終息の兆しが見えない新型コロナウイルスの感染拡大。米国や欧州を中心に感染者・死者数は増加の一途をたどっている。

感染拡大を抑制するために各国では外出自粛・禁止措置を導入。人々は在宅勤務、オンライン学習に移行している状況だ。

生活サイクルが大きく変化し、それに伴いメディア消費の傾向も大きく変わってきている。

新型コロナで世界のメディア消費はどのように変化しているのか、その最新動向を追ってみたい。

テレビ視聴が急増?変わるメディア消費、アジアの状況

消費者リサーチ大手ニールセンが3月25日に発表したレポートでは、新型コロナの影響が欧米に比べ早い段階で広まった東アジア地域のメディア消費変化をまとめている。

人口約2,400万人の台湾。2月最初の3週間で、テレビ視聴者は約100万人増加。ニュース報道に加え、子供向け番組の需要の高まりが増加要因とみられる。

香港でもテレビ視聴が増加。2020年1〜2月のテレビ視聴率は前年比で、全体で30%以上増加、ニュース番組に至っては120%以上の増加となった。

閑散とする台湾桃園国際空港(2020年2月17日)

ニールセンは日本の状況も伝えている。Yahoo! Newsでは2月27日に、ページビュー数が日時平均38%増となり、2億4,400万回近くに達したとのこと。およそ2,700万人分の増加に相当するという。

ニールセンが伝えたNTTのデータによると、3月1週目における平日(午前9〜16時)のインターネット通信量は通常時より35%多く、さらにその次の週には40%増加した。

統計データサービスのStatistaが公開した調査によると、3月に入ってニュース報道(サイト、テレビを含む)をいつもより多く視聴しているとの回答は、日本では56%だった。

また、いつもより多くテレビを視聴しているとの回答は51%。日本ではYahoo! Newsとテレビが新型コロナ関連情報の主な取得先になっていることが示唆されている。

ソーシャルメディアではフェイクニュースが出回っているため、ニュースサイトとテレビ報道の視聴が増えていると考えられる。

人口13億5,000万人のインドでも、メディア消費は大きく変化している。

Comscoreによると、ニュースサイトへのアクセスは通常時に比べ61%増加。2月10〜16日週を100とした指数でみると、3月16〜22日週に161に達した。

特徴的なのは、急速に伸びたのが3月9~15日週からで、2月17〜23日と2月24〜3月1日にかけては80近くまで下がっていること。2月末にかけて、人々の危機感が薄くなったこと、3月中旬にかけて危機感が再び増大したことが示唆されている。

外出禁止による検問、インド・ラジャスタン州(2020年3月30日)

インドでは、ニュースサイトだけでなく、健康情報サイトへのアクセス数も増加傾向にある。上記と同じ指数で見ると、2月10〜16日週と比較して、3月16〜22日週は20%以上の伸びを見せている。

最も顕著なのは、ヘルスケア系リテールサイトへの流入で、その増加率は146%に達した。3月中旬に入りマスクや除菌ジェルの需要が高まったことを示す数字だ。

一方、スポーツ系サイトは、スポーツイベントの中止などを受け、流入は激減。2月10〜16日週と比較して3月中旬は87%減少した。また旅行代理店サイトはマイナス55%、ホテルサイトはマイナス66%など、旅行関連サイトへの流入も大幅減になっている。

アジアに続きメディア消費が変わりつつある欧米

新型コロナの影響がアジアより遅れて出始めた欧米でも、メディア消費の状況は大きく変化しつつある。

ニールセンの予想では、外出自粛や禁止措置が強化されれば、米国では今後メディア消費が60%増加する可能性がある。

この数字は、過去データから算出されたもの。2017年テキサス州を中心に猛威を振るったハリケーン・ハービー。このとき、テレビ視聴率は通常時から56%増加。また2016年にニューヨーク付近を襲った豪雪で、テレビ視聴率は45%増加した。

これらの自然災害は一時的なものだが、今回の新型コロナの影響は長期化が予想されるため、メディア消費への影響も上記事例以上になることが見込まれる。

米フロリダの臨時病院の様子(2020年3月22日)

eMarketerが3月31日に発表したレポートによると、2020年3月新型コロナをきっかけに、スマートフォンの利用時間が増えたという人の割合は、米国で40%となった。この数字はこの先も伸びる可能性がある。同レポートによると、この割合が最大となったのは中国とフィリピン。ともに86%という高い数値になっている。

このほか高い値を示しているのは、ブラジル77%、イタリア72%、南アフリカ72%、シンガポール64%、スペイン64%。世界平均は70%だ。時間の経過とともに、米国でもこの水準に達する可能性がある。

欧州の中で最も深刻なイタリア。同国業界団体のデータによると、2月最終週のテレビ視聴率は前週比で6.5%増、感染者増が顕著なロンバルディア州では12%増加したとのこと。

イタリアでは外出禁止となっており、ニュースだけでなく、ソーシャルメディアやエンタメコンテンツの利用も顕著に増加しているようだ。

上記Statistaのまとめによると、イタリアでは3月に入り通常よりも頻繁にニュースを視聴しているという割合は67%となった。また、ソーシャルメディア利用が増えたという割合が60%(世界平均45%)、Netflixなどのストリーミング・サービス利用が増えたという割合が53%(世界平均51%)だった。

新型コロナ抑制で、ソーシャルメディアやクリエイターたちが果たす役割

新型コロナの影響で変わるのは、消費者のメディア消費だけではなさそうだ。ソーシャルメディアのコンテンツも変わってくることが予想される。

外出自粛・禁止で外に出れない人が増えるなか、YouTubeは#StayHomeとともに、インドアで楽しめるコンテンツを増やす取り組みを開始。クリエイターたちに自宅でのアクティビティを楽しむためのコンテンツ制作を促している。

これに呼応し、有名クリエイターたちは上記ハッシュタグともに、料理、勉強、掃除などのコンテンツを配信するようになっている。

またクリエイターたちも工夫を凝らし、新しい形の動画を配信し始めている。イタリアやスペインで人気が高まっているのが「バルコニー演奏」動画。外出できない近隣住民を楽しませるために、自宅バルコニーで演奏を行い、それをYouTubeで配信。各地で広がりを見せている。


バルコニーで演奏するスペインのアーティスト、配信日3月17日、4月1日時点で約120万回再生(YouTube MUSIC COVERS & CREATIONチャンネルより)

自宅にずっといることで気が滅入る人は少なくない。長期化の様相を呈する新型コロナの影響。人々のメンタルヘルス維持にYouTubeやクリエイターたちが果たす役割は非常に大きいといえるだろう。

[文] 細谷元(Livit