フェムテック市場はニッチ市場と見なされることが多いが、世界人口の半分が女性ということを考えると奇妙な話である。「世界の女性ファッション市場はニッチ市場だ」と誰かが言ったら、ほとんどの人は首をかしげるだろう。フェムテックとは一体何か、そして、その将来像はどのようなものだろうか?

フェムテック(Femtech:“Female”=「女性」と“Technology”=「テクノロジー」を組み合わせた造語)は生理トラッキングやマタニティアプリなど、テクノロジーを活用し女性の健康課題を解決することにフォーカスする分野である。フェムテックは徐々にではあるが、メディアや企業に注目されるようになってきている。

フェムテック分野には次のような企業が参入している。月経トラックキングアプリを提供する「Clue」や「Natural Cycles」、避妊プロダクトを開発する「Flex Company」などだ。こうした企業はより正確な家族計画の支援から、1回分で12時間継続使用できるタンポンに至るまでの、女性の健康を促進するためのアプリケーションや製品を提供している。

イノベーションが次々と起こる今日においても、女性によって設立されたヘルスケアスタートアップや、女性の健康に関する製品やイノベーションの割合は低い。欧州委員会(2017年)によると、起業家のうち女性が占める割合は現在30%ほどであるが、この比率は数年間変化が見られない。

しかし、われわれVertical Acceleratorは、フェムテック分野を発展させるという気概とトレンドを生み出す力を持ったスタートアップがひとたび登場すれば、その企業はあっという間に注目を浴びる存在になると予測している。

タブーがフェムテックの発展を阻害しているのか?

これまでなぜ、フェムテックブームが起きなかったのだろうか? 女性に注目するスタートアップが比較的少なかったためだろうか? それとも、先見の明に欠けていたり、関心を持つ人がいなかったからだろうか? あるいは、女性の健康に関する認識が足りなかったからだろうか?

ヘルスケア産業で働く女性として私たちが感じていることは、女性の健康問題はある種のタブーであり、今なお、女性にとっても男性にとっても公共の場でそれを議論することは不快だったり、あまりに性的すぎたりすると考えられているということである。例えば、生理について言及すれば会話はたちまち終ってしまう。

つまり、マーケティングや、人びとの中に深く刻み込まれた中身のないステレオタイプがフェムテックの潜在的な脅威となっている可能性がある。もう一つの懸念は、女性ベンチャーキャピタリストの数が低く(10%未満)1、これが女性向けテクノロジーに関心が向けられない原因になっているという点である。

フィンランドのテックスタートアップ KoruLabの共同創業者兼CEO、クリスチャン・リンドホルム氏はフェムテックというコンセプトは、「『サイズを小さめにしてピンク色にしておけば良い』という従来の考え方に比べ、はるかに多くの機会をもたらしてくれることを証明した」と主張する。「例えば、高性能なパルスセンサーを使えば月経周期に関する洞察が得られるため、これを利用して豊富な機能を持つ健康アプリケーションを開発することができる」。

フェムテック製品の顕著な増加の背景には、欧米において自分のからだをよりよく管理しようとする女性が増えていることが挙げられる。このような欧州と米国に広がった女性の意識変化が、フェムテック製品開発にどのようなインパクトを与えるのかはまだ分からないが、#femtechが議論を呼んだことは事実であり、この勢いはすぐには衰えそうにない。

フェムテック関連スタートアップのためのネットワーク作りと研究開発サポート

フェムテック産業への参入を目指すスタートアップにとって、ネットワークとサポートの仕組みを作ることは必要不可欠だ。これによって企業はミートアップを企画したり、健康専門家による監修を受けたり、アイディアを研究や実際の生活環境でテストする機会を得たりすることができる。

女性起業家たちはマイノリティであるため周りに押し切られる可能性がある。だからこそリソースがしっかり彼女たちに割り当てられる仕組みも重要だ。さらにサポートネットワークを通してセッションやワークショップを活発に実施すべきである。さもなければ、眠っている創造性を呼び起こすことはできない。

女性が必要なものを、女性以上に述べることができる人物がいるだろうか? 例外はメル・ギブソンくらいだろう。

フェムテックは女性のためだけでなく男性のためにもなりうるという点は特筆に値する。男性に、起業家としてだけでなく、意識の高い共同消費者として参加してもらうことが不可欠だ。

良きボーイフレンドのみなさんは、フェムテックに理解を示してほしい。フェミニズムをめぐる論争をして、女性向けテクノロジーの発展に暗い影を落とすべきではない。フェムテックは性別間の競争のためにあるのではなく、女性の健康を促進し、また間接的に男性の健康も促進するためにあるのだから。

ウェアラブル・イノベーションの創造

フェムテックは大きな可能性を秘めている。この分野でできることを想像するだけでも頭がクラクラするくらいだ。

例えば、タンポン用の新たなスマートマテリアル、清潔なナプキン、スマートブラジャーや生理中に色が変わるスマートアンダーウェア。あるいは、乳がんをより早く発見する製品や、尿路感染した際に色が変わる下着だって実現可能かもしれない。

この分野では、美の可能性は無限大だ――非現実的に聞こえるかもしれないが、これは勇気ある起業家たちへの激励のメッセージだ。

「ウェアラブルテクノロジーが小型化すれば、ウェアラブル機器は生地やファッションに溶け込み、宝石のように美しいヘルスケアテクノロジーに変わります。しかし、この宝石は有益な機能も併せ持っているのです」(前出のリンドホルム氏)

今後の動向に注目したい。

著者:Ana-Belen Abundio/Bogdana Gamburg & Heta Hytonen
翻訳:薮田佳佑、編集:Livit