百貨店、インテリア雑貨店、飲料など、様々なブランドが「体験」を売る試みに乗り出している。

ターゲットはモノより体験を重視するミレニアル世代。ポップアップストアやインスタレーションなどに加え、最近では旅の企画やワークショップなど、「思い出に残る」体験作りの幅が広がっている。


イギリスの百貨店「ジョン・ルイス」のインテリアコーナーに宿泊する顧客( YouTubeより)

百貨店のインテリアコーナーに1泊ご招待

イギリスの百貨店「ジョン・ルイス(John Lewis) 」は17年秋、ケンブリッジのオックスフォード・ストリートとリバプールにある2店舗内にポップアップ・アパートメントを開設。消費者が家具やテーブルウエアを実際に試せる空間を作り出した。

さらに、特定の日時にポップアップ・アパートメントを訪れた顧客のうち、抽選で数名を店舗宿泊にご招待。

「アパート」のベッドで一泊し、ベッドの寝心地を試せるほか、朝は新聞、フレッシュコーヒーとブランチで、商品を日常の舞台で楽しめるという企画だ。もちろんワードローブには最新のファッションが並んでおり、これらをゆっくりと試着できる。

抽選に漏れた人も「アパート」のイベントスペースをレンタルできる。コーディネートされたテーブルと音楽で、シェフのケータリング料理によるディナーパーティを開くことが可能。

また、「ホームデコ・ワークショップ」ではディナーパーティの演出やムードライティングの作り方も学べる。こうした体験の後、顧客が商品を直接購入できるのは言うまでもない。


インテリアブランドの「ウェスト・エルム」は、地元アーティストと組んだローカルツアーを主催(YouTubeより)  

一方、アメリカのインテリアブランド「ウェスト・エルム(west elm) 」は国内5都市で、地元のアーティストや職人と組んで「West Elm Local Experiences」という企画を立ち上げた。5-10人のワークショップで、参加者は地元に根差したアーティストや職人から、ローカルな環境の中でさまざまな技術を学べる。

例えば、サウスカロライナ州のチャールストンでは、アーティストのRaven Roxanne氏とのウォーキングツアーで、町の隠れ家を巡りながらデッサンを学ぶ。

また、ニューヨークのブルックリンではShira Entis氏によるインディゴ染めのワークショップ、テキサスではJack Saners氏のスタジオでメタルワーキングを学んだ後、キャンプファイヤーとライブミュージックの夕べを楽しむという企画がある。

ウェスト・エルムはデトロイト、サヴァンナ、インディアナポリスなどで今年からホテル事業にも参入。各都市で今一番面白いことを体験できるような企画を考えているという。その土地のアーティストとの個人的な経験を作り出すことで、顧客とその土地との絆を強めたい考えだ。

スペインのジン・メーカー「ジン・マーレ(Gin Mare) 」も、「地中海へ逃げ出そう!」と銘打った独自のツアーを企画した。

ロンドン最良のカクテルバー、レストラン、テラスをめぐりながら、極上のタパスとともにGin Mareを楽しめるツアー。顧客に「ぞくぞくするようなジンの世界」を体験させ、Gin Mareブランドを再認識してもらうのが狙いだ。

高級品マーケットでも体験を重視

ライカはインド、コロンビア、ハワイなどでカメラのワークショップツアーを開催

高級ブランドの間でも「体験」を売る動きが広がっている。

カメラブランドのライカは、世界中でフォトジャーナリズムのワークショップツアーを開催している「Momenta」と組んで、写真愛好家向けに特別ツアー を企画している。

この少人数のツアーにはプロのカメラマンが同行し、参加者はマンツーマンで写真編集の手ほどきを受けられる。

訪れる場所も典型的な観光地ではなく、地元に根差した、美しい写真の撮れるスポットばかり。ツアー参加者はライカのカメラを持っている必要はないが、レンジファインダーやポイントアンドシュートカメラを試したい人には、ライカ製品を使う体験もできるという。

現在予定されているツアーは18年11月のインド、12月のハワイ、19年3月のコロンビア、7月のルーマニアなど。参加費は6,000~7,300ドルと高めだが、ライカは「忘れ難い思い出になること請け合い」と自信を示している。

2017年のインドツアーに参加したある女性は、ツアーそのもの以外にも「カメラ友達との出会い」をメリットとして挙げている。

ランボルギーニ社の「ウィンター・アカデミア」は、ランボルギーニを持っていなくても参加可能。夢のスーパーカーで運転技術が学べる

高級スポーツカーのランボルギーニ社は、「ランボルギーニ・アカデミア」を運営。

さまざまなセッティングでランボルギーニ車を運転する技術を学びたい人にトレーニングを提供している。

冬にはアイスバーンなどの厳しい条件の中で、「アヴェンタドール」や「ウラカン」を運転する技術を学べる「ウィンター・アカデミア 」を開催。

参加者はイタリアのアルプスで豪奢なステイを楽しみながら、プロのインストラクターについて運転技術を学ぶ。ライカと同じく、参加者はランボルギーニを持っている必要はなく、誰でも夢のスーパーカーに乗る体験ができる。

同社が誇る「忘れ難い、型破りなドライビング・アドベンチャー」は今冬も開催される予定だ。

ミレニアルの消費は「モノより経験」

ミレニアル世代はモノより経験を重視。イベントに参加する人の割合が増加している。

メーカーや小売店がこぞって「経験」を売り出した背景には、消費の主力となっているミレニアル世代(1980年~96年生まれ)の消費性向がある。

イベントチケットの販売サイトを運営する「Eventbrite」が2017年4月、18歳以上のアメリカ人2,012人を対象に行った調査 によると、ミレニアル世代の4人に3人が「モノより経験を買いたいと思っている」ことが分かった。

実際のところ 、過去12カ月に何らかのイベントに参加した人は、ミレニアル世代の89%に上っており、これは2014年の数値(82%)を上回っている。

イベント参加については、同世代の5人に4人が「人々や社会とつながっていると感じる」と答えており、「イベント参加は自分自身の表現である」と答えた人もミレニアル世代の73%に上った。

参加したイベントの様子は、ソーシャル・ネットワーク・サービス(SNS)で友達や家族とシェアされるケースが多く、特に子供を持つミレニアル世代では61%が「SNSでシェアするためにイベントに出席した」と答えている。また、イベントの最中にSNSでライブ配信をしたことがある人は70%に上った。

思い出に残る、そしてインスタ映えするイベントに参加し、仲間と共有することに喜びを感じるミレニアル世代の姿が浮き彫りとなる。彼らのSNSへの執着が「体験」重視の行動につながっていると言えるだろう。思い出に残る体験とブランドイメージが一体化すれば、顧客との絆が生涯にわたる可能性も高い。

新しい体験と環境の中でブランドを再認識してもらうという試みは、今後ますます拡大していくと予想される。

文:山本直子
編集:岡徳之(Livit