ほんの10年くらい前までは、スケジュールを確認するにはカバンの中の手帳が必要だったし、最新のニュースはテレビか新聞が必要だった。それが今では、ポケットに入る小さなデバイスで全て確認できてしまう。

これだけでも随分と進化しているけれど、数年後にはポケットにデバイスを入れておく必要さえなくなるかもしれない。

米国では出荷台数が3,000万台を超えたスマートスピーカー

最近は毎日のように「スマートスピーカー」に関するニュースを目にするようになった。

2017年10月、GoogleとLINEが日本でもスマートスピーカーの販売を開始し、Amazonも「Amazon Echo」の国内展開を発表した。“スマートスピーカー戦争”なんて見出しも見かけるほど、国内も盛り上がりを見せている。

もっとも海外では数年前からすでに販売されている。2016年に米国内だけで650万台の音声アシスタントデバイスが出荷され、2017年には2,450万台に成長すると予測するデータも存在する。

デバイスの普及にともない、スマートスピーカーで活用できるアプリケーションの数も急激に増えた。特に増加が顕著なのがAmazonだ。同社のスマートスピーカーに搭載される音声アシスタント「Amazon Alexa」のスキル数は、7月に15,000個を突破している。

スキルとはアプリのようなものだ。スキルは、Fox NewsやBBCのニュースを流してくれるものから、音楽やクイズ、天気予報やゲームなどがあり、ジャンルは多岐にわたる。

スマートスピーカーのプロモーション動画などを見ていると、天気やスケジュール、料理のレシピなどを聞いているシーンが多く、実用的なスキルが多いイメージがあるかもしれない。

だが、実際に2016年12月時点におけるAlexa上のスキルをジャンル別に見ると、ニュースに次いで多いのはゲーム・トリビアといったジャンルになっている。

その中でもユニークかつ、今後面白くなっていきそうなのが「Choose Your Own Adventure」と呼ばれるような、インタラティクブなコンテンツだろう。

あなたならどうする? 物語の展開はユーザー自身で決める

「Choose Your Own Adventure」とはゲームやドラマの中でユーザーに選択が求められ、それによって物語の展開が変わるタイプのコンテンツだ。

Alexaにはこの種のゲームがいくつかあるが、中でも、映画『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』と連動したオーディオゲーム「The Wayne Investigation」はひときわ注目を集めた。

The Wayne Investigationの舞台はバットマンの両親が殺害された数日後から始まる。ユーザーはAlexaからの質問に答えながら、その事件を解決していくというストーリーだ。ゲーム中に最大37回の選択を求められるが、面白いのは選択結果に応じてプレイ時間が5分〜40分と大きく変わること。

“repeat options” “go back” “skip” のようにユーザーが取れる選択肢は限定されているが、自分も物語に参加できるというのは作品のファンからすると嬉しいポイントといえそうだ。

「The Magic Door」もAlexa上で人気を集める冒険アドベンチャーゲームだ。The Wayne Investigationと同様にユーザーはAlexaと会話しながら物語が進んでいく。

森や山、庭といった10のステージからなるThe Magic Doorには、合計で200以上のシーン、30000のセリフ、様々なキャラクターやサウンドエフェクトが搭載。

「どのステージに進むか」「今歩いている道をそのまま行くか」「落ちている鍵を拾うか」といった質問に対する回答によって、物語の展開は全く別のものとなる。

BBCが挑む、インタラクティブなオーディオドラマ

インタラクティブな音声コンテンツがこれから増えていくかという観点では、BBCのR&Dラボが開発するオーディオドラマも大きな影響を及ぼすかもしれない。

世界で初めてテレビ放送を行ったことでも知られる、世界を代表する放送局BBC。テレビ番組に加えて、ラジオ番組などオーディオコンテンツも長年手がけてきた同社は、テクノロジーを活用したよりインタラクティブな形式を開発しようとしている。

同社は9月、「The Inspection Chamber」というオーディオドラマの開発をリリースした。The Wayne InvestigationやThe Magic Doorと同様に、ユーザーと音声デバイスの会話内容に応じて展開が変化するコンテンツだ。

検査室を舞台にしたサイエンスフィクションで、女性ロボットであるデイブに話しかけられる場面からスタート。ユーザーは新しい生命体という設定で、デイブの他に2人の科学者から「今の気分」など様々な質問を受けるという少々SFチックな物語になっている。

このドラマは約20分ほど続き、ユーザーの回答に応じて細かい展開やエンディングが異なるという。現在は開発段階で、BBC Tasterにて年内の公開を目指している。

インタラクティブな音声コンテンツは広まるか

オーディオドラマに限っていえばこのような取り組みは先進的だが、ゲームや動画においてはすでに同様のフォーマットが広がっている。

現にBBCのサイトには「The Stanley Parable」や「Papa Sangre」といったゲームから着想を得たと記載があり、動画の世界ではNetlfixがインタラクティブなコンテンツを作り始めていることは以前紹介した。

インタラクティブな音声コンテンツが広がっていくためには、音声アシスタントの精度向上など技術的な進歩も必要だろう。ただ従来の音声コンテンツでは完全に受け身だったユーザーが、主体的に物語に参加できるようになることは「選ばれる理由」のひとつになるかもしれない。

少なくともBBCはこの取り組みに本腰を入れていくようで、複数の音声プラットフォームに同じコンテンツを配信できる「ストーリーエンジン」を開発したと発表している。業界のリーダー的な存在でもあるBBCの影響を受けて、今後インタラクティブな音声コンテンツの開発が加速することは十分に考えられるだろう。

img :BBC Research & Development, Amazon Echo, The Magic Door, The Stanley Parable