NYでは“店舗のない”レストランが増加中。フードデリバリー産業の成長が後押し

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看板も無ければ、食事のためのテーブルも椅子もなく、サーブするウェイターもいない。だが、その空間には複数のレストランが入っている。

1つのキッチンに最大10のレストランが入り、オンラインでのみオーダー可能なお店の存在が米国でトレンドとなっている。

このトレンドは「ゴーストレストラン」と呼ばれる。もちろん、お化け屋敷のようなコンセプトのレストランという意味ではない。ゴーストのように実体を持たない、実店舗を持たないバーチャルレストランのことだ。

「ゴーストレストラン」はデリバリー専門店と何が違う?

ゴーストレストランはニューヨークやシカゴといった米国の大都市のレンタルキッチンで調理を行い、日本でもサービスを展開している「UberEats」のほか、「Grubhub」や「DoorDash」といったフードデリバリーサービスから注文を受け付け、配達される。

これまでにもフードデリバリー専門の飲食業者は存在した。例えば、インターネットの普及前から、チラシと電話での注文で1時間以内に熱々のピザを届けてくれるドミノ・ピザなどのピザ専門店は思い浮かびやすい。

だが、これらのブランドには小さいけれど店舗があるケースが多い。ピザを注文した人はデリバリーを依頼するか、店舗まで取りに行くかを選ぶことができた。

ゴーストレストランは違う。街中に店舗はなく、“住所不定”のキッチンで料理は作られ、それが都市全域に配達されていく。

複数のゴーストレストランを経営する事業者も登場

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代表的なゴーストレストランとして挙げられるのが、ニューヨークやシカゴで「Leafage」や「Butcher Block」「Grind」などの14ブランドを運営するGreen Summit Groupだ。2013年に創業して以来、これまで360万ドル(約4億円)の資金調達を行い、全地域の年間売上を約1,800万ドル(約20億円)まで拡大してきた。

同社によれば、前述のフードデリバリーサービス「Grubhub」等を通じて、現在全店舗で1日2,000件以上の注文を受けているという。なお、Grubhubもゴーストレストランへの投資に力を入れており、2年前にGreen Summit Groupに100万ドル(約1億1400万円)を出資している。

Green Summit Groupの共同創業者であるピーター・シャッツバーグ氏は『Fast Company』のインタビューで、「(メキシカンの)Chipotleや(サンドウィッチの)Pret A Mangerは、店舗の床面積の75パーセントを客席に割いているが、90パーセントの客はテイクアウトするだけで店をあとにしている」と語っている。飲食業を行うにあたり、店舗の必要性を問い直すような発言だ。

最近では、カップに入ったスパイスカレーを配達してくれるUberEATS専門店「6curry」の登場が日本でも話題になっている。これもゴーストレストランの一種と言えるだろう。

実店舗を持たない強み

ゴーストレストランのように実店舗を持たない強みはどこにあるのか。リアル店舗を開いてレストランを経営するには、客席エリアのための家賃、給仕スタッフの人件費などの固定費が重くのしかかる。大都市になるほど家賃や人件費は高額になる。

また、レストランに人を集めるためには、立地が重要になる。大都市の中で人が集まる場所に店舗を出そうとすると、必然的に賃料が高くなってしまう。

その一方でレストランの売上はキャパシティ×客単価で決まるため、限界が見える。だが、ゴーストレストランはホールを持たないため、席数に応じたキャパシティの限界がない。キッチンとシェフとデリバリースタッフだけでレストランは成立する。デリバリーの部分を外部サービスに切り出せば、キッチンとシェフだけで成立してしまう。

また、レストランを開業する際にホールのスペースが不要になれば、お店の賃料を安く抑えることができる。通常のレストランであれば人が集まりやすい場所に出店しなければ集客が難しくなるが、デリバリー専門ならば、賃料が安いエリアにキッチンを作ることもできる。

クイックに始められ、ミニマムなコストで運用できるのが実店舗を持たない強みだ。

フードビジネスを始める敷居は低くなっている

ゴーストレストランの登場を後押しするのは、フードデリバリーサービスの普及だ。

「UberEATS」や「GrubHub」などのサービスが普及したことで、飲食店側は自社でデリバリースタッフを手配する必要がなく、サービスがその機能を担ってくれるようになった。各プラットフォームに店舗情報が掲載され、そこにユーザーが訪れるため、新たにチャネル構築やマーケティングを行う必要がない。フードビジネスを始める敷居が下がったと言えるだろう。

その一方で、料理の配達網やマーケティング部分をデリバリープラットフォームに握られてしまうという欠点もある。今後は、どのように巨大プラットフォームと協力的な関係を築くかが重要になる。

ゴーストレストランは、豊かな食文化が存在するニューヨークが発祥の地だ。ニューヨークでは、フードビジネスを始める敷居を下げるユニークな空間も存在する。シェフのためのコワーキングスペース「FOODWORKS」では、シェフ起業家が入居し、自らのブランドを生み出すために様々な食の実験を行っている。FOODWORKS発のブランドの中には、オンラインやフードマーケットでの販売を専門にするブランドも存在する。

食のブランドが生まれるハードルは下がり、それを店舗化することも難しくなくなった、実店舗さえ持たなければ。「飲食サービスは実店舗ありき」という価値観が、デリバリーサービスの発展によって覆されていることは間違いない。食を楽しむ場所や方法は多様化していくだろう。

img : FOODWORKS