いつからだろう、仕事以外で「メール」をほとんど使わなくなったのは。

ほんの数年前までは、友人や家族との連絡はもっぱらメールだった。仲良くなった友達と赤外線通信でメールアドレスを交換していたことは今でもよく覚えている。

それがいつの間にかガラケーがスマホに変わり、連絡手段もメールからFacebookメッセンジャーやLINEのような「メッセンジャーアプリ」へと切り替わった。今ではGmail以外のメールアドレスを持ってすらいない。

そして今、コミュニケーションに不可欠な存在となったメッセンジャーは単なる連絡手段を超えた「暮らしのインフラ」へと進化を遂げようとしている。


タイで独自の金融事業を推進、インフラ化が進むLINE

日本国内で最も普及するメッセンジャー「LINE」。2017年7月にLINEが発表した数字によると、日本国内の月間アクティブユーザー数は7,000万人を超えている。

LINEではこの強力なコミュニケーションアプリを「入り口」として、決済や求人、エンタメ、ショッピングなど様々なジャンルのサービスをシームレスで利用できる「スマートポータル構想」を進めている。

これはYahooのような「ポータルサイト」のスマホ版を作るという構想だ。この動きは何も日本国内に限った話ではない。実は近年、LINEが暮らしのインフラになるべく急成長を遂げている国がある。その1つがタイだ。

日経新聞の報道によると、LINEのタイ法人では2017年8月に金の積み立てサービスを発表したという。タイでは金の投資が人気ということもあり、LINEを通じて簡単に金を購入できる仕組みを整える。この事業はタイ独自の取り組みで、LINEは初参入となる。

タイはLINEの普及率が高い国の1つだ。人口7,000万人弱のうちユーザーは4,000万人以上、利用時間も他国と比較して長いという。LINEは昨年、タイの電子決済用スマートカード「Raddit」と提携した「Raddit LINE Pay」を発表。今年は金の積み立てサービスに加え、株価などの金融情報提供や、タクシー配車アプリも始める予定だという。

WeChatを筆頭に目立つ、メッセンジャーの「決済事業参入」

タイで金融分野の事業を広げようと目論むLINEだが、中核を担うのは日本国内でも展開するLINE Payだ。2014年12月のリリースからもうすぐ3年を迎えるLINE Payはユーザーを着実に増やし、2017年5月の時点で国内のユーザー数が3,000万人を突破。グローバルでは3,800万人に使われていることが同年7月の決算発表時に明かされた。

スマホアプリを用いて気軽に送金や決済ができるモバイル決済サービスはここ数年で増えているが、中でもメッセンジャーアプリの参入が目立つ。その筆頭が以前AMPでも取り上げた中国版LINE「WeChat」の決済機能である「WeChat Pay」だ。

枯れた技術が日本のキャッシュレスを実現?中国にモバイル決済を広めた「QRコード」の再上陸

ライバルのAlipayに遅れる形で2013年にリリースされたWeChat Payだが、グローバルで9億6,300万人ものアクティブユーザーを抱えるWeChatの基盤を武器にAlipayを猛追している。実店舗やオンラインでの決済、P2Pの送金など多様なシーンで使われ、中国国内ではもちろん、今や世界有数のモバイル決済サービスとなった。

国内でインフラと化したメッセンジャーツールが、そのユーザー数を強みとして決済事業を始める例としては、韓国のカカオトークを基盤とした「カカオペイ」も同様。同サービスは韓国内で1,000万人以上のユーザーを抱える。

金融インフラが整っていない地域ではメッセンジャーにも勝機

インドで2億人以上が使う「WhatsApp」も、4月にインド国内でモバイル決済サービスに参入することを発表した。WhatsAppの状況は、Alipayに遅れて市場に参入した時のWeChatに近い。日常的にWhatsAppに親しんでいるユーザーをどのように獲得していけるのかが勝負の分かれ目となる。

実はこのインドと中国、そしてLINEが金融事業の展開を進めるタイには共通点がある。それは国内で金融インフラが整備されきっていないということだ。少し古いがマッキンゼーが2015年にアジアの決済事情についてまとめたレポートでは、「unbanked populations(アンバンクト)」について言及されている。

アンバンクトとは銀行口座を持てない人口のことを指し、このレポートによるとインドでは人口の47%、中国では人口の23%、タイでは人口の22%が該当するという。データが2年前のものであるため数値はあくまで参考程度のものだが、未開拓の市場は大きく、これから参入する企業にもチャンスは残されている。

特に東南アジアの新興国など、まだ圧倒的な勝者が存在しない国では、メッセンジャーで覇権を取った事業者がその基盤を生かして金融領域までインフラを拡大してもおかしくはない。

今後は未開拓の市場が大きい国でこそ、LINEも含めたメッセンジャー事業者の「暮らしのインフラ化」に向けた競争が激しくなりそうだ。

img : LINE, WeChat Pay, Pixabay

【他のFintec関連記事】