スポーツのオンライン化が進むなかで、スポーツビジネスはどんどん大きくなっており、eスポーツも盛り上がってきている。

そんな中、PwCコンサルティング合同会社は、「PwC スポーツ産業調査 2017-破壊的変化の大波にさらされるスポーツ産業」を発表した。

PwCスイスが世界のスポーツ産業を調査したレポートに、ここ数年内にスポーツのビッグイベントを控えている日本市場に対する洞察を加えたものだ。

今後3~5年で30%以上成長率が低下

Q.過去 3~5 年と今後 3~5 年のスポーツ産業の成長率は? また、主な成長分野は?

今回の調査では、「放送およびメディア企業」「リーグおよびクラブ」「国際競技連盟」「広告代理店およびスポーツブランド」などの関係者189人に対するヒアリングを実施した。今後3~5年の成長率を尋ねたところ、あらゆる分野の回答者が低下を予測していると回答した。

特に悲観的な見通しを示しているのは放送関係者で、今後3~5年で30%以上成長率が低下すると予測している。これはOTT(オンライン視聴)の台頭や、メディア消費のトレンドがモバイルやオンデマンドへ移行していることに起因すると考えられるとしている。

しかし、依然としてスポーツ業界は今後3~5年にわたって平均6.4%の成長率が予測されているという。サッカー、オンラインでプロスポーツの勝敗を競うeスポーツ、バスケットボールは、成長分野として期待されている。

オリンピック大会については、今後の見通しの不透明さを指摘する声もあり、国際スポーツの世界で地位を失いつつあると見られるとしている。

最も脅威なのは若い消費者層の行動変化

Q.スポーツ業界が最も懸念すべき脅威は?

また、スポーツ業界が最も懸念すべき脅威として、若い消費者層の行動変化が挙げられるという。

デジタルメディアの普及やスポーツコンテンツへのアクセスの多様化により、若い視聴者を意識した新しい形態のスポーツ体験が増加しており、テレビの生放送は衰退が避けられないと考えられるとしている。

こうした脅威は、メディア放映権市場に大きな影響を与えるとみられている。

スポーツコンテンツの権利所有者が、ソーシャルメディアなどの独自チャンネルを開設してファンと直接的に関係を構築する、大手IT企業が放映権市場に本格参入するなど、今後も大きな変化が起こると予測している。

ウェアラブル・センサーの規制や管理が課題

Q.ウェアラブルが今後直面する最も重要な課題は?

ウェアラブル・センサー技術の本格的な活用は、医学データを用いたケガの防止など、スポーツ産業の分野においても増えてきている。

しかし、今回の調査では、多くの回答者がこうした技術はあくまでファンを取り込むための仕掛けであり、業界を革命的に変えるものとは考えていないことが明らかになった。

さらに、回答者の3分の1が、アスリートのデータ所有権やプライバシー問題への対策を講じない限り、こうした技術を完全に統制し商業利用することはできないと考えているという。

このように、ウェアラブル・センサー技術により発信されるデータの規制や管理が課題となっていることが明らかになった。

VRやARの活用が進むもスポーツメディアを揺るがす影響はない

Q.VRおよびARに対するスポーツ業界の認識は?

VRの普及がスポーツの視聴体験を高めると考える回答者は全体の68%であり、VRやARが従来型のテレビ放映に影響を及ぼすことは必至と見なす回答者は過半数に及んだ。

VRやAR活用によるソリューションは、イベント体験、放映方法、スポンサーシップ、トレーニングなど、今後もスポーツ業界のさまざまな分野で活用が進むと想定される。

一方で、こうした技術は中期的には消費活動に大きく貢献するものの、あくまで従来型の視聴方法を補完するものであり、スポーツメディア全体を揺るがすような影響はないと考えられるとしている。

VRやARの活用が進んでも、スポーツ観戦におけるファン同士の交流など、リアルな実体験が失われることはないいう予想からだろう。

テクノロジーが変えるスポーツビジネス

ここで、スポーツビジネスの現状を見てみたい。

まず、楽天は、NBAの試合をインターネットを通じて視聴できる購読型サービス「NBA LEAGUE PASS」を国内の楽天会員に限定して提供開始した。

また、「DROPIT」というニュージーランド生まれのスタートアップは、スポーツ観戦中の「スキマ時間」を活用し、60秒間のライブオークションを開催するというアイデアでビジネスを展開している。

さらに、2014年末頃から注目を集めているのが「ドローンレース」だ。フランスのラジコンコミュニティがYouTubeにアップロードした動画が話題となり、それがきっかけで徐々に世界中でユーザー数を増やしていったといわれている。

サッカー界では、スペインの名門クラブFCバルセロナが、スポーツ業界の未来を担う研究施設「Innovation Hub」の構想を発表。そして世界最高峰と言われるアーセナルも、今後のクラブのあり方をピッチ内外で変えるスタートアップを発掘すべく、ベンチャーキャピタル(VC)のLmarksと共同で「Arsenal Innovation Lab」という試みを開始した。

野球では、アメリカ・メジャーリーグのロサンゼルス・ドジャースが、アクセラレータープログラム2期生の募集を開始した。

また、ゲームにおいても変化がみられる。任天堂が発売したWii U専用アクションシューティングゲーム「スプラトゥーン」は、大きな話題となったが、同社は「スプラトゥーン2」を「eSports」としても盛り上げていこうと想定している。

変革の時期を迎える日本のスポーツ産業

早稲田大学 スポーツ科学学術院 間野義之教授と、ソウル五輪シンクロナイズドスイミングデュエット銅メダルの田中ウルヴェ京氏は、日本のスポーツ産業の現状と課題、進むべき方向性について、次のように述べているという。

「日本のスポーツ産業は2019年以降、世界的なメガスポーツイベントがいくつも控えており変革の時期を迎えている。さらなる成長のためには抜本的な制度変更などを行い、投資を呼び込むことが肝要である」
–間野義之

「このようなメガスポーツイベントで世界から注目される機会をとらえ、様々な国の価値などを認め合える、真の意味でのグローバル化を目指すべき」
–田中ウルヴェ京氏

このようにスポーツ産業は大きな変革の時期を迎えており、抜本的な見直しが求められている。

すでに現在では誰もが情報の受信者と発信者のどちらの立場にもあり、今までのマスがスポーツを用いてビジネスを行うという構造自体が古いものになっていく。

スポーツ選手にフォーカスして見てみれば、一部のトップ選手以外や、マイナースポーツの多くの選手が自身をマネタイズすることができない状況であるのは明白だ。そういった選手たちにもスポットライトが当たるような仕組みなども、この変革期に登場することを期待していきたい。