カンヌライオンズヤングコンペティション、サイバー部門日本代表、世界2位の実績を持つクリエイティブディレクター・中村洋基氏は、PARTYの設立メンバーだ。電通時代に秀逸なバナー広告で注目を集め、国内外250以上の広告賞を受賞している。

デジタルクリエイティブの先駆者として広告業界を牽引しつつも、ベンチャー企業の社外取締役やコーヒーショップのオーナー、ラジオパーソナリティなど多角的に活動している中村氏に、目覚ましい勢いで進化するテクノロジー社会を生き抜くヒントを伺った。

未来の体験を社会にインストールする

PARTYのオフィスには、ずらりと広告賞のトロフィーが並んでいる。PARTYは映像やアート、技術力で未来の体験を生み出すクリエイティブラボ。意外にも、立ち上げ当初はビジョンが存在しなかった。

中村「PARTYは、当初ロマンだけで作った会社なんです。広告のデジタルクリエイティブ分野で世界的に活躍しているメンバーが意気投合して、それぞれの会社を同じタイミングで辞め、PARTYを立ち上げました。このメンバーだったらすごいことができるんじゃないかというロマンに突き動かされたんですよね」

新進気鋭のクリエイターが集ったPARTYは、登場した瞬間から大いに注目された。大小さまざまな仕事が舞い込み、順風満帆に実績を積み重ねていったが、3年目に入って疑問が生まれた。

中村「仕事はたくさんあったのですが、いつまでこれを続けるんだろう?という気持ちが芽生えました。ほとんどの仕事がBtoBで、クライアントの要望に合わせて企画・納品したら完了。これだと持続性がなく、会社の経営を考えると課題を感じます。

社名の『PARTY』はRPGゲームのパーティーと同義で、得意分野が違う人たちが集まったひとつのチームを指しています。それが会社の特徴なので、今は『未来の体験を社会にインストールするクリエイター集団』だと自己紹介しています。このメンバーでしかできないことをしつつ、持続性のある事業を作れる集団にならないと未来がないなと思いました」

こうした意識の変化を経て、クライアントと共同でプロダクトやサービスを手掛けることが増えてきた。PARTYが重視しているのは、消費者の新しい体験だ。見たことのない体験を、現実世界に落とし込む。

中村「TVやラジオなど、マスメディアの広告でももちろんクリエイティブを表現できますが、 一方的なメディアです。いっぽうで双方向のコミュニケーションは、視聴ではなく、体験になります。

僕らは“消費者が未来につながる体験”を作りたいなと考えています。たとえばスマートフォン。スマートフォンを持ったらみんなの行動が変わった。そうした体験を社会実装することにコミットしたいと考え、広告から、プロダクト・サービスに注力するようになりました」

プロダクトやサービスの仕事が増えるにつれて、仕事相手も企業の広告宣伝部から経営者に変わっていった。広告キャンペーンの企画をする際も、企業のブランドに寄与するブランディングを軸に構成するので、自然と経営者相手に仕事することが増えていく。中村氏は、仕事では意思決定者と直接やり取りすることが非常に重要だと述べる。

中村「意思決定者に直接提案ができないと、インパクトが強い企画ほど意図が伝わりにくく、荒唐無稽な案に捉えられがちです。また、プロダクト・サービスやビジネスそのものの提案をすると、「それは広告宣伝じゃないからわからない」となってしまい、頓挫します。結局、多くの場合経営者とお話ができたからうまくいった仕事が多いです」

究極の自由がパフォーマンスを極限まで高める

PARTYの働き方はとても自由で、特殊なフレックス制度を導入している。出退勤もほぼ管理せず、外出などの予定を記入するホワイトボードすら設置していない。時間があれば勤務時間中に映画を観に行ってもいいというのだから驚きだ。

中村「Googleカレンダーを共有していますが、それ以外は個人の裁量で自由に動けます。一般的なフレックス制度にはコアタイムがありますが、それもいらない。ホワイトボードで管理もしません。社員のフレキシブビリティに会社のフレキシビリティは比例すると思います。

ルーティーンが多い業態は、逆にきちんと管理されたほうが心地いいと思うのですが、ルーティーンが極めて少ない業態であれば、窮屈に感じる管理は少ないほうがいいです。前職ではフレックス型でしたが、やはりホワイトボードや勤務表の書き方に依存が始まる、と思いました。あとは、働きすぎないように社員を守ることだと思っています」

パフォーマンスを高めるなら、従来の年功序列型の制度が適していないのは周知の事実だが、労務管理もパフォーマンス向上に直結しない。PARTYでは、ほかにも個人のパフォーマンスを高める工夫をしている。

中村「プロフェッショナル型人材は脚光を浴びるとモチベーションが維持できるものです。以前のPARTYはドリームチームだと思われて、どうしても評価がPARTY、または経営陣に集まってしまう。いまは、なるべく若いキーパーソンをフロントに立たせて注目されるようにしています。

知名度が上がるだけ独立心が芽生える可能性も上がりますが、退職しないように会社で囲うのはもう古いやり方だと思っています。いつ辞めてもいいってくらいレベルの高い人材がいて、その人にとって会社が魅力的な場所でありたい。会社を好きに利用してもらいながら、バックアップしたいです」

広告賞の呪縛から解き放たれた瞬間

中村氏は、ものづくり精神だけで作った広告クリエイティブは無意味だと語る。PARTYも広告賞が獲れる会社として注目されていたが、ある時「広告賞を獲ることに盲目的になってはいけない」と感じた。

中村「広告代理店の業界では、とにかく賞を獲ろう、というのがクリエイターの目標に設定されがちです。もともとは、広告クリエイティブとは広告費の節約だと思っています。いっぽうで、クリエイティビティのみを評価する広告賞が多く、実際の広告効果は審査項目に含まれていないこともあります。

最近では、世界最大の広告会社WPPがカンヌ広告祭への不参加を決めました。逆流してマーケティングや運用が脚光を浴びているように、いまは分水嶺だと思います」

テレビCMなら媒体費をかければどんな内容でも一定数売り上げが伸びるが、デジタル広告はそう簡単ではない。全くウェブサイトにアクセスされなかったり、バズっても売れなかったりと、当たりはずれが極端に出る。中村氏は、広告がうまく機能しない理由は、目的とマーケティングとクリエイティブが統一化されていないことにあると言う。目的を達成できるマーケティングおよびクリエイティブを実装できていないと、どんなに美しい広告も無駄打ちに終わってしまうだろう。

秀逸なアイデアは膨大なインプットから生まれる

世界を魅了するクリエイティブを次々に生み出している中村氏。その秀逸なアイデアの源泉は、若い頃に大量にインプットした過去の広告だ。とにかく多くの情報量を自身の脳内に取り込み、理解できるものを片っ端から抽象化・一般化したと言う。

中村「勉強の量は大事です。過去の広告賞の事例を『俺だったらこうする』と考えながら自分の型にはめて落とし込んでいました。その時の財産があるので、マーティングの目標と周囲の環境が出そろった時に、条件に一致するアイデアを自分の中から取り出すことで、すぐアイデアが出ることが多いです。ここ5年は忙しくて十分にインプットできていないので、アイデアが枯渇してきたのが悩みですが」

個人の価値をビットコインで売買するSNS『VALU』も、中村氏がこれまでインプットした知識から種が生まれたサービスだ。スタートアップの仕事をした際に、株式の構造に興味を持った中村氏は「この経営者そのものが魅力的だから、この人にカジュアルに投資できるプラットフォームはできないだろうか」と考えた。そして、自分の価値をトレーディングカードのようにやりとりする『VALU』が誕生したのだ。

中村「ビジョナリーでおもしろい社長に出会った時に『君、おもしろそうだから1000円払うよ』って言って気軽に投資したいなと純粋に感じました。会社やその人のバリューが成長したらその1000円の価値が10倍になるという仕組みが作れるんじゃないかと思いました。

世の中にはまだまだ面白いことを考えて、しようとしている人がたくさんいる中で、それとは無関係に貧富の格差が広がり、自分の夢を叶えられない。そういう人にチャンスを与えることができるプラットフォームにしたいです」

これからの時代を生き抜くのはスペシャリスト

PARTY新オフィス

中村氏は、これからキャリアアップしていく若い世代にはスペシャリティ(専門性)を身につけてほしいと述べる。

中村「ほとんどの学校では、 ジェネラリストを育てる教育をします。新卒採用においても、色々な部署で活躍できるようにジェネラリストを採用するのが主流でした。ただ、これからは抜きん出たスキルがある人じゃないと食べていけなくなります。これからは100歳まで寿命が伸びます。

そうしたら、定年後も30年以上働かなきゃいけないわけですよ。となると、選択肢は定年までにたくさん稼ぐか、定年後も稼げる仕事を作っておくかの2つです」

定年後も稼げる仕事とは、個人指名で舞い込む仕事だ。会社の枠組みから外れても求められるだけのスペシャリストにならなければいけない。こうしたことを教えてくれる大人はまだあまりいないのではないか、と中村氏は忠告する。

中村「スペシャリティが求められるこれからの時代は、自分の強みがなければだんだん声をかけてもらえなくなります。とはいえ、若いうちから『自分のスペシャリティは何だろう』と思っても見つかるはずはなくて、仕事をしているうちに偶然見つかるものなんですよね。

僕は広告がたまたま合いました。スペシャリティがまだ見つかっていない人は、眼の前にある課題に対して120%の力を振り絞って取り組んでください。その結果、身体でわかることのほうが早いかもしれませんね。」

自分のスペシャリティが見つかった人はぜひPARTYに来てください、と中村氏は笑った。

(取材・写真)木村和貴
(文)萩原かおり