アプリ市場が、大きく動き出している。スマートフォンが、人々の生活インフラとなって久しい。スマホメーカーのシェアや、新機種発売のニュースに関心を持つ人も多いだろう。

一方、スマートフォンの機能を活用するには、様々なアプリをインストールする必要がある。2018年には、iOS App StoreとGoogle Playが10週年を迎える。ゲーム中心だったアプリも、現在では、サブスクリプション・小売り・金融などカテゴリーの幅を広げ続けている。

スマホ市場とともに、アプリ市場も姿を変えながら拡大しているのだ。グローバルでスマホ台数が増加し、アプリ市場も、新興・成熟各地域を巻き込みながら、ダイナミックな動きを見せると予測されている。

アプリ市場データを提供するApp Annie(アップアニー)のレポートをもとに、2017年までの状況、2018年における予測、さらには2022年の姿まで見ていきたい。

2017年におけるアプリ市場の状況

2017年、「Google Play」、「iOS App Store」、サードパーティのAndroidストアを合計した消費支出は、世界全体で860億ドルを突破した。2年前と比べて、2倍の数字だ。日本では130億ドルを超えている。発展途上国におけるスマートフォン台数の伸びと、成熟市場におけるアプリの収益力の向上が理由としてあげられる。

大きなシェアを占めるゲームが大きく伸び、コミックやソーシャル、音楽や動画などのエンタメ系などの「非ゲーム系分野」の成長も貢献している。いくつかのアプリのカテゴリで、注目される動きがあった。

モバイルに特化したフィンテックサービスの影響力が拡大し、アプリの利用を増やしている。フィンテック業者が提供するアプリは、口座情報の集約、決済、投資などのサービスをカバーし、リテールバンクの地位をおびやかす。「Apple Pay」アプリなどを通じて利用可能な「個人間送金サービス」の開始も、中もされている。

2017年の「仮想通貨」の盛り上がりも、関連アプリの利用を急増させた。アプリは、手軽に素早く価格をチェックし、取引を行うというニーズに答える。ユーザーの間では、アプリが使いやすいかどうか、が取引所選びの1つの基準になっていた。

SNSアプリに目を向けると、米国で「Instagram」の平均MAU(月間アクティブユーザー数)は、iPhoneとAndroidフォンを合わせ、この2年間で30%増加しているのが注目される。Instagramはすでに、成熟したアプリであると見られるが、適切な機能追加をタイミングよく行い、成長した。

「ライドシェア(相乗り)サービス」は、2017年の収益が世界全体で450億ドルに達した。競争が厳しい中、フードデリバリーや宅配など、収益機会を拡大させようとしている。日本ではライドシェアは普及していないが、需要はあると見られている。自転車シェアサービスでは、LINEとmobikeの提携が話題になった。

小売関係のアプリは、着実にユーザーが積み上がっている。さまざまな商戦イベントのタイミングで、アプリのダウンロードが増えるという現象が見られた。中国発のショッピングイベントである「独身の日」(2017年11月11日)には、iPhoneでは69カ国、Androidフォンでは38カ国で「ショッピング」アプリのダウンロード数1位を記録した。11月には、「Black Friday(ブラックフライデー)」の検索ボリュームが3カ月前と比べて115%増加した。ホリデーシーズンにおけるモバイルマーケティングの重要性が分かる。

2018年のアプリ市場予測

2017年に860億ドルだった、世界の全モバイルアプリストアを合計した消費支出は、前年比でおよそ30%増加し、1,100億ドルを突破する見込だ。2018年においても、ゲームアプリが大半を占める。しかし、ゲーム以外のアプリが、ゲームを超える増加ペースを記録しそうだ。これには、「サブスクリプションサービス(定額配信)」の利用が貢献するだろう。アプリ市場が成熟し、アプリがユーザーに提供する価値が高まっていることを強く示している。

2018年には、「AR(Augmented Reality・拡張現実)」を利用したアプリの普及が予測される。2017年に、Pokemon GoやSnapchatがARに対する消費者の関心を高めた。2017年には、大手IT企業が、開発者向けカンファレンスで、さまざまなAR関連のプロジェクトを発表した。パブリッシャーがARアプリの開発を加速することが予測される。「Augmented reality(拡張現実)」という検索キーワードも、アプリストアの上位にランクインし、関心の高さを示している。日本でも、AR技術を利用したGoogle翻訳が話題になった。

家庭向け音声エージェント市場にも関心が集まる。これまでに、米国などで、スマートスピーカーの「Amazon Echo」の販売が伸び、音声対応スピーカーと連携するAmazon Alexaアプリのダウンロード数が増えている。2018年には、49ドルのGoogle Home Miniを始め、AppleやSamsung、中国のAlibabaやBaiduといった新規参入組によって、家庭向け音声エージェントの販売はさらに拡大する見込みだ。照明、空調、AV機器などコネクテッドホームデバイスとの連携が強まるだろう。早期参入によるシェア獲得がポイントとなる。

2018年には、小売業のカスタマージャーニーが、モバイル中心になると見込まれる。アプリは顧客体験のオンライン化を加速させている。最近では「ZOZOSUITS」が話題になった。オンラインで買い物が完結するための布石といえるだろう。モバイルで購入した商品の受取場所として実店舗が使われるなど、既存の小売チャネル(モバイルアプリ、ウェブ、実店舗など)の存在意義も変化し始めると考えられる。また、レジの役割が縮小し、モバイルに置き換えられる可能性もある。

ファイナンスアプリの分野では、個人間送金アプリで決済がさらに多様化すると見られている。米国で人気のVenmoなどの個人間(P2P)送金アプリは、フィンテックの中でも目立つ存在だ。ミレニアル世代を中心として、現金や小切手に取って代わる支払手段となっている。メッセンジャーやSNSなど、ユーザー基盤の大きい、成功企業の参入が増えると予想される。現金文化を支える見えないコストが顕在化し、普及をうながすことになりそうだ。

2022年のアプリ市場予測

2018年からさらに4年後の2022年には、アプリストアにおける年間消費支出の総額は世界で、1,565億ドルに達すると見られる。2017年との比較では、92%の伸びを示す数字だ。

この伸びには、二つの要素が貢献する。まずは、スマートフォンのインストールベースが、2017年の39億台から、2022年には61億台へと急増することだ。牽引するのは、新興市場で初めてスマートフォンを購入する層。もう一つが、成熟市場におけるデバイスあたり支出額の増加だ。この二つの要因により、2022年のアプリ市場は大きく拡大することになる。

アプリのダウンロード数で見ると、2022年には、中国がトップとなるとみられる。インドが、爆発的な人口増加を背景に、2位に上昇する。ダウンロード数を牽引するのは、安価なAndroidスマートフォンの増加と、補助金を受けた4G通信サービスの拡大だ。

米国、日本、韓国などでは、アプリ市場成熟における「成熟」段階へと移行する。アプリのダウンロード数は安定するが、消費支出は急増するだろう。ユーザーがますますアプリに依存し、アプリから価値を得る機会が多くなる。そのことで、アプリ経由での支出が高まっていく。パブリッシャーは、新規ユーザー1人を獲得するのにより多くの投資を求められるようになる。だが、支出額が急増すると予想されるため、ユーザーあたりの生涯価値(LTV)に対するROI(投資収益率)は高くなるだろう。

日本のスマートフォン1台あたり年間支出額は、2022年に世界平均の6倍近い140ドルを超える見通しで、国別でトップなる見込みだ。

地域別に見ると、南北アメリカ地域では、デバイスあたりの支出額の増加は米国によって牽引される。ダウンロード数では、ブラジルなどの大きな新興市場で増加する見込み。

アジア太平洋地域は、最も急成長を遂げる地域となる。韓国、日本、そして中国の1線および2線都市などが、支出の急増を特徴とする「成熟」段階に突入する。インド、インドネシア、ベトナムなどの市場、および中国の3線都市や農村部は成熟の初期段階にとどまり、ダウンロード数の大幅な増加を示すだろう。

欧州・中東・アフリカ地域では、イギリス、フランス、ドイツなど、複数の成熟度の高い市場で、今後5年も堅調な支出の伸びを示すと予想される。未成熟ながら急成長しているエジプト、ウクライナ、ポーランドなどでダウンロード数が伸びそうだ。大規模市場のロシアでは、市場成熟がはじまりつつあると見られている。

アプリは、急増スマートフォンを通じて、高い価値をユーザーに届ける

アプリの市場を見る際には、「ダウンロード数」と「支出額」という二つの視点がある。スマートフォンの台数が増えていく過程で、アプリの「ダウンロード数」が伸びる。スマートフォンが普及してしまうと、ダウンロード数は安定するが、アプリを通じた「支出額」が伸びる。この二つに視点によって、グローバルでのアプリ市場を分析することが可能だ。

成熟市場における、アプリを通じた「支出額」の伸びは、さまざまなカテゴリーのアプリが高い価値をユーザーに提供できるようになることを示す。アプリを通じて、ゲーム以外にも、サブスクリプションサービス、フィンテックサービス、シェアリングサービスの利用が可能だ。

スマートフォンアプリのパブリッシャーは、グローバルにおいてどの地域でどんなアプリを提供するのか、急速に拡大する市場での戦略構築が必要となるだろう。

img: PR TIMES