中国人留学生の存在は、筆者が住むニュージーランドでも珍しいことではない。しかし、先日ちょっと驚いたのは、中国から小学生で留学してくる子どもが増えているということ。アジア人の留学生を多数世話している知り合いから聞いた話だ。

まだ母国語や文化をしっかり身につけているとは思えない年齢で、子どもたちは価値観も習慣もまったく違う国に送り込まれる。片親か両親が必ず一緒に来て滞在することが条件だが、子どものアイデンティティーはどうなるのだろうと、親の1人として心配になる。

大学や高校留学から、小学校留学へと、若年化が進む中国人の留学。中国の親たちの考えはどのように変化し、国内の教育には何が起きているのだろうか。

留学生数は2016年に54万5,000人と、過去最多を記録

日本でいう文部科学省にあたる、中国の教育部によれば、2016年に留学を目的に海外に渡った中国人学生の数は約54万5,000人に及んだ。この数は過去最多だという。1978年から2016年までの留学生の総計は約458万人。多くの国で、全留学生に占める中国人の割合は最も高い。特に米国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドでは30%以上に上る。

中国人留学生の若年化は数字にも顕著に表れている。例えば、ニューヨークに拠点を置く国際教育研究所(IIE)がまとめた、高校留学生の動向を追ったレポート『グローバル・モバイル・ユース』を見てみる。すると、米国における中国人高校生の数は2016年には約3万3,000人に上り、2012~2013年の約50%増にも及んでいる。

小学校留学もしかり。米国移民税関捜査局(ICE)によれば、2011年には500人だった小学校留学生は2015年には2,450人に増えている。約5倍に膨れ上がっている計算だ。

人気の留学先は、米国、英国、オーストラリア、カナダといった国々だ。中国人留学生の80%が英語圏の国を選んでいる。

学生自身が留学に求めているのは「豊かな経験」がトップで、64%に上った。「知識の増加」(54%)、「将来の就職に有利な条件」(46%)、「充実した語学学習」(42%)と続く。「両親から薦められたから」という受け身的な理由で留学する学生もいるが、12%と少数派に留まっている。これらの志向は、国内民間教育産業の大手、ニュー・オリエンタル・グループが発表した『チャイニーズ・スチューデンツ・オーバーシーズ・スタディ・レポート 2016』で明らかになったものだ。

一方、親は子どもの将来を見据えて、留学に送り出しているといえそうだ。海外での就職はもとより、移住をも視野に入れている。その実現には、留学し、欧米式の教育を受けるのが手っ取り早い。英語圏の国々では、カリキュラムの幅が広く、奥行も深い。研究や議論に際してもリベラルなアプローチをとる。英語や欧米文化に1日24時間に接することができる。国際的に高い水準の教育を行うことで知られる欧米の名門校で子どもを学ばせ、大学に進学させることは、明るい将来への第一歩というわけだ。

インターナショナル・スクールが留学に次ぎ、人気上昇中


中国国内の大学の卒業風景

欧米式の教育を子どもに受けさせたい場合、即留学に踏み切らずとも、中国国内にあるインターナショナル・スクールに通わせるというチョイスもある。国内のシンクタンク、センター・フォー・チャイナ・アンド・グローバリゼーション(CCG)によれば、本土のインターナショナル・スクールは人気にこたえ、急増中。現在総数は550校を超えるそうだ。英国の名門ハーロー校をはじめ、ダルウィッチ・カレッジ、マルヴァーン・カレッジといった、海外から進出してきた学校も、中国国内にインターナショナル・スクールを開校している。

欧米式の教育を行うインターナショナル・スクールの人気の理由は、何といってもその「フレキシブルさ」にある。学生のバックグラウンドや過去の成績などに左右されずに入学が可能。カリキュラムも、公立校が政府の方針に沿う必要があるために改変を嫌う一方で、柔軟性とバラエティーに富む。国際バカロレアの取得を目指したり、英国や米国をはじめとする英語圏主要国の学校カリキュラムに沿って学んだりすることができる。

インターナショナル・スクール以外にも私立校はあり、トップクラスの教育を行うことで定評がある。しかし、入学にあたっては、子ども自身の能力や成績が問われるだけでなく、親や祖父母にもテストを課す例がある。同じ私立校とはいえ、かなりの違いがあるのだ。欧米式教育を望むのであれば、入学に対してもフレキシブルな対応を見せるインターナショナル・スクールを選ぶ親が多いのは当然といえるだろう。

世界一シビアな大学入試「高考」と、中産階級の台頭


「高考」を終えた学生たち
© 陈少举 (CC BY 2.5)

中国で主流ではない、「オルタナティブ」な教育がここまで支持されるのはなぜだろうか。第一に挙げられるのは悪名高い、通称「高考」の存在だろう。「全国普通高等学校招生入学考試」は、高校の最終学年に行われる、世界で最も難しいテストといわれる。日本の大学入試センターテストにあたるが、たった1回きりのこの試験が、入学できる大学のみならず、将来をも左右するといわれている。国内トップの大学に入学許可が下りるのは、5万人に1人だそうだ。

最近の親は、「高考」に好成績でパスしようと猛勉強する子どもにかかる過大なプレッシャーを懸念する。プレッシャーを避けるためにも、子どもの海外での就職、さらには居住権や市民権の獲得のためにも、海外留学や国内のインターナショナル・スクールなどでの教育はを一石二鳥と考えるのは当然だろう。

「高考」で良い成績を収められるようにという願い事が書かれたカード

国内の中産階級の台頭も、「オルタナティブ」な教育ブームを支えている。年間所得6万~50万人民元(約103万~860万円)と中国で定義される中産階級は2000年代初頭から世界でもまれに見る急成長を遂げている。1999年には2,900万人だったが、2013年には4億2,100万人に及んでいる。

この層は自由になる収入がある。今まで車などの物品や海外旅行などに使っていたが、昨今は、子どもへの投資にもつぎ込む傾向が見られる。国内のインターナショナル・スクールの学費は他国のそれをはるかに上回り、平均年に約4万USドル(約440万円)。米国の私立校への留学費用は滞在費なども含めれば、2万~4万USドル(約220万~440万円)と、どちらをとっても決して安くはない。

世界四大会計事務所の1つ、デロイトは、2015年に1兆6,000憶人民元(約28兆円)だった、中国の教育市場の規模は2020年には2兆9,000憶人民元(約50兆円) にまで拡大するものと予想する。留学熱が冷める気配はないが、国内では小中高校生向けや、職業訓練用、英語に特化したeラーニングも盛んになりつつあり、毎年20%の伸びを見せている。経済的にゆとりのある、教育熱心な親に支えられ、教育市場は規模のみならず、多様化も進みそうだ。

文:クローディアー真理

編集:岡徳之(Livit