フリーランスの良いところはいくつかあるが、多くが賛同するであろうポイントは「出勤する必要がない=出勤時間を使わずに済む」ということだろう。

それは東京在住者にとって「満員電車に乗らずに済む」ということでもある。

とはいえ、自宅での仕事には誘惑も多く、時には会社員時代のオフィスに漂っていた「仕事をしなくてはいけない雰囲気」が恋しくなることもある。

そんな時に私が活用するのは、カフェや公園、もしくは散歩しながら仕事をするという気分転換法だ。これは「場所に縛られない」という職種ならではの特権かもしれない。

スキルとコミュニケーション力があればどこでも仕事ができる時代

場所に縛られず働く「ノマド」という言葉も広く知られるようになったが、そうした生活スタイルを後押しするサービスが今も世界中で生まれ続けている。

例えば、「住みたい国」と「プロジェクト」をベースに人材と求人をマッチングするプラットフォームである「Jobbatical(ジョバティカル)」。このプラットフォームを利用すれば、スキルと最低限のコミュニケーション力(語学力)さえあれば世界中を旅しながら仕事ができるようになる。

仕事にとどまらない生活全てのノマド化を後押ししようとしているのが、スタートアップ企業への投資を行っているMistletoeのCEO孫泰蔵氏だ。同氏が推進しているのが「Living Anywhere」というコンセプト。最新テクノロジーなどを使い、ライフライン、医療、教育、そして仕事を提供することで、これまで暮らすことができなかった場所をも、人が生活を営める場所にしようという考えだ。

こうしたプラットフォームやコンセプトに代表されるように、インターネットの発達、そしてLCCなどの移動手段の普及により、歴史上これまでにないほど世界中を旅しやすい時代がやってきているのだ。

会社自体がノマド化するという発想「海上オフィス」

「場所に縛られずに働く」というコンセプトからイメージされるのは、おそらくはカフェを転々とするようなフリーランスの姿だろう。

だが「オフィス自体がノマド化している」というユニークな企業が現れた。

それがP2Pのボートレンタルプラットフォームを運営している「Boatsters」だ。同プラットフォームには1万隻以上のボートが登録されており、主にヨーロッパ、タイ、オーストラリア、メキシコ、カリブ海、ブラジルで利用されているという。

そんなBoatstersは、これまで構えていたオフィスを引き払い、スペインのマヨルカ島近辺を中心としながら海上を漂うボートオフィスで社員が仕事をしているのが面白い。クライアントの元から、また新たなクライアントの元へ移動をしながら仕事をするスタイルは(少なくとも映像を見る限りは)優雅そのものだ。

ただし、ボートには社員のほかキャプテンとアテンダントの2人のクルーが乗船しているが、料理や洗濯などは社員自らが行なっているそうで、社員同士の結束にも役立っているようだ。

同社の公式サイトでは「Where to find us」という項目があり、主要スタッフがそれぞれどのエリアで滞在しているのか、大まかな情報を知ることができるのもユニークだ。これは63ヶ国でサービスを展開し、3,000組以上の顧客にボートシェアサービスを提供して来た彼らならではの働き方改革なのかもしれない。

ボートオフィスというワークスタイルは、それ自体が話題性に溢れている。そして、このスタイルは、彼らが提供しているサービスの延長線上にあるものだ。彼らがこのワークスタイルを実現しているのは、実利を兼ねたプロモーションでありブランディングとも言えるだろう。

船上コワーキングスペースで世界を旅しながら働く

「海上で仕事をする」というスタイルは、他にも事例が登場している。すでにオープンなサービスとして海上ワークを実現しているのが、海の上のコワーキングスペース「Coboat」だ。

2015年12月に始まった、最大20名が乗り合い1週間の共同生活をしながら働くという内容で、週に一度は停泊しながら、世界中を旅しているという。 船旅をしながら世界を回るという点では、ピースボートなどを彷彿とさせる。

もちろん、ワークスペースとしての機能も充実している。「Coboat」はプロジェクターなどのビジネスに欠かせない機材に加えて、沖合でのネット接続を可能にする衛星通信設備も備えており、何不自由なくリモートワークができる。

通常のコワーキングスペースもノマドワーカー同士の新たな繋がり(=セレンディピティ)を売りとしているが、この「Coboat」は共同生活という要素も加わる。船上で濃い時間を共に過ごすことで、より濃密なコラボレーションが期待できそうだ。

バカンスのように優雅に、海賊のように自由に働く。ノマドの潮流はすでに大地を離れ、大海原にまで進出しているようだ。

img : Karla Car, Joseph Barrientos