どんな家だったら、買って所有しようと思えるだろう。

アクセス?広さ?デザイン?物件を評価する際の基準は色々あるが、「所有より、シェア」という考え方が広まるミレニアル世代にとって、家を購入するというのはハードルが高い。

「住宅購入が遅れている原因は信用基準の厳しさに加え、晩婚化、出産の高齢化といったライフスタイル変化にあるだろう」–バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチのエコノミスト、Michelle Meyer(ミッシェル・マイヤー)氏は、こう述べている。

若い世代が住宅を購入するには、ハードルが色々とある。だが、こうしたハードルを乗り越え、あえて所有にこだわる人もいる。たとえば、家の窓から外を見て、息を呑むような美しい景色が広がっていたら、思わず買いたくなってしまうかもしれない。

図面も、間取り図も、内観写真もない不動産仲介サイト

絶景不動産」は、絶景を望める物件のみが掲載されている不動産仲介サイトだ。売買、賃貸、宿泊がメニューとしては用意されているが、同サイトが主に扱うのは土地の売買だ。

サイトに掲載された情報は、「どの絶景がよいか」という選び方に最適化されている。一般的な不動産仲介サイトでは、建物の外観や敷地内の様子が並ぶ。対して、絶景不動産の物件一覧ページには、その物件から眺められる景色の写真が並んでいる。

詳細を見ても、そこに並ぶのもあくまで景色のみ。敷地から眺める絶景の写真、絶景を説明する端的なことば、最低限の詳細情報だけが並ぶ。土地の場合でも、地形の図面などは無く、航空写真で該当する場所を囲っているだけ。現況写真は存在しない。一部取り扱うマンションの場合でも、間取り図も、内観写真も、外観写真もない。

絶景を選ぶことに最適化しつつ、「絶景か否か」を最初の判断基準にしてもらえるよう、ノイズになりうる情報はそぎ落としているのだ。

「風景のリノベーション」設計視点で見た敷地の価値を伝える

絶景不動産を運営するのは、建築家の谷尻誠氏率いる『SUPPOSE DESIGN OFFICE』という建築設計事務所だ。サイトには絶景不動産について、以下のような説明が掲載されている。

素晴らしい景色を持ちながらも、建物を建てることが出来る敷地として認識されていない場所や、建築が存在することによって価値が顕在化する敷地など、設計という視点から敷地を観察し、風景のリノベーションを行い、敷地のポテンシャルを引き出す不動産会社です。

豊かな生活の隣には、美しい風景があります。それは絶景と呼ばれる素晴らしい景色だけでなく、 都市の夜景や、公園、水辺、緑、人による様々な絶景です。

私たちは、そんな隣の環境を同時に考えながら、新しい視点で敷地の提案をしていきたいと考えています。

不動産は一般的に駅からの距離などの利便性や、広さといった画一的な基準によって価値が算出される。その価値判断には含まれにくい、絶景を切り出せるといったポテンシャルを、設計者の視点で見つめ「どういった建築があれば、土地の価値を最大限引き出せるか」を考え、“敷地”を提案している。

不動産のオルタナティヴな選択肢

絶景不動産が提供するのは、不動産における新たな選択基準だ。従来の画一的な不動産情報ではなかなか見つけづらいが、素晴らしいポテンシャルを持つ物件を発掘する場を提供している。そのポテンシャルは一目見ただけで目を惹く「絶景」もあるが、設計視点でみた「建築次第で価値を最大化できる」という点もある。

絶景不動産が提供するのは、R不動産株式会社が運営する『R不動産』の提供する価値に近しい。R不動産では、築浅で駅近で広くて、家賃が安いというわかりやすい指標では価値を発揮できないが、人によってはとても魅力的に映るであろう「少し変わった」物件を取り扱う不動産仲介サービス。同サービスのアバウトページには以下の様に説明されている。

東京R不動産は、新しい視点で不動産を発見し、紹介していくサイトです。人はそれぞれに、違ったこだわりや好みを持っていると思います。一風変わった物件も、人によっては、それが宝物のような空間かもしれないのです。重要なのは、そのマッチングだと思います。

(中略)普通の不動産紹介では拾いきれないような、物件の隠れた魅力を掘りおこします。

絶景不動産もR不動産も不動産の選択において、従来の手法では探し当てることが難しかった価値を掘り起こし、より多くのオルタナティブな選択肢をユーザへ提供しようとしている。

価値観の多様化が進む中、従来の画一的な選択方法ではカバーできない範囲が拡張している。オルタナティブな選択肢は今後ますます求められるようになるだろう。

img : 絶景不動産, Instagram