国内外のメディアで「ミレニアル世代」という言葉を目にする機会が増えている。主に1980年代から2000年代初頭に生まれた人たちを指すが、彼らは所有より体験を重視する独自の消費活動をし、働き方やキャリアにも関心が高い。

ミレニアル世代は2020年までに全世界における労働人口の35%に達するといわれる。彼らを理解することは、企業が人材を確保する上で不可欠だ。

一方で、そのキャリア観をひと括りに語るのは容易ではないだろう。1993年生まれの筆者の周囲であってもその考え方は多種多様だ。

総合人材会社マンパワーグループは「ミレニアル世代のキャリア2020 年に向けたビジョン」調査を実施し、ミレニアル世代が仕事に何を求めているのか、大規模な定量調査を実施した。対象となったのは25ヶ国1万9000人にわたるミレニアル世代で、日本も含まれている。

彼らのキャリア観にはいったいどのような共通項があるのだろうか。

「死ぬまで働く」ミレニアル世代の求める「安定」とは?

ミレニアル世代のキャリアを考える上で重要なのは、彼らのほとんどが前の世代よりも長い期間働くことを想定している点だ。世界中で半数以上が65歳以降も、27%が70歳以降も、そして12%が死ぬまで働くと回答している。

日本は他国に比べてこの傾向が顕著に現れていた。日本では70歳以降も働くと回答した人が46%、死ぬまで働くと回答した人は37%に上る。

長期間にわたって働き続けるために、世界のミレニアル世代は新たなスキルの習得にも積極的だ。「あなたにとって雇用の安定とは何ですか」という問いに対し、「長期的に安定した仕事」に「市場ニーズにあった職業スキル」が同率1位に並ぶ。

また、「生涯にわたる学習を望み、研鑽を積むために自分のお金や時間を進んで費やしたいか」と答えた人の割合は全体の93%、「新たな資格・スキル取得のために長期休暇を取りたい」と考えている人も22%に上る。

興味深いことに「死ぬまで働く」と想定している人が最も多い日本において、新たなスキル習得への意欲は決して高くない。

「生涯にわたる学習を望み、研鑽を積むために自分のお金や時間を進んで費やしたい」と答えた人は52%(全体では92%)と、全体の数値の半数程度にとどまっている。「新たな資格・スキル取得のために長期休暇を取りたい」と回答した人は9%(全体では22%)だった。

日本人の意欲が低い背景にはそもそも休みが足りていない状況もある。2016年にエクスペディアが実施した調査で、日本の有給消化日数は10日で消化率は28ヶ国中ワースト1位となった。仮にスキルアップへの意欲があったとしても、限られた休暇を自己研鑽に費やす気になれないのも頷ける。

また、同調査では有給取得に罪悪感を感じる人の割合も最も高い結果となった。そもそも長期休暇を取る文化がない点も、数値の低さに影響しているのかもしれない。

フルタイムの間にも高まる「多様な働き方」への期待

新たな挑戦を求めるミレニアル世代のうち73%(日本では67%)はフルタイムの仕事に従事している。「将来的にフルタイムとして働きたい」という人の割合は70%と、現在もフルタイムでの働き方が一定の支持を得ている様子が伺える。

一方、将来的にフリーランスなどのフルタイム以外の勤務形態を視野に入れている人は2分の1に上り、彼らが多様な働き方を次の選択肢として意識しているようだ。

また、Uberのように単発請負型の仕事(ギグ・ワーク)に従事するのはミレニアル世代のうちたった3%(日本は1%)に過ぎず、ギグ・ワークが新たな働き方として定着したとは言いづらい現状も明らかになった。

職場に求めるのは「昇給」と「新たな挑戦」

ミレニアル世代は市場価値の高いスキル習得に積極的だが、今すぐ転職したいと考えているわけではないようだ。63%が「今後数年間またはそれ以上、今の会社にとどまる意向である」と回答し、日本では70%に達した。

一方、彼らは新たな挑戦の機会がなければ転職を考え始める。「何があれば今の会社に残るか」という質問に対して、「昇給、ボーナス」に次いで「新たな挑戦、昇進」が多い結果になった。昇進や移動まで同じポジションで待てる期間は「2年未満」が最も多く、2位に「1年未満」が続く。

レポートでは、世界のミレニアル世代のうち62%が「主な収入源が明日途絶えても 3 カ月以内に前と同等以上の仕事を見つけられる」と回答している点から、彼らのキャリアに対する楽観性が指摘されている。

しかし、70歳以降も働く未来を見据える世代は、単一のスキルで残りの数十年を生き残れるとは思っていない。スキルアップに向けた勉強や会社での新たな挑戦を通して、ミレニアル世代は新しい「安定」を手に入れようしている。

日本では「死ぬまで働く」未来を描きながらも、スキルの習得や転職意欲は比較的低い傾向にある。また、「主な収入源が明日途絶えても 3 カ月以内に前と同等以上の仕事を見つけられる」に対して、自信があると答えた日本人割合は30〜39%と、他国に比べて最も悲観的な結果となった。

同程度に悲観的な国にはギリシャやイタリアなど、経済的に先行きが不透明な国が並ぶ。日本においては経済的な不安以外に、雇用形態の特徴も挙げられるだろう。

日本では職務や勤務地を限定しない「メンバーシップ型雇用」が主流だ。そのため、自らのスキルや市場価値が客観的に把握しづらく、「同等の以上の仕事」がイメージできていない可能性も高い。

近年、政府は職務や勤務地を限定した「ジョブ型雇用」の普及に向けてルール作りを進めている。メンバーシップ型とジョブ型を行き来できるようにし、子育てなどライフイベントに合わせた多様なキャリアを可能にするのが狙いだという。

こうした流れに乗ってジョブ型雇用を導入する企業が増えれば、転職やスキル習得に対する意識も徐々に変化していくのかもしれない。

従来の「安定」と、新しい「安定」の狭間で

日本のミレニアル世代は、従来の「安定」と新しい「安定」の狭間で、長い長い仕事人生の行き先を案じている。

今後も需要が伸び続ける定年まで耐えうる職に就くのか、その時々に市場価値の高いスキルを身につけるのか。前者がマジョリティだった世代に育てられたミレニアル世代ゆえに、手放しで後者を選べない人も多いと思われる。

このレポートから浮かび上がってくるミレニアル世代の姿は、まさに過渡期にいる彼らを確保しようとする企業にとっても「やるべきこと」を浮き彫りにしている。福利厚生面のメリットを提示するだけではなく、挑戦と成長の機会を確信させるための説得が必要になるだろう。

img:マンパワーグループ