欧米のマッチングサイト市場

オンラインでデートする相手を探すマッチングサイトは、北米・欧州では古くから存在している。

1995年からスタートしたアメリカ発の巨大マッチングサイト「マッチドットコム」は、24カ国、15言語でサービスを展開。アメリカに本部を置く業界研究、ビジネス情報の出版社IBISWorldによると、アメリカにおけるデートサービス市場は、収益が30億ドル(約3,264億円)で、2012~2017年の成長率は11.2%。デートサービスのビジネス数は1,943におよぶ。

順調な成長を後押ししているのは、ブロードバンドの普及、スマートフォンアプリの増加など技術的な発達のほか、オンラインデートへの抵抗感が減っていることもある。また、アメリカではベビーブーマーの会員増加が市場を押し上げている側面もあるという。

ヨーロッパに目を向けると、世界最大の統計ポータルStatistaの報告では、オンラインデートの2018年の収益見込みは3億9600万ドル(約430億円)、2018年から向こう4年の成長率は3.4%と予想。現在のユーザー浸透率8.6%は、2022年には9.4%になると見込んでいる。つまり、欧米におけるマッチングサイト市場はすでに大きなシェアを獲得しており、今後も縮小する傾向はない。

欧米でマッチングサイトが盛んなのは、技術の他に心理的な面も大きいと思われる。欧州に住む筆者の実感だが、恋人と別れたり、離婚したり、シングルだったりする人は、比較的簡単にマッチングサイトを利用するようだ。

日本の出会い系サイトのようなネガティブな印象がなく、最近会った女性/男性とうまくいった、そりが合わなかったなど屈託なく報告する様子に、抵抗感や後ろめたさは感じられない。うまくいけばラッキーだし、ダメだったら次といった感じで、日本人の感覚に比べ、ドライな積極性が垣間見られる。

パートナー同伴を求められる文化的背景があるからか、夢やロマンも大切だが、それと同じくらい必要に迫られて行っているといった印象だ。

マッチングサイトの詐欺の手口

マッチングサイトを多くの人が利用する分だけ、詐欺の規模も大きい。

検索サイトで、“matching site”(マッチングサイト)、“scammer” “con artist”(詐欺師)という単語で検索すると、被害報告、防ぎ方、注意を喚起するサイトなど、膨大な情報がヒットする。英国のNational Fraud Intelligence Bereau(国立詐欺情報局)によると、2016年マッチングサイトで詐欺の被害にあった独身者は3,889人で、被害金額は3900万ポンド(約59億円)におよぶという。

よくある手口がマッチングサイトで出会った後すぐに2人だけで行えるチャットやメールに移行し、ロマンチックなメッセージや写真を送り、親密になったところで海外で事故にあったなどの事情を伝えて送金を促す。会う日を設定するも、理由をつけて延期を繰り返し、トラブルに見舞われた、会うためのチケット代が足りないなどの何かと理由をつけて送金を続けさせるというものだ。

そのうちに連絡がとれなくなり、調べてみるとプロフィールは嘘で、写真は名前は他人のものを利用していたということが判明する。

官民がタッグを組んで詐欺撲滅のために活動しているオランダの団体Fraud Help Desk.org(詐欺ヘルプデスク)によると、犠牲者は男性40%、女性が60%で、年齢は40~70代、1人で孤独を感じている人が多いという。犠牲者を減らす画期的な方法はなく、日本での振り込め詐欺と同様、啓蒙活動、手口など情報の共有、相談窓口を設けるなど、地道な活動しかないのが実情だ。

即・リアルな出会いにつなげるアプリ

詐欺の相談窓口で注意喚起の一つとなっているのが、チャットおよびメールのやりとりである。

最初は親身に次第に熱いメッセージを送って相手をすっかりその気にさせるのがやり口だ。また、詐欺ではなくても、テキストのやりとりを延々と続けることで、出会うための手段が妨害要因になったりすることもある。普段の生活でもメールでは真意が十分に伝わらず、無用な誤解を生んだりすることはよくある。会ったこともない相手ならなおさらだ。

マッチングサイト浸透と並行してあぶり出されてきた問題点と、スマートフォンの普及、テクノロジの発達が相まって、欧米では新しいサービスが台頭している。それは、「リアルなデートまでのプロセスをショートカットしたマッチングサイト」である。


「Tonight」

昨年ローンチした「Tonight」は文字通り、“今夜” 会える相手を見つけるアプリ。ユーザーはデート当日の18時までにサインインしてマッチする相手を選ぶと、アプリが時間とお互いに便利な場所を設定してくれる。テキストでの果てしない応答を割愛して、出会いをもっと気軽に、楽しみましょうというのがスローガンだ。

ドタキャンするとペナルティが課せられ、繰り返すと削除となる。相手探しはスワイプではなくスクロールダウンを取り入れたりして使い勝手にも工夫がされている。現在ブルックリン、マンハッタン、マイアミで展開されている。

アプリを開発したのは、2015年にローンチしたマッチングアプリWhimの創立者。Tonightと同じく、テキストで延々と続くチャットを割愛し、マッチングが成立したらWhimがデートの時間と場所をセットアップするという仕組み。初対面の相手とアポを設定するというのは案外ハードルが高く、もっと自然に簡単に会えるようにとさらに先へと進めたのがメッセージのやりとりなし、その日にデートを決めるTonightだ。

運営会社が出会いの会場を設定

リアルなデートを実現するアプリで一歩先を行っているのが、アメリカの女性向けのアプリ「Bumble」だ。

昨年6月、ポップアップとしてリアルで出会える場所「Bumble HIVE NYC」をマンハッタンに設置。Bumbleのユーザーは建物の中でフリードリンク、スナックとともにおしゃべりが楽しめる。Bumbleは女性に優位に設計されているのが特徴で、今回のポップアップも、創立者Whitney Wolfe氏の “マッチングアプリを使った出会いを安全な場所で” という考えから実現させた。


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Bumbleでは、男性女性ともにプロフィールを閲覧することができるが、最初のアクションは女性にしか許されておらず、異性とのデートの他、同性の友達、起業仲間までマッチングの範囲を広げている。

また、詐欺と並んでマッチングサイトアプリでよくある問題のGhosting(何の説明もなく突然連絡を絶つ)を防ぐために、24時間ルールを設けているのも特徴だ。マッチングした後、女性が24時間以内にメッセージを送らないと男性のプロファイルが消去される仕組みをアプリがスタートした当初から搭載しており、そこに男性も女性から最初のコンタクトを受け取ってから24時間以内に返事を返すルールを加えて、Ghosting防止の強化を図っている。

マッチングサイトは恋愛という強い感情が働くために、ネットワーキングや友人作りよりも不確定要素が多いが、サイトマッチングでは、様々な工夫を凝らして成功率を上げる努力をしている。AIの時代、アルゴリズムの精度を上がっていけば、よりパーソナルで高いマッチングが可能になっていくかもしれない。

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