2017年11月末、株式時価総額が5000億ドル(約56兆円)を超え、フェイスブックに並んだとして注目された中国ITジャイアントの「テンセント」。「アリババ」や「バイドゥ」は聞いたことがあるが、テンセントは初めて聞いたという人も多かったのではないだろうか。このニュースを前後して日本でも少しずつ注目度が高まり始め、さまざまなメディアが取り上げるようになっている。

今回は中国や香港などのメディアが報じている情報をもとに、日本ではまだあまり伝えられていないテンセントの最新動向を紹介したい。現時点の主力事業はゲームやモバイル決済だが、最新動向を見ていくと、事業ポートフォリオの多様化を進めていることが見て取れる。また中国市場だけでなく、海外市場での攻勢を強めており、ますます目が離せない存在となっている。


深センにあるテンセントのオフィスビル

テンセントが挑む「スマートシティー」「トランスポート」「ヘルスケア」

テンセントの事業範囲は「スマートシティー」「トランスポート」「ヘルスケア」分野にまで広がっている。

2017年12月、テンセントは広東省珠海市政府が進める珠海スマートシティー・プロジェクトに協力する合意書に調印した。中国紙・南方日報などが伝えている。

珠海市はマカオに隣接する経済特区で、珠江デルタの西岸に位置している。珠江デルタは中国ハイテク都市と呼ばれる深センや広州を含み、中国のシリコンバレーとも目されるエリアだ。

この合意書によりテンセントは、同社が強みとするモバイル決済、クラウドサービス、ビッグデータ、人工知能(AI)などのテクノロジーを活用し珠海スマートシティーの整備を支援するという。

また、河北省雄安新区でもスマートシティー・プロジェクトへの参加が明らかとなっている。このプロジェクトでは、特にフィンテックとヘルスケア分野にフォーカスした支援を実施する計画だ。

珠海市や雄安新区のほかにも、テンセントは広東省仏山市のスマートシティー・プロジェクトにも協力する意向を示すなどしており、この分野への関心を伺うことができる。ちなみに、この仏山市のプロジェクトではテンセントの競合となるアリババが戦略的協力で合意を獲得している。

トランスポートに関しては、テンセントは独自の自動運転技術を開発しているほか、電気自動車(EV)や空飛ぶタクシーなどへの投資を加速させている。

自動運転技術の開発は、テンセントが強みとする人工知能技術やマッピングの技術を応用し進めていると報じられている。テンセントがAI事業への本格参入を明らかにしたのは2016年9月頃のこと。その後、起業家向けのオープンプラットフォームを活用しAI開発を加速させてきた。

中国では2017年7月に、内閣に相当する国務院が「次世代AI発展計画」を打ち出したことで、AIが国家戦略に格上げされている。「次世代AI発展計画」の一環で実施されるプロジェクト「国家AIオープンイノベーションプラットフォーム」では、テンセントは、アリババ傘下の阿里雲、バイドゥなどと共に認定リスト入りしている。

EV関連では、テスラ株を5%取得したほか、中国EVスタートアップ威馬汽車技術への出資を行っている。一方、ドイツ発の空飛ぶタクシー「Lilium Jet」へも出資しており、空のトランスポート分野への関心も見て取れる。また香港経済日報などによれば、テンセントが中国自動車大手の広州汽車集団と戦略提携のもと開発しているAI搭載のEV「iSPACE」を2018年中には量産開始する計画もあるという。


空飛ぶタクシー「Lilium Jet」(Liliumプレスキットより)

米国、欧州、アジアーーテンセントが狙う次の市場

テンセントは、事業の多様化だけでなく、海外市場の開拓にも力を入れている。

2017年12月には主力のスマホ向けオンラインゲーム「王者栄耀」の米国配信を開始。同ゲームは、中国国内で登録ユーザー数が2億人以上、1日あたりのアクティブユーザー数が5400万人以上ともいわれ、中国共産党機関紙・人民日報のニュースサイト「人民網」がその中毒性を批判するほど社会現象となった大人気のゲームだ。

米国配信に先立って、台湾、タイ、ベトナムで海外版の配信が開始されている。さらには、フランス、イタリア、スペイン、ドイツなど欧州でも配信が検討されているという。

強みを持つ電子決済でも海外展開を加速している。マレーシアでは国内取り引き向けに電子決済ライセンスを取得し、2018年から電子決済サービス「WeChat Pay」のマレーシア展開を開始する計画だ。中国国外でのWeChat Payはマレーシアが初になるという。


「WeChat Pay」(WeChat Payウェブサイトより)

また、2017年11月英ロンドンの人気観光スポットであるカムデンロック・マーケットに出店している店に「WeChat Pay」を導入することを提案したと報じられている(中国新聞網)。現時点でカムデンロック・マーケットを訪れる観光客の約10%が中国人で、その数は前年9月比で2倍に上昇している。こうした中国人観光客の支払い利便性を高め、さらなる集客を実現するのが狙いのようだ。

一方、タイでは中国人観光客がよく利用する宿泊施設、レストラン、ショッピングセンターを対象にした企業向け広告サービス「テンセント・ソーシャル・アド」を拡大する計画もある。このサービスでは、顧客企業の広告をテンセントのソーシャルアプリ「WeChat」などで配信することが可能となり、地元企業は中国人観光客の集客を拡大することができる。

これまで中国のオンラインゲームや電子決済の分野で有力企業と呼ばれてきたテンセントだが、最新動向を見ていくと、その様態が大きく変化していることが分かってくるのではないだろうか。人工知能やEVなど先端テクノロジーを取り込みながら、どのような進化を遂げていくのか。これからの動向にも注目していきたい。