AMPでは、アメリカン・エキスプレスと共に主に国内のスタートアップのより一層の成長を支援する企画として「AMERICAN EXPRESS INSIGHT for STARTUPS」をスタートする。

これはスタートアップがぶつかる様々な課題を解決するためのヒントを、連載やリアルなイベントなどを提供し、事業や組織の成長を後押ししていこうという企画だ。

初回に取り上げるテーマには、業種を問わずあらゆるスタートアップにとって重要な「信頼」を選んだ。起業家はビジョンを掲げ、プロダクトも資金もないところから、仲間を見つけ、投資を受け、ビジョンを形にしていく。

何もないところから事業を立ち上げ、拡大していくために必要なことは「信頼」に他ならない。起業家はいかにして周囲の「信頼」を掴み続けることができるのだろうか。

スタートアップ黎明期に募集コミュニティサービス「WishScope」を運営するザワットを創業し、ピボット、資金難等を経て、メルカリ傘下に入った原田大作氏が経験した歩みから「信頼」を獲得するための決め手を探る。

原田大作
元ザワットCEO・ソウゾウ執行役員
1981年生まれ。株式会社サイバード、ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社を経て、2011年にザワット株式会社を創業、代表取締役に就任。募集コミュニティ「WishScope」やブランド品フリマアプリの「スマオク」等のC2Cサービスをグローバルに展開。2017年2月、株式会社メルカリにザワットをM&AでEXITし参画。現在はメルカリの新規事業を担う株式会社ソウゾウの執行役員として、ブランド査定付きフリマアプリ「メルカリ メゾンズ」等、新規事業領域を担当。

起業家は全方位からの信頼を得なければならない

起業家は、新しい価値を世に生み出す。それは、決して1人では実現できない。やりたいことを形にするためには、全方位からの信頼を獲得していくことが必要不可欠だ。

共に事業を運営する役員や従業員、開発したサービスを利用してくれるユーザー、資金を投じて事業を支援してくれる投資家。どこが欠けても、スタートアップは成立しない。原田氏が全方位から信頼を得るために、大事にしたのは「ビジョン」を掲げることだった。

サイバード、ウォルト・ディズニー・ジャパンで働き、モバイルインターネットの可能性に触れた後、実名制のインターネットが広がる可能性に賭けて起業。最初のプロダクトである募集コミュニティ「WishScope」を開発した。

当時、まだFacebookが日本に上陸したばかりの頃だったにも関わらず、彼が思い描くビジョンはかなり具体的だった。

原田「実名制のインターネットが広がり、マッチングできるようになると、顔情報と興味関心データが大事になると考えていました。顔認証が可能になって『この人はネットではこう活動している』とリアルで分かるようになる。そんな未来を見越して、WishScopeというメガネをつくることを考えていました。それがサービス名にもなっています。そのメガネをかけて街を歩いていれば、その場で人の欲求情報がわかる、そんな未来を構想していたんです」

聞く側も思わず、ワクワクしてしまう壮大なビジョン。何もない状態から信頼されるためには、人を惹きつけられるようなビジョンを掲げなければならない。彼もビジョンを描いたことで、出資を受け、共に働くメンバーを集めることができた。

ビジョンは繰り返し説明することが重要

 

ビジョンで人を惹きつけ、投資家や従業員から信頼されたとしても、サービスの内容や戦略に変更が生じると、信頼は揺らぎやすい。起業家はそんな時期も乗り越えていかなければならない。多くのスタートアップがそうであるように「WishScope」も順調には進まなかったが、向かい風の中でビジョンを繰り返し語ることを徹底した。

原田「英語を第一言語としてスタートして、海外のイベントに出場して注目を集めることで海外ユーザーを増やしていきました。香港のデザイナーにシリコンバレーの人が仕事を発注していたり、南アフリカの人があるブランドの靴がほしいと投稿したら、イギリスの人が『買って送ってあげるよ』とコミュニケーションしたり、サービスの可能性を感じました。ただ、いきなりグローバルで成長させることは難しく、まずは日本で展開することにしたんです」

日本で展開することを決めた後も、原田氏は迷っていた。何でもありの掲示板は、スタートアップとしては成功させるのが難しい。取り組むターゲットをスタートアップやフリーランスに絞ったことで成長したが、これも一定まで成長すると伸び悩んだ。一方で、資金は日に日に減っていく。何かしらの対応が必要だった。

原田「サービス内で求人はニーズ高かったので、求人機能をリリースして課金に挑戦しました。これで一旦のマネタイズはできました。ですが、サービスがスケールする前に課金しても、売上の天井が見えてしまったんです。キャズムを越えることができませんでした」

次から次へと生じる難題。「自分も社員も、気持ちの波があった」と当時の苦労を振り返る。好調の際、人は疑うことを知らない。だが、不調の際には疑問がふつふつと浮かんできてしまう。自分と、従業員を奮い立たせ、取り組んでいることを信じ続けるためにも、会社のビジョンを繰り返し語っていたという。

ビジョンを再確認した上で、まずは基本に立ち返り、ユーザーのニーズを分析することになった。その結果、モノの売り買いは人気があり、iPhoneやブランド物のバックのような高級品の取引はすぐに成立していることがわかった。だが、当時はまだエスクローのような安心安全に取引するための仕組みはない。WishScope上での取引も、トラブルが多かった。

原田「良いモノに絞って安心安全な仕組みを構築するために、WishScopeのモノを売り買いする機能のサテライトとして『スマオク』というサービスをリリースしました。理想はプラットフォームとしてのWishScopeがあり、モノの売り買いやスキルマッチングなど、サテライトアプリを8つほど作るやり方にシフトしようとしたんです」

こうしてブランド品オークションアプリ「スマオク」へとピボットを決めた。ただ、サービスが変わると、投資家や従業員には「社長の気が変わったんじゃないか」と思われてしまう。原田氏は会社のビジョンを繰り返し説明し、WishScopeとスマオクの立ち位置を伝えていくことで気が変わったわけではないことを示し、周囲の信頼を損なわないように努めた。

真摯に向き合い、ユーザーを「仲間」にする

歴史が浅く、会社のブランドもないスタートアップが、ユーザーからの信頼を獲得していくことは至難の業だ。原田氏は、常にオープンな姿勢で協力を求めてきた。オープンな姿勢がスタートアップに関わる人々からの信頼を獲得する上で何より重要だという。

「スマオク」へとピボットした原田氏は、協力してくれるユーザーたちを巻き込み、一緒にサービスを作っていった。

原田「開発中から関わっていると、いざサービスがスタートしたタイミングに応援したくなりますよね。ユーザーには開発時点から関わってもらい、”仲間”になってもらう。インタビューをさせてもらったり、機能改善案を出してもらったり、一緒に打ち上げしたりもしました」

サービスが正式にリリースする前にユーザーを巻き込み、仲間となってもらう。そうすることで貴重な意見を集め、ユーザーが求めるサービスへと近づけていく。このアプローチは「WishScope」でも、「スマオク」でも実行した。

リリース前には、仲間として開発に参加してもらうことでコアなユーザーにサービスを信頼してもらう。サービスをリリースした後は、どのようにユーザーからの信頼を勝ち得ていったのだろうか。

原田「CtoCの肝はカスタマーサポート。これは接客業なんです。開発だけだと自分たちがつくりたいものになってしまう。最初のユーザーを大切に扱うと、サービスをどう改善すれば良いかがわかってくる。だから、社長がカスタマーサポートをやることが大切なんです。サービスがいかにイケてないか、どこか使いにくいのかがわかりますから」

ユーザーにも仲間のように関わってもらいながらサービスをリリースし、リリース後は代表自身がカスタマーサポートを担当する。可能な限りユーザーの声と真摯に向き合うことで、スタートアップはユーザーからの信頼を勝ち得ていくことができる。

辛い状況であることも含め、社内にオープンにする

「スマオク」はユーザーからの信頼も得て、順調にサービスを育てていった。「WishScope」も閉じ、「スマオク」へとリソースを集中していった。

順調だったが、外部環境に変化が生じたことで変わらざるを得なくなった。メルカリが多額の資金を元手に勝負に出始めた時期、ユーザーの獲得コストが上がり、資金力勝負となった。

原田「外部環境が変わり、苦労も増えました。サービスも成長するけれど、成長のための負荷が大きい。そこを乗り越えればよかったんですが、従業員も30人を超えると組織にコミュニケーションの問題が出て来る。苦労の割にはスケールの速度は遅く、大変な状況でした」

残された資金もあとわずか。原田氏はそんな厳しい状況を早い段階で従業員にも開示した。毎朝のMTGで数字の進捗を共有。「このままではいけない」という空気感を作っていった。

原田「数字を共有し、空気を作った上で、各チームで期日までに目標達成してほしい、そうお願いしました。それでも、なかなか結果は出なくて。多くのメンバーは、自分から『辞めて他に行きます』と身を引きました。きっと、言いたいことは色々あったと思います」

外部環境の変化もあり、苦しい状況が続いたザワットは、改めてユーザーと向き合った。データ上の数字ではなく、人を見るようになった。売上の上位100位にいるユーザーがどんな人物なのか、プロファイリングをし、何故「スマオク」を使っているのかを考えていった。支えてくれるユーザーの顔を想像し、直接会いに行くこともあったという。

原田「改めてユーザーと向き合ったことで、色々なことがわかりました。まず、日本に住んでいる外国人が多かったこと。オシャレな人も多く、アジアから留学中の裕福な家庭で育った人もいました。そうしたユーザーたちは、商品を仕入れて自分の国に売るといった使い方をしていたことがわかりました」

辛い状況を社内に共有し、改めてユーザーに向き合ったことで突破口が見えた。日本も中国人による爆買いニーズが顕在化し、越境ECも市場として注目されるようになってきたタイミング。ザワットは30人いたメンバーも10人へと減らし、最後の力を振り絞り、痛みを伴った挑戦へと乗り出した。

築いた「信頼」がバイアウトの決め手に

背水の陣での挑戦は、功を奏した。ライバルの少ない越境CtoCはユーザーの獲得単価も安く、「スマオク」は広告を出せば数字が伸びる状態が再び見えてきた。

この頃に、原田氏はメルカリの松本氏と小泉氏と顔を合わせる。2人は会社員時代に出会い、起業への想いを刺激した人物だった。

原田「会社員時代、松本との出会いは大きかったですね。同じ81年生まれで、大学も一緒。共通項があって、よく話すようになり、仕事も一緒にしました。ただ、彼は自ら起業して成果を出していましたし、当時mixiにいた小泉(現メルカリ社長)も1つ年上で大きな結果を出していました。今の大企業で働く環境は居心地はいいけれど、周囲はリスクをとって成功している。『自分はこのままでいいのか』という焦りが生まれ、起業へと踏み出しました」

松本氏、小泉氏とは「スマオク」の事業の道筋が見えたタイミングで再会。話をする中で、「仲間」になる選択肢が浮かび上がった。

原田「小泉とはイベントの登壇で一緒になって、事業の状況などを軽く共有しました。同じ時期に松本とは飲みに行って、個人的に事業の相談をしていました。その飲み会の場で色々と話をした後に『それウチで一緒にやったほうが良くないか?』と言われたんです」

密に連絡を取り合っていたわけではない。だが、事業領域が近いこともあり、互いの活動は見ていた。ザワットがメルカリを見ていたように、メルカリもザワットを見ていたのだ。粘り強く、ビジョンに向かって進み続ける姿は、競合ながら評価されていた。

当時、ザワットには色んな所からM&Aの話が来ていたが、原田氏はメルカリに決めた。決め手となったのは、限りなく近いビジョンを掲げ、同じ未来を信じている会社であったこと。また、働いていたのがかつて仕事を共にしたことがあり、信頼できる人たちだったことだ。

原田「人生を振り返ると、松本と仕事していた時が刺激的で楽しかったんですよね。他にも、いつか仕事したいと思っていた人たちがメルカリに集まっていたこともあり、メルカリに決めました。メルカリも、初めてのM&A案件でいきなり見ず知らずのスタートアップを買収するのは難しかったはずで、過去に共に仕事をして信頼関係があったことも決め手になったと思います」

原田氏は「WishScope」を閉じ、現在は「メルカリ メゾンズ」の開発に取り組んでいる。メルカリが新規事業として取り組もうとしている未来は、まさにWishScopeが夢見た世界を具現化したものに近いという。サービスを閉じたとしても、変わらないビジョンの実現を目指して進み続けている。過去に生まれたつながりや、地道に事業に取り組む姿勢が花開くこともある。

スタートアップは、何も持たないところから始まる。何かを形にしていくために、ステークホルダーの信頼を得なければいけない。原田氏の歩みからは、起業家として周囲の信頼を獲得するために必要な、ビジョンを繰り返し共有する、ユーザーと真摯に向き合う、助けを求めるなどといった姿勢を学ぶことができる。

ぜひスタートアップには、原田氏の経験したことを参考にしてもらい、「信頼」を勝ち得ることで未来を切り拓いていってもらいたい。

Photographer: Hajime Kato