現在ノルウェーでは、長期療養中のために学校に通えない子どもが約6,000人いる。病気の治療に伴う痛みだけでなく、友人や同級生と毎日コミュニケーションが取れないことによる「孤独」のつらさは大きい。

そんな長期療養中の子どもの代わりに授業に参加する、かわいらしいロボットのアバターを開発しているのが、ノルウェーの首都オスロ発のスタートアップ「No Isolation」だ。日本でもオリィ研究所が入院など距離や身体的問題によって行きたいところに行けない人にとっての身体になるロボット『OriHime』を開発している。ロボットによって、人々のつながりを作ろうとする動きは生まれている。

No Isolationは「孤独をなくす」ことをミッションに2015年に創業した若いスタートアップ。2年足らずでメンバーは50名以上へと成長している。彼らの開発するプロダクト、創業ストーリー、急成長の背景にある戦略について現地取材した。

生徒の目・耳・口となり授業に出席、かわいい見た目がコミュニケーションを促進する

専用アプリからアバター「AV1」を操作してみた。アクティブ中の場合は、目と頭が白く光る。

No Isolationが開発した最初のプロダクト「AV1」は、長期療養の子どもの代わりに授業に「出席」してくれるアバターロボットだ。

使い方は至ってシンプル。モバイル端末上の専用アプリを立ち上げると、ロボットとの通信が始まる。ロボットの視界に入っている映像がユーザーの端末上に映り、授業や周囲の生徒の様子を見ることができる。

ユーザーは授業を見る、聞くといった受け身の参加だけでなく、質問をするなどして、積極的に周囲とコミュニケーションをとることもできる。アバターであるロボットは、病院や自宅にいる子どもの目・耳・口となって、代わりに授業に参加することができるのだ。

遠隔地にいる子どもと教室をつなぐだけであれば、既存のビデオアプリなどでも対応可能かもしれない。だが、「かわいいロボットの形は、周囲の生徒に安心感を与える」と営業担当のクリスチャン・マツェン氏は語る。

周囲の生徒はアバターを「かわいがり」、療養期間を終えてアバターが返却される頃には、その表面は生徒たちが貼り付けたシールでいっぱいになっていることも多いのだそうだ。

ロボットの色を使い分けることでコミュニケーションが可能に

アバターのインターフェイスも、周囲の生徒や教師とうまくコミュニケーションがとれるように設計されている。まず、頭と目の色が変化することで、ユーザーである生徒の状態が一目でわかる形になっている。

白く光っている場合は、通信が接続済みでユーザーがアクティブであるという意味だ。ユーザーが質問や発言をしたいときには、光が点滅する。体調が悪く、積極的に授業に参加するのではなく静かに聞いていたい場合は青く光る。このように、周りの生徒と教師がユーザーの状態や意思を簡単に汲み取ることができるようにすることで、お互いへの理解が高まる。

ユーザーは視界も自由に動かすことができる。左右は360度見回すことができ、上下は40度の角度まで視界を調整できる。視界の動きはアバターの動きにそのまま反映されるため、生徒や教師もユーザーの「行動」を理解できる。

このようにシンプルなインターフェイスを通じて、療養中の子どもと周囲の生徒、教師のコミュニケーションを促進することで、子どもの孤立化を防ぐことがAV1の狙いだ。

現在、ノルウェー国内におけるAV1のユーザー数は約300名だ。当初は長期療養中の子どもの親がレンタルするケースが多かった。だが、徐々にその評判が広まり、学校や病院がレンタル・購入することが増えていったという。

これまで小学校から高校まで、ノルウェーの200を超える学校で使われてきた。料金体系は月額260ユーロ(約3万3000円)で借りるスタイルだ。療養期間が終わって学校に復帰できたら、No Isolationに返却する仕組みとなっている。

創業から2年でメンバーは50名へ、ニッチな製品を拡大していくという「戦略」

オスロ市内の中心にあるNo Isolationのオフィス。メンバーの半数以上を占めるエンジニアはオフィス内で試作品づくりに取り組むことができる。

No Isolation は2015年に3名の創業者により立ち上がった。それから2年でメンバーの数は50名を突破した。その速い成長スピードも、緻密な戦略に基づいている。

共同創業者でCEOを務めるカレン・ドルバ氏とCTOのマリウス・アーベル氏は、2012年にノルウェー最大規模のスタートアップインキュベータStartupLabで知り合った。ハッカソンなどに参加するうちに、いつか一緒に起業したいと考えるようになったという。

契機は2015年の夏にやってきた。ドルバ氏は友人から「子どもが入院しており社会的な疎外感に悩んでいる」と打ち明けられたそうだ。社会的疎外感の問題に関心を持ち、リサーチしていくと、子ども、シニア、ハンディキャップを抱える人などの多くの人々が直面している世界的な問題だということがわかった。

「この問題は解決しなければいけない。社会的疎外感を取り除くために、起業を決意しました」とアーベル氏は当時を振り返る。

とはいえ、スタートアップには限られた資金と人的リソースしかない。社会的疎外感にまつわる全ての課題を同時に解決することは難しかった。まずはターゲットを絞る必要があった。そこで、最初に長期療養中の子どもにフォーカスすることを決めた。

3名の共同創業者はNo Isolationを立ち上げ、2015年10月にインキュベーターのSartupLabに入居した。12月にはプロトタイプを完成させ、数回の変更を加えて、翌年2月にはユーザーテストを開始した。2016年8月には、製品が学校で使われ始めた。

次のターゲットは高齢者——シニアの孤独を取り除くデバイスを開発中

コーファウンダー・CTOのマリウス・アーベル氏。オスロ市内の中心にあるNo Isolationのオフィスにて。

共同創業者の3名は、それぞれ専門性が異なっていた。事業開発、ハードウェア、ソフトウェアを一人ひとりが担当し、プロトタイプの開発からユーザーテスト、ローンチまで自分たちの力でやり遂げた。

その後メディアの注目も浴び、周囲の反応に手応えを感じ、更なる成長のためにアクセルを踏んだ。2016年には合計で270万ユーロ(約3億2000万円)を資金調達に成功。2017年の1月から量産を開始した。

長期療養中の子どもをターゲットにしたアバターロボット「AV1」の製造と同時に、「社会的孤独」という問題に直面している次のターゲットを調べ始めた。彼らが次にアプローチするのは、高齢者だ。

家族の不在、デバイスの使い方が分からない、など様々な理由で孤独に悩むシニアが多いことを知り、AV1で活用した技術をベースに次の製品開発をスタート。今年の夏には、5名の高齢者に約2ヶ月間にわたってユーザーテストに参加してもらった。そろそろ製造を始める予定だという。

「私たちが素早く拡大できているのは、プロダクトとマーケットの両者を同時に拡大させているからです」とアーベル氏は語る。新たなユーザー層の獲得を目指した新規プロダクトの開発と、ノルウェー以外の国への拡大を同時進行で進めることで、事業開発のスピードアップを狙っている。

実際、ノルウェー国外の市場開発もスピーディーに進めている。今年は欧州と英国市場への展開のために、オランダとロンドンにもオフィスを立ち上げた。規制の違いなどがあるため、現地法人は必須と考えたようだ。

ニッチなマーケットを狙い撃ちしながら、販売する市場も徐々に広げていく。側から見たら非常に速い拡大の背景には、こうした戦略があった。既に決まっているという次のターゲットユーザーについては教えてもらえなかったが、「孤独をなくす」というミッションのもと、これからも様々な製品が誕生しそうだ。