10年くらい前からだろうか。屋外広告としての役目を終えた布を使って作られる、タフなメッセンジャーバッグFREITAGや、ロングライフデザインをテーマにするD&DEPARTMENTなどが社会に受け入れられるようになった。

モノをすぐに買い換えるのではなく、長く使うことがオシャレでかっこいいという価値観は少しずつ広まっているように思える。

無駄を活かす経済活動「サーキュラーエコノミー」

「2030年には、地球2個分以上の資源がないと現在の消費は維持できない」という予測もある中で、注目を集めている考え方がある。「サーキュラーエコノミー」だ。

サーキュラーエコノミーとは、資源の無駄や捨てられている素材、まだ使用できるにもかかわらず破棄されている製品など、世の中に数多ある「無駄」を活用し、利益を生み出すことを目指す経済のあり方を指す。

たとえば、サステイナブルな繊維の開発に取り組む「CRAiLAR Technologies(クライラーテクノロジーズ)」は、亜麻や麻の茎などの端材を活用することで、コットン並みの品質を持った繊維を環境に負荷を与えず生産することに成功した。

スウェーデンのジーンズメーカー「Nudie Jeans(ヌーディージーンズ)」では、自社が販売したジーンズの修繕を無償で行い、製品の耐用年数の延長によって価値を生み出している。

Heinekenの新しい工場は、サーキュラーエコノミーに取り組む

こうした動きにいち早く取り組むのが、オランダの世界的なビール会社Heinekenだ。ビールの醸造には、水や発酵に関わる有機系の廃棄物がつきものだ。Heinekenはそんな廃棄物を減らすために、これまで捨てられてきた廃棄物を循環できる、サーキュラーエコノミー型の工場をメキシコに建設した。

具体的な取り組みをいくつか紹介しよう。隣接するガラス工場からの廃熱を利用してボイラーを動かす。水処理プラントで排水を処理し、30%を再利用できるようにする。水処理プラントが稼働すれば、醸造プロセスで熱としても利用できるバイオガスも生成できる。

タンクやボイラーの底にたまる有機性の沈殿物は、近くの農場に運ばれ土壌改善に使用されたり、牛の飼料となる。破損したビンのガラスは隣接するガラス工場でリサイクルする。ビール瓶から剥がした紙のラベルは、トイレットペーパーへと生まれ変わる。

一つの事例だけを切り取れば、よくある環境対策のようにも感じられる。だが、工場全体でサーキュラーエコノミーの考え方を取り入れ、廃棄物の循環を目指していることは注目に値するだろう。

サーキュラーエコノミーへの取り組みが、企業イメージをポジティブに変えていく

Heinekenのサーキュラーエコノミーへの取り組みは、ビールの生産効率を向上させることにも、コストダウンにもつながるわけではない。同社の業績に直接的な影響はないかもしれないが、Heinekenという企業体のイメージをポジティブに変えていくことができるのではないか。

グローバル企業が新しくビジネスを始める際に、その国や地域の環境に配慮することは重要だ。オランダに本社を置くハイネケンがメキシコに工場を建設する上で、ハイネケングループのCEOであるJean-François van Boxmeer氏は次のように語っている

「メキシコの工場がハイネケン史上最も大きく、環境に優しいビール醸造所になることを誇りに思っています。この工場は、わたしたちの長期にわたる国、地域、環境に対するコミットメントを示すものになります」

ハイネケンは一連のサーキュラーエコノミーへの取り組みを「Think Circular」というブランドキャンペーンとして位置づけている。ブランディングの対象は、消費者だけではない。従業員の会社へのエンゲージメントを高める意図も存在している

このようなグローバル企業の循環社会への取り組みは、投資家の投資判断の指標にもなるという。グローバル企業にとって循環社会への対応は、無視できない大きな動きになりつつある。

サーキュラーエコノミーへの取り組みに対して、消費者からポジティブな声も

ハイネケンの新しい取り組みに対して、消費者からもポジティブな声が出てきている。Twitterでは、サステナブルな工場建設への応援や、サーキュラーエコノミーに取り組みながら人々を雇用し、収益を上げていることへの賛辞のコメントが寄せられた。

環境に配慮していない会社より、配慮している会社の製品を選びたいという考え方は、ミレニアル世代を中心に徐々に広がりをみせている。

デロイト トーマツ コンサルティングがミレニアル世代を対象に行った調査では、「ミレニアル世代は多国籍企業が社会の直面する困難の解決にもっと取り組むことを望んでいる」ことがわかっている。企業が真摯にサーキュラーエコノミーに取り組むことは、これからの企業ブランディングに大きな影響を与えていくだろう。

しかし、循環型経済へビジネスを対応させていくには大きな設備投資が必要となる。中小企業ではダイナミックな動きは取りづらく、大企業だからこそできる取り組みでもある。ほかの大企業もサーキュラーエコノミーの取り組みを進めていく上で、Hainekenの挑戦が先行事例になることを願いたい。

img: Heineken