」からのやり取りが常に発生してしまう日常を抜け出し、目の前にいる人に集中して向き合えることで深い関係を築いたり、見直していったりするのに貢献するサービスともいえるだろう。

コンパクトなキャビンはエコフレンドリーにできている。屋根についたソーラーパネルで蓄電し、水は雨水を貯めたタンクからろ過して使用する。大きな窓が特徴で、キャビンの中にいながらも外の自然を堪能できる。

焚き火を囲んで自然を味わうのも一興だ。食事は希望を出せば、その土地で採れた食材を使った料理が届けられる。旅行者は何もしなくてよく、自分の過ごしたいままに時間を使える。

現在はベルギーのみサービスを展開している「Slow Cabins」だが、今後はヨーロッパ地域へと事業を広げていくという。

これからの旅行サービスには“心身の休養”が必要

Slow Cabinsのような心身の癒しを提供する旅行市場は拡大傾向だ。大自然の中で心を鎮めたり、身体に優しい食事を取ることで精神面での回復を行う旅行を指す「ウェルネスツーリズム」は、2020年に8000億ドル規模になると予想されている

PCやスマホなどの電子機器を一定期間持ち歩かない時間を持つことは、「デジタル・デトックス」とも呼ばれる。デトックスとは体内の毒素を排出する活動のことだが、まさにデジタル環境に身を晒すことで溜まったものを同様に浄化する狙いがある。

デジタル・デトックスについてもサービスが生まれている。ホテルチェーンのマンダリンオリエンタル・グループで行われているトリートメントでは、施術前にデジタルデバイスを預けることが推奨されている。

世界で進むデジタル・デトックス –「つながらない権利」を尊重する国も

インターネットやデジタルデバイスがもたらす恩恵は数限りない。日常の様々なことが便利になり、今では欠かせない存在だ。

しかし、私たちの生活に密着しているからこそ、ウェルネスツーリズムやデジタル・デトックスのように、ユーザーの声なき声を拾い上げ、サービスへ昇華させる動きも活発化する。「デジタル疲れ」の私たちに癒しをもたらすサービスは、今後も世界で展開されていくだろう。

img: Slow Cabins,Unsplash