アルデバランを買収して以来のソフトバンクによるロボット開発企業の買収が話題となった。

2017年6月9日、ソフトバンクグループ株式会社(以下・ソフトバンク)はGoogleの親会社であるAlphabet傘下のロボット開発スタートアップのBoston Dynamics(ボストン・ダイナミクス)とロボットスタートアップSchaft(シャフト)の2社を、買収することを発表した

Boston DynamicsはMITからスピンアウトして生まれたロボット開発スタートアップで2013年にGoogleに買収された。2足や4足歩行するロボットの開発を行っており、米軍の前線支援用に開発された(※採用は見送られた)モデルもあるなど、技術力の高さと性能の高さはたびたび話題を呼んできた。

Boston Dynamicsと同時にGoogleに買収されたSchaftは東大発のロボットベンチャー。Boston Dynamicsと共にAlphabet傘下で、事業化前の次世代技術の開発研究を行う「Google X」にてロボティクス分野の開発・研究を行っていた。

両社の買収にあたりソフトバンクはリリース内で「スマートロボティクスを次の段階へ推し進めるという当社のビジョンに沿ったもの」と発表。既存ロボティクスの中核プロダクトであるPepper(ペッパー)への技術展用等に期待が集まった。

インターネット上では、山道を転ばずに歩くPepperやドアノブを回して部屋に入ってくるPepperを期待する声が散見された。だが、私たちは歩行するPepperだけを期待している場合ではないようだ。

「ソフトバンク2.0」を実現する買収劇

ソフトバンクは2015年に発表した事業戦略プラン「ソフトバンク2.0の中で、注力分野に「IoT」「AI」「スマートロボット」を挙げている。今回のBoston DynamicsとSchaftの買収はスマートロボット分野への注力の一環といえる。

一方、残りのIoT、AI分野への注力に関しては、ソフトバンクが2016年9月に3兆円で買収した英国の半導体メーカーARM(アーム)が記憶に新しい。

ARMの買収にあたってソフトバンクは保有していたAlibaba(アリババ)株などを一部売却し、追加融資を得てまで買収に必要な3兆円をかき集めた。2017年3月期第2四半期決算説明会で同社代表の孫正義氏は、ARMの買収はシンギュラリティ以降産業構造が大きく変化することを見据えた打ち手の第1弾である旨を公言している。

ソフトバンクは元々通信など特定の産業においてビジネスを成長させてきた。それではシンギュラリティ以降の変化において間に合わないと考え、近年では様々な企業買収などを通し規模と領域を拡張を続けているという。

10兆円規模のファンドが世界中のテクノロジー分野を押し上げるか

決算説明会の中で孫氏は「ソフトバンクは借金が多すぎる」と方々から言われている旨も公言した。同社はARMの買収をするために借り入れが増加したことで、純有利子負債のEBITDA(減価償却前営業利益)倍率が4倍まで増加した。一方でARMの買収劇を第1弾と語ったように、ソフトバンクは今後も様々な企業買収や投資事業を通して事業規模の拡大や注力分野へのてこ入れを目指している。

この資金繰りの策として同タイミングで発表しているのが「Softbank Vision Fund(ソフトバンク・ビジョン・ファンド)」だ。

Softbank Vision Fundは、グローバルにテクノロジー分野へ出資することを目的に複数のパートナーと共に運用する投資ファンド。2017年5月に完了した初回クロージングでは総額10.4兆円の出資コミットメントを取得。出資者として参画したのはソフトバンクに加え、サウジアラビア王国のパブリック・インベストメント・ファンド、アラブ首長国連邦アブダビ首長国のムバダラ開発公社、Apple(アップル)、Foxconn(フォックスコン)Qualcomm(クアルコム)、シャープ株式会社といったそうそうたる面々が名を連ねた。

このファンドの設立によって、ソフトバンクは自社の負債倍率は抑えつつも積極的な投資を行える状況を作り出したといえる。前述のAlibabaをはじめ、インターネット黎明期のヤフー、ガンホー・オンライン・エンターテイメント株式会社など、ソフトバンクの投資先は数多存在し、知られているところだけでもかなりの成功を収めている企業が多い。

同社は直近18年間でのインターネット関連企業に対する投資において、内部収益率が44%にものぼる旨も公表しており、企業投資における高い先見性を示している。同社がSoftbank Vision Fundを通し10兆円規模の投資を行うことがテクノロジー分野に大きなインパクトを与えることは想像に難くない。

ロボティクスだけでなく、あらゆる分野のテクノロジーを推し進めるソフトバンクの動きは今後も見逃せないだろう。

img: tenz1225 (CC BY-SA)