昨今、AIの活用が世界的に推し進められている。AIはあらゆるデータを元にして人の業務を効率化するが、実装するにあたり、膨大なデータ量を必要とするのがネックになっている。

今回、NECが少量の収集データで活用可能な機械学習技術を開発した。この技術は、学習用のデータ量が十分に得られていない段階からでも機械学習技術の活用を可能とするという。

機械学習技術を十分に発揮できるAI技術

近年、インターネット上に公開された豊富な画像などのデータに対して、ディープラーニングを代表とする機械学習技術が大きな効果を発揮し、さまざまな用途で活用されている。しかし、データ収集の初期段階や、データ収集コストが高い環境のように学習データが大量に得られない状況では、これまでの機械学習技術はその効果を十分に発揮できなかった。

今回開発した各技術の特長は以下の通りだ。

  1. 専門知識を持つ人のノウハウを取り入れて、学習効率の高いデータを能動的に収集

    実世界で起こる状況を把握するためのフィールド調査を行うには、データ収集に大きなコストがかかるため、より少ない実験回数で学習することが求められる。この技術は、業務や領域での専門知識を持つ人の物事の因果関係に関するノウハウ(肥料の成分と植物の育成の関係、など)を数値化して活用する。

    これにより、学習効率の高いデータを能動的に収集し学習を行えるため、より少ない収集データで学習することが可能となり、データ収集コストを下げることができる。
  2. 複数シミュレーション結果の類似度に基づいてパラメータ修正を繰り返すことにより、正確なシミュレーションパラメータを推定

    複雑なシミュレーションを行うには多数のシミュレーションパラメータが必要で、実データに合わせて正しくパラメータを調整する必要がある。しかし実データが少なく、初期パラメータの見当がつかないと従来の技術では実データに合うようなパラメータを推定できず、正確なシミュレーションが行えなかった。

    この技術では、パラメータ値の異なる複数のシミュレーション結果の類似度に基づいたパラメータ値の修正を繰り返し、正しいパラメータ値を推定する。
  3. AIの分析結果に基づく意思決定時に、少数データの偏りに影響されにくい意思決定が可能な学習

    効率的な資産配分の決定など、データから学習した結果に基づいて人の意思決定を支援することが期待される。しかし学習データが少ないと、意思決定による効果を大きめに見積もってしまうという課題があった。

    この技術は、収集したデータを学習用と効果評価用に複数の分割パターンを準備し、それぞれの効果評価結果を平均して、より正確な効果を見積もる。これにより、少数データの偏りに影響されにくく、より正しい意思決定ができるようになる。

これらの成果の一部は、NEC-産総研人工知能連携研究室、国立情報学研究所、科学技術振興機構、統計数理研究所、Max Planck Institute for Intelligent Systemsとのオープンイノベーションによって得られた成果だという。

導入率が3%と低い日本。普及の鍵は人とAIが協業できる仕組みの作成

では、実際に日本企業のAI導入状況はどうなっているのだろうか。国際大学グローバル・コミュニケーション・センターがまとめたリポート「人工知能と日本 2017」からみてみたい。

この調査ではまず、「日本企業の人工知能導入状況」が調べられている。就労者アンケートによると、2017年時点での「日本企業の人工知能導入率」は3%だった。これは、アメリカ企業の導入率14%とくらべて、低い数字となっている。

しかしAIの導入はまだ少ないが、導入事例を見ていくと、情報通信産業関連サービスだけでなく、農業・林業など一次産業向けのサービスなど幅広い問題解決への利用が見られる。

また、2016年1月1日~2017年8月31日にリリースされた活用事例を分析すると、人工知能関連サービスの開発に使用した訓練データの量が、10万件以下のスモールデータの適用例も少なくないことがわかった。通常のテキストデータ、画像データ、数値データなどだけでなく、不動産データ、操作ログ、気象データ、Webのアクセスログなど広範なデータが適用されている。

しかし日本でのAI導入は、大企業でしか行われていないという実態もある。AI導入に必要なコスト面や技術面での情報が不足しているためだと考えられる。これに対しては、ライブラリ、ツール・Web サービス、学習済みモデルなど充実してきており、AI活用のハードルが低くなっている現状を広く知らせることが必要だとしている。

また人工知能の利用が進まない理由として、日本の制度面での障壁があるという。「建設業」「医療・福祉」は深刻な人手不足に悩んでいる。それと同時にAI×ロボットによるソリューションが導入しやすい領域だ。しかし、この2つは「資格」が必要な産業だ

AIを導入しても、結局、資格を持った人が業務に当たらなければ法律違反になることが考えられる。制度面を改善し、人とAIがうまく協業できる仕組みを作ることが必要となる。

機械学習の効率化がもたらす日本企業のAI導入

今回の新技術は、AIの精度を飛躍的に向上させる画期的な技術といえる。これにより、AIの活用範囲も広がり、日本における導入率も向上すると思われる。

少子高齢化やフリーランスの増加などにより、企業の労働人口減少の最中、少量データによる機械学習を可能にする今回の技術は、日本企業の課題の解決に勢いをもたらすかもしれない。

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