デジタルテクノロジー過剰利用の弊害

あなたは1日のうちスマートフォンを何回見るだろうか。自覚していなくても、数十回…もしかすると100回、200回かもしれない。その理由はおそらく、Eメール、Facebook、Twitter、Instagramなどの通知が気になるからではないだろうか。

スマホをちらっと見るだけの何気ない行為に思えるが、これが集中力を削り、生産性を下げる要因になっている。Microsoft Research Canadaが2000年と2013年に実施した、スマホ利用者の集中力に関する調査では、面白い結果が明らかになった。

この調査は、スマホ利用者の集中力の持続時間を調べるもの。2000年に実施されたとき、被験者の集中力の平均持続時間は12秒だった。そして、同じ調査が2013年に実施されたが、結果は「8秒」と2000年比で4秒も短くなっていたのだ。

この結果は何を示唆しているのだろうか。頻繁にスマホを見る行為が、脳に何らかの影響を与えていると考えられる。スマホからは、EメールやFacebookなど複数のソースを通じて雑多で一貫性のない情報が入ってくる。情報氾濫で脳がオーバーヒートしているのかもしれない。


何気ないスマホチェックが集中力を下げている

10〜20年前に比べ、インターネットとスマホが普及した現在、生活の利便性は格段に上がったはずだ。しかし一方で、インターネットとスマホの「過剰利用」は、集中力や生産性の低下をもたらしている。

このようなデジタルテクノロジーの過剰利用による弊害に気づき、自発的にインターネットやスマホから「ディスコネクト(接続の遮断)」するひとも増えてきている。

そんななか「Unplugged」というコンセプトを軸に発展している新しいコミュニティに注目が集まっている。Unplugged、つまりインターネットに接続しないという意味。

ネットに接続せず、自然を体感したり、人との直のコミュニケーションを楽しんだり、デジタルの過剰利用で薄れてしまった感覚を取り戻したいという人びとから密かに人気となっている。

今回はこのUnpluggedがコンセプトの代表的コミュニティ「Restival」と「Camp Grounded」の2つを紹介したい。

ナバホ族の伝統体験、脱デジタルコミュニティ「Restival」

「Retreat(静養)」と「Festival(祭り)」をかけ合わせた意味を持つRestivalは、2015年モロッコの砂漠でのアクティビティを第1回目として始まったUnpluggedコミュニティだ。2016年からは米アリゾナを中心に実施されている。

Restivalは1週間ほどのプログラムで、参加者はティピーと呼ばれるテントに泊まりながら、ヨガ・瞑想、クリエイティブ・ワークショップ、現地住民の暮らしを体験することができる。プランによって価格は異なるが、5泊6日で1800〜2950ドル(約20万〜30万円)と決して安くはない。しかし、インターネットから離れ、Restivalだからできる価値体験を得たいと考える参加者は少なくない。

 

Restival参加者が宿泊するティピー(Restival Instagramより)

アリゾナで実施されたプログラムの1日は以下のようになっている。朝は日の出とともにヨガを始め、その後Sound Bath(ヒーリングサウンドを使った瞑想)を行い、心と身体を完全にリラックスさせる。そして、クリエイティブワークショップでペインティングやジュエリー作りなどの創作活動を行うことで、創造性と自己観察力を高める。食事はすべてオーガニックだ。

夜には満天の星空を見ながら、米航空宇宙局(NASA)のコンサルタントによる天文学講義を聞く。現代天文学だけでなく、ナバホ族の伝統的天文学のコンセプトについても語られた。

Restivalにはさまざまなひとが集まってくるが、普段多忙なビジネスパーソンも少なくないという。こうしたビジネスパーソンがRestivalに参加するのは、インターネットを遮断して、FacebookもGoogleも使わずに、まっさらな状態で自己を見つめ直したいからだろう。そうすることで、次のステップを冷静に考えることができる。

Restivalは、今夏ロサンゼルスで土曜日だけのプログラムを実施している。アリゾナまで足を運べないひとでも気軽に参加できる。


自己を見つめ直す時間を得られる脱デジタルコミュニティ「Restival」

童心に帰れるコミュニティ「Camp Grounded」

Camp Groundedは、オークランド拠点のグループDigital Detoxが主催するコミュニティ。Digital Detoxは「インターネットを遮断して、人びとを再びつなげること」をミッションとし、テクノロジー中毒者の状態改善を目指している。

その一環で始められたCamp Groundedは、キャンプ場でのさまざまなアクティビティを通じて自己を見つめ直す時間を得ようというものだ。「大人のためのサマースクール」とも呼ばれており、参加者はそこでのルールに従わなければいけない。

ルールには、デジタル機器の持ち込み禁止、時計の持ち込み禁止、仕事の会話禁止、年齢の会話禁止、ドラッグ・アルコールの禁止、ウェアラブルの着用禁止が含まれる。仕事につながるネットワーキングも禁止されていることから、「本名を使うことも」許されていない。


Camp Groundedの入り口には「すべてのデジタルテクノロジーにお別れを」という看板が掲げられている

参加者の多くはRestival同様に普段多忙なビジネスパーソンだ。テクノロジーの過剰利用で、燃え尽き状態になった人びとが英気を養うためにやってくる。ルールはそれなりに厳しいものだが、2017年5月に実施された2セッションはどちらも満員となるほど人気のプログラムだ。プログラムは週末を挟んだ4日間、費用は300ドル(約3万3000円)。

Camp Groundedでのアクティビティは、アーチェリー、ヨガ、ロッククライミング、漫画描き、工作、タレントショー、編み物、ハイキング、キャンプファイヤーなど多岐にわたる。


子供心に帰ることのできる脱デジタルコミュニティ「Camp Grounded」の様子

Digital Detox自体は2012年に設立されたグループ。当初は、カリフォルニアやカンボジアなどに拠点を構え、そこでヨガ、瞑想、健康食を体験できるコミュニティをつくっていた。

こうした活動が精神的な側面を重要視していた一方で、Camp Groundedは参加者がシンプルに子供心に帰る場所にしようとデザインされた。さまざまなアクティビティを通じて童心に帰り、リアルの場で純粋にひととつながれるコミュニティといえる。

今回紹介したRestivalやCamp Groundedの人気が高まっている理由は、普段インターネットやソーシャルメディアの過剰利用でストレスと抱えているひとなら理解できるのではないだろうか?

デジタルテクノロジー自体は人類の発展に欠かせないものだが、デジタルテクノロジーが普及して間もないいま、スマートに使いこなしているひとは少ないのかもしれない。

今後人類はデジタルテクノロジーをどううまく使いこなすのか、過剰利用ではなく、「スマート利用」の術を身につけていかなければならない。日本でも「Unplugged」コミュニティを求める気運は高まるかーー。