参入障壁が低い業界では、一時も安心することはできない。他社が容易に真似できるからこそ、いかに市場のシェアを握れるか、サービスをリリースした後の戦略こそ重要だ。

北米から始まり、今やアジアやヨーロッパなどグローバルで普及しているライドシェア業界もそのひとつだろう。スマホを活用して配車から決済までの流れをスムーズにし革新を起こし、今や世界各国で様々な企業がサービスを展開している。

ライドシェアの二大巨頭「Uber」と「Lyft」

Uber(ウーバー)」と「Lyft(リフト)」——ライドシェアと聞いたらまずこの2つを思い浮かべる人も多いのではないだろうか。

2010年にUberCabとしてリリースされたUberは、2017年8月現在東京を含む632の都市で利用できるライドシェアサービスのリーダー的な存在。Uberのライバルとして引き合いに出されるのが、2012年にニューヨークで始まったLyftだ。

Lyftは、規模ではUberに及ばないものの、2017年7月に1日当たりの乗車回数が100万回を達成。現在はアメリカのみでのサービス提供ではあるものの、乗車回数は48ヶ月連続で増加。前年比では2倍以上になり、急速に利用者を増やしてきている。

両社はともに、非上場で企業価値が10億ドルを超える「ユニコーン」と呼ばれる有望なスタートアップだ。ドライバーを取り合ったり、一方の機能を真似したりと外から見ると似たように見える2つのサービスだが、実は別々の戦略で成長を目指している。

業界のリーダーとして自前で新たな道を切り開くUberと、Uberの後追いにならないよう異なる切り口で挑戦し続けるLyft。両社は、戦略面でどういった違いがあるのだろうか。

デリバリーや物流など、他領域に事業を広げるUber

Uberはライドシェアサービスに加え、2014年には「UberFRESH(現UberEats)」、2015年にオンデマンド配達サービスの「UberRush」、2017年には運送トラックの配車サービス「Uber Freight」と、次々と自社サービスをリリースしてきた。

昨年9月から東京でも展開しているUberEatsは、覚えがある方もいるだろう。UberEatsは、有名店から大戸屋のようなチェーン店まで100を超えるレストランへ配達を依頼できるサービスだ。

最近では、マクドナルドやスシローもラインナップに加わり、対象エリアを広げるなど積極的に事業規模の拡大に努めている。

ライドシェアサービスでは国際展開を進めながらも、新規ユーザーの開拓に向け事業の幅を拡張し続けている。配送や物流は市場規模が大きく、Uberにとってはライドシェア事業以外の収益源を確保するチャンスにもなりえる。ドライバーのネットワークを始めとしたUberが持つ資源を有効活用できるのも利点だ。

Uberを追随するべく、異業種企業と積極的に提携するLyft

一方のLyftは、ライドシェアサービスに特化して事業を拡大してきた。同じ方向に向かう乗客が相乗りできる「Lyft Line」や通学バスのように決まったルートを回る「Lyft Shuttle」など、ライドシェア事業の中でのオプションを充実させてきている。

Uberのように別領域の事業を手がけないかわりに、自社サービスの利便性を徹底的に向上させ、これまで接点の無かった顧客との接点をつくるため、他企業との提携にも積極的だ。

Lyftは2015年にインドのOla(オラ)、シンガポールのGrab(グラブ)、中国のDidi Chuxing(ディディチューシン)といった各エリアで覇権を握るライドシェアサービスと提携し、大きなニュースとなった。

積極的に提携先を広げる背景には、LyftがUberを追いかける立場であり、自前主義では先を行くライバルに追いつくことが難しいことも大きく関係しているだろう。

だが、同社が提携するのはライドシェアだけではない。2017年に入りLyftは多様な企業との提携を発表している。企業ごとに狙いは異なるが、大きく3つの目的で提携を展開した。

ポイントは提携先ユーザーの利便性向上

1つ目は、都市交通サービスの利便性向上だ。Lyftは鉄道会社や航空会社とタッグを組み、都市交通の使い勝手を改善することで新たなユーザーの獲得を目指している。

その代表例が、2017年8月1日に発表したアメリカを代表する鉄道会社、Amtrak(アムトラック)との提携だ。この提携によってAmtrakのモバイルアプリから直接Lyftの配車サービスを使えるようになった。

LyftはAmtrakユーザーが自宅から駅、駅から目的地へと向かう移動をよりスムーズにする。同社にとってはこれまでリーチできていなかった、新たな顧客を獲得する機会になりうるだろう。

2つ目は、他サービス利用者の送迎サービスだ。Lyftでは提携企業のユーザーに無料で送迎サービスを提供し、認知度向上に繋げるという取り組みを行っている。

特にインパクトが大きかったのがディズニーとの提携だ。ディズニーワールドの宿泊客をリゾート内の目的地まで送迎するサービスを提供。ミニー柄が特徴のミニバンならぬ「ミニーバン」は、早速Instagramでも話題になっている。

6人まで乗車でき、幼児向けに2席のチャイルドシートも用意。既存のLyftアプリを通じて利用する。7月31日にリリースされたパイロット版ではBoardWalk ResortとYacht & Beach Club Resortsの宿泊客のみが対象となる。

以前AMPでも紹介した保険会社BCBS(ブルークロス・ブルーシールド)協会と共同で進めるプロジェクトも同様の取り組みだ。ここでは既存の交通インフラでは通院するのが難しい人々を主なターゲットに、コスト削減と治療状況の改善を目的として無料送迎サービスを提供する。

ディズニーと保険会社ではジャンルが全く異なるが、既存の交通インフラを補い利用者の快適な移動をサポートする手段としてライドシェアが台頭する可能性は十分にあるだろう。

3つ目は企業のマーケティング支援だ。メキシカン・ファストフードのTaco Bell(タコベル)との提携では、アプリ上で付近のTaco Bellを検索し、ボタンひとつでドライブスルーの依頼ができる「タコモード」機能を展開した。

タコモードは、7月27日〜30日と8月3日〜6日にカリフォルニア州で試験的に導入。ドライバーと乗客双方のフィードバックを踏まえて今後さらなる市場へ展開していくと予定だという。

料理を自宅まで配送してくれるUberEatsとは真逆のアプローチといえるが、飲食店が新たな顧客を掴む手段になりえるのか気になるところだ。上手くいけば、飲食店に限らず小売店などにも同じ形で提供できるだろう。

Lyftのアメリカ集中戦略、その結果はいかに

「Uberブランド」のもと新たなサービスを生み出し顧客の開拓を目指すUberと、パートナー企業とタッグを組み、自社アプリの利用シーン拡大を試みるLyft。今後どちらがライドシェア業界の王座につくのか。その鍵は両社の戦略の違いにありそうだ。

冒頭でも触れたように、主力のライドシェアサービスに関してだけでも632都市でサービスを提供しグローバル展開を加速するUberに対して、Lyftはいまだアメリカ国内のみと大きな差がある。しかしアメリカ国内のシェアだけを対象にした場合、Lyftにも勝機はあるかもしれない。

Lyftは8月31日に提供エリアを拡大、40の州に対応したことを発表した。これによりアメリカ人の94%が対象になり、国内のライドシェアサービスの中では最大のカバー率になったという。

Uberのように世界展開をしているわけでも、既存のアセットを生かした横展開をしているわけでもない。「アメリカ国内市場 ×ライドシェアサービス」に集中し、この領域でトップを目指すのが追いかける立場であるLyftの戦略だ。今回紹介したような異業種企業との提携も、国内で新たな層のユーザーを開拓する施策の1つといえるだろう。

Uberを超えるためにLyftは次にどのような手を打つのか、今後の動向が楽しみだ。

img: Lyft